第三十六話
クルルは強いて言えばお前の母ちゃんになるし、直接の血のつながりがないとはいえ俺の妻なのでそんな目でみんな、とレオに言っていたらペロリに見つかって小一時間説教されました。
実の子供相手に情けなさ過ぎる、という幼女のお叱りは耳に痛すぎますね。反省します。
館に戻ってはいはい大レースにしけ込むレオに、ペロリが面倒を見ていたルナまで参戦。二人そろって壁に向かって全力はいはいするのなんで。危なすぎて放っておけない。
二人の面倒を見ていたらクロリアになんともいえない顔で見つめられた。仕事を頼みたいんだけど子育ても仕事のうちだから何も言えないぜどうしようって顔だ。
ペロリとやってきたコハナに促されて、二人に子供を預けてクロリアと執務室へ。
「まず温泉掘りの状況だが……ピジョウのどこに水源があるか理解しているか?」
「……街から離れたところに湖があったような気がする」
「ピジョウは鳥が横を向いた形に例えられる。言うなればつま先のあたりに大きな山があり、その麓に湖があるぞ」
呆れもせずに説明をしてくれたクロリアに感謝。
「それと温泉に何か関係があるのか?」
「山を調べてみたが、つい今し方休火山だとわかったところでな。峰の岩陰なんかをみたら湯が沸いていたそうだ」
「……あっさり解決か?」
「街に引くには距離があるから難しいな。とはいえ温泉地域を作ることはできそうだ」
「……じゃあやっぱり解決か?」
「ところが温泉文化はあんまり根付いてない。お前が元いた世界でどうかはしらないが、ハッキリ言って温泉はそこまで人気がない」
「解決が遠のいたな」
「温泉に魅力がないわけじゃない。ただ……普及してないんだ。その良さが、とくに人間世界の連中に」
ルーミリアには温泉があったけど、観光客が押し寄せて困ります! みたいな感じじゃなかったもんなあ……どちらかといえば貴族の遊びみたいな雰囲気あった。お風呂文化が根付いてないせいかね。
でも考えようによっては、宣伝次第のような気もするな。なにせスフレの港町ハルブにあった公衆浴場は毎日客が入っていたのだから。気持ちいいとわかれば利用するはずだ。費用が高ければ難しいだろうが、そんなの入湯料を安めにすれば済む話だ。
なるほど。
「放送局を作るって案はちょうどよかったかもな。温泉に入る宣伝もセットで流そうぜ」
「それは……考えなかったわけじゃないが、思うにお風呂が温泉に負けないか?」
「習慣が身につくための窓口は広げるべきだ。それがお風呂だろうと温泉だろうとどっちでもいい。温泉が気に入れば家でも入れるお風呂に需要が生まれるだろ、毎日山に行くのもめんどいし」
「……元も子もないな」
「だが、人も魔物も身近にあれば楽だと思ったりしそうじゃないか?」
「まあ、たしかに。となると……クルルに宣伝作成を依頼するか?」
「初手から大忙しだな、あいつ」
タカユキは気軽に仕事を頼みすぎかな、とか言って怒ったりしないだろうか。ちょっと不安。
「まあそれは勇者から頼んでもらうとして。祭りと合戦の目玉はどうする?」
「その問題があったか……」
椅子に身体を預けて天井を睨む。
「温泉とか風呂を使った催し物をするか?」
「耐久、何時間入れますか、とかか?」
気乗りしないクロリアに苦笑いを浮かべる。
「やっぱり微妙かな」
「ピジョウの娯楽はまだまだ限られているからな。別に悪くはないと思うが……もう少し遊び心が欲しい」
「うーん」
遊び心か。難しいことを言うなあ。
「カップル限定。あつあつの熱湯風呂にどのくらい入れますか? ……とかは?」
「小さな物議を醸し出しそうだが、まあ……面白そうだ」
お前も参加する羽目になりそうだけど、とクロリアがからかうように笑うが構わない。
「参加するのが楽しい催しを増やそう。見ていて楽しい、ももちろん大事だけどな。そういう意味で、合戦にそういう要素を入れたいんだけどなあ」
「見ていて楽しい要素ね。脱衣があるから十分話題にならないか?」
「そうなんだよなあ……」
男は美女の、女はイケメンの脱衣が見れたら、安直ではあるけど楽しいと思うんだ。
「あらゆる人を脱がせることを前提にしたルール改正とか?」
「脱ぎっぷりを競うのか? ……それはなんていうか、どうなんだ」
あ、常識人の元魔王が渋い顔してる。
「脱衣っぷりに応じた手当ても出すとか。ほら、次のも魔界からテレビ局に来てもらって番組として放映するわけだろ?」
「……まあな」
「つまり参加者全員に働いてもらうわけだ。遊びが働きなわけ。で、活躍に応じて手当てを渡すその枠組みに、」
「脱衣も入れる、と」
「より正確に言えば、盛り上がりっぷりに応じて、かな」
「……また次から次へと妙なことを考える奴だ」
けど草案をまとめてやるよ、と微笑むクロリアは頼もしいなんてもんじゃなかったさ。
つづく。




