第三十七話
深夜、俺はルカルーの手を握りしめて見守っていた。
俺の手はみしみしと微妙な音を立てている。だがそれ以上に、
「うううううう! うううううう!」
この世全てを恨んでそうなうめき声をあげるルカルーの声の方が凄かった。
「息を吐くんです! さあ、がんばって! もうちょっとで最後ですよ! せーのっ」
「ひっ! ひっ、ふうううう――んぁああああああ!」
ルカルーの激痛にあげる声の悲痛さがすげえ。
ベッドに敷かれたタオルにのったルカルーの股間に向かっているのはコハナだ。
ペロリもナコも寄り添っている。
「ルカお姉ちゃん、がんばって!」
「ふぁいと! 頭でてきたから!」
二人の声に涙を浮かべた顔で頷き、ルカルーが枕と俺をそれぞれの手でぎゅううっと握りしめて息を吐く。
押し出されて出てきた赤子は既に二人。クロリアが産湯で洗っている。
「ふうううううう! ううううう!」
泣きべそを掻きながらルカルーが目をぎゅっと閉じて、痛くて力んでしまう身体を意思でねじふせて息を吐き、そっと赤子を産み落とす。
クルルとクラリスの時には同席しないで、と嫁二人が言うので目にしなかったけど、今回は別だ。ルカルーは俺にどうしてもいてくれ、と言ってきた。
そして痛感した。出産は戦いだ。
「出ました! 出ましたから、ほら!」
産み落とされた赤子をタオルにくるんで、顔を拭う。
すぐに泣き出す最後の子がいちばん元気がいい。まるで輪唱するように、先に生み出された二人も泣き声をあげる。
ペロリがルカルーの腹に触れ、頷いた。「もう生みきったよ。傷をふさぐね」
覗き込むまでもない。ルカルーのあそこは赤子の出産で傷だらけになっていそうだ。タオルの汚れっぷりからして想像に難くない。
「――、」
荒い呼吸を繰り返すルカルーがペロリを見つめ、ナコをたぐりよせた。
唇を開く。何かを言うんだが、言葉にならない。けれど二人は理解しているようだった。
「待て――……よし、へその処理をした。すぐに並べる」
「女の子が三人ですよ」
クロリアとコハナがルカルーの隣に赤子を三人並べる。
くしゃくしゃの髪、閉じられた目元、泣き声を上げる口。どれをとってもそっくりだ。
まさか三つ子を産むとは思わなかった。けどすごい。すごすぎるぞ、ルカルー!
「よくがんばったな……」
「ん……ぁ、」
何かを言おうとするルカルーは、けれど憔悴しきっていて何も言葉が出てこないようだった。
汗で張り付いた前髪を撫でつける。ルカルーの目が俺からペロリとナコへと向いた。
二人はベッドの縁に立ち、歌声を響かせる。
それはクルルとクラリスの時には聴かなかった歌だ。
ふわふわと浮かび漂う光の精霊たちが三つ子に集い、光を注ぐ。
「……ルーミリアの祝福です。生まれた子に歌うと、強き子に育つという言い伝えがあるのです。ルーミリアに住むどの種族もやる約束事なんですよ」
なるほどな。スフレにも何かありそうだし、クルルとクラリスはやってそうだ。あとで聞いてみるか。
それにしても。
「……――」
満ち足りた顔で我が子を見つめ、そのまま耐えきれずに眠りに落ちるルカルーの頭を撫でる。
名前を考えないとな。前回は二人に駄目だしされたので、今度はちゃんとしないと。
◆
翌日、どちらかといえばぺたんこだったのに妊娠・出産を経て少しふくらんだおっぱいで初乳をあげるルカルーを眺めながら俺は恐る恐る提案しました。
「名前、なんだけど……」
「タカユキが決めてくれ」
「い、いいのか?」
「……ルカルーははじめから、お前に決めてもらおうと思っていた」
慈愛に満ちた微笑みに照れる。
「そ、その……三姉妹だろ? で、ルーミリアは今頃まだ冬で。雪が降る時に祭りがあって……なので」
咳払いをした。き、緊張するな。
「シラユキ、ミツキ、カレン……で。俺の世界で言う、雪と月と花のイメージを入れた。月だけだとルナとかぶるから、俺の世界でいう満月にしたんだけど……」
どうでしょう? と思いながらルカルーを見たら、彼女は一人一人の頭を撫でて囁く。
シラユキ、ミツキ、カレン。
「決まりだ……」
ベッドの身体を預けているルカルーに近づいて、ベッドに腰掛ける。
三つ子だけあってそっくりだ。みんなしてルカルー譲りの獣耳と尻尾が生えている。
「強い狼に育てる」
「可愛い狼になるかもしれないぞ?」
「だめだ……レオとルナを守れるくらい、三人とも強い娘にするんだ」
もう決めてるからな、と珍しく笑いながら俺にすまし顔をするルカルーに寄り添って赤子を見つめる。お乳をあげ終えたルカルーがそばに寝かせる。
するとどうだ。すぐに眠っちまうんだ。三つ子揃っておねむなの。
「ひ、ふ、みつどもえ」
「なんだ?」
「いや、やっとかなきゃいけないかと思って……こほん!」
ルカルーの腰を抱いて引き寄せると、案外素直に身体を預けてきた。
「お前の調子が戻ったら式をあげよう」
「……ルーミリアの、ルナティクにある教会がいい」
「あそこが?」
「ああ。あそここそが……ルカルーの原点だから。あそこで、身内だけで……小さな式が出来ればルカルーは満足だ」
「わかった」
クロフォードやピジョウに来た狼連中が納得するとは思えないが、大事なのは何よりルカルーの気持ちだ。
とはいえ、無視もできないな。
「最初の放送のネタにしてもいいか?」
「がう……それくらいは我慢する」
俺の首元に顔を埋めてくるルカルーの頭を撫でた。
しかしこれで子供が五人か。領主の仕事がんばらないとなあ。
いや、それにしても……やばい。
「可愛いな……」
「がう……」
二人で眠りに落ちた三つ子を飽きることなく見つめる俺たちである。
つづく。




