創士、訪ねる
「……久しぶりだね、創士君。こんな時間にどうしたの?。私眠たいんだけどー。さっき寝たばっかりなのに〜。」
夏とは思えない温度に冷やされた棟内。長袖長ズボンといった季節をバカにしてるとしか思えない服装もその温度では適正であると言わざるをえない。そんな装いの銀城が目をこすりながら訪問者である創士を見つめる。
「こんな時間って。一応昼だからそこまで悪い時間でないと思うが。まぁ、いい。今日はお前に用がある。」
現在時刻は午後1時。別段訪問を咎められるような時間ではないしもちろん寝てていい時間ではない。しかしそんな事に銀城葵は縛られない。
「落ち着きなよー、取り敢えず入って入って。」
銀城が建物の奥へと歩を進める。その際裾を引きずってしまっていたが。
「…はぁ、分かったから…その裾をなんとかしろ。」
そう言い創士が銀城のズボンの裾を折り込んで捲り上げる。
「いやん、創士君は大胆だなー。そんな事をしたって何も出ないよ?。はい、ジュース。」
何もでないと言いながらジュースを出す銀城。しかし、
「なんだこれは?。お前こんな物を飲んでいるのか?。」
創士が銀城から渡された飲み物。ペットボトルに入ったそれは紫色をした毒々しい飲み物だった。
「偏見はよくないよ?。ほら座って飲んでみて。」
創士に着席を促す銀城。
「座るところがないんだが?。」
物が散らかる床を見ながら創士が言う。
「…えーと、えい!。」
床に散らばるものたちを押し込み無理やりスペースを作り出す銀城。掛け声は女の子だが行動が死んでいる。
「全くお前は…変わらんな。…あまい!。甘過ぎる。」
取り敢えず現れた床?に腰を下ろした創士が銀城が渡した飲み物に口をつけるがその事に後悔するほどの甘味を感じ口を離す。
「えへへ…それでー、何の用?。」
「銀城葵、俺と…訓練をしてくれ。」
創士が今日銀城の元を訪れた理由を話す。その目は真剣そのものだった。
「ヤダ。」
即答である。その目は真剣そのものだった。
「…………。」
「…………。」
2人の間に沈黙が流れる。
「…俺の言い方が悪かったな。俺に手を貸してくれ。これは取り引きだ。」
「んー、取り引き?。…それで私は何をしたらいいの?。何をしてくれるの?。」
取り引きと言う言葉を聞き僅かながらに話を聞く気になり条件を確認する。
「お前は俺に魔法を見せ、俺に撃ってくれ。…俺からはそうだな、『月華亭』…」
「いいよ、やるやる。いつが良い?。私は基本的にいつでも暇だよ。月華亭はなる早で。」
創士の話の途中で食い気味に取り引きに応じる銀城。甘い物は好き、でも人気店に並ぶのはめんどくさいといった彼女のジレンマをついた創士の作戦勝ちと言えるだろう。因みに月華亭とは女子に人気の洋菓子屋であり、連日多くの人が列を作っている。
「そうだな、明日でどうだ?。菓子もその時に渡すとしよう。」
「ん、取り引き成立だね。もし履行しなかった時は…暴れちゃうから。」
今日イチの真剣な顔つきで銀城が言う。
「俺を信用しろ。(若草が月華亭に伝手があると言っていた。頼む事になるな。)約束は必ず守る。」
「ふへへ、楽しみだな。…あ、もう用ないなら帰ってね。私は寝るから。」
「…あぁ、そうだな。そろそろお暇するとしよう。」
創士が立ち上がり玄関へと向かう。
「見送りはしないからねー。」
後ろから銀城の声がかかるが創士はそれに反応せず建物をあとにする。
「やれやれ、若草に頼むとなると中々代償は高くつくな。…仕方ないか俺が前に進むためだ。」