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第二十二話

 



 目玉は何かないかとルカルーに相談したら、彼女は頭をおさえながら言ったよ。


「参加する目玉か? それとも、番組としての目玉か?」

「……ええと」


 待て。落ち着け。

 肉体労働専門のルカルーの思いもよらない返答だったけど、落ち着け。

 こいつは回りをよく見ているし、どちらかといえばよく気がつく方だ。

 それに帝国を追われてスフレにまで逃げたが、それだって何も考えなしにできることじゃない。

 これで結構立ち振る舞いを心得ている奴なのだ。

 ルナティカ・ルーミリア姫……できる!


「なぜ決め顔でルカルーを見る?」

「ちょっと考え事しててん」


 咳払いをしてから、俺は頭を下げました。


「すみません。その目玉の違いを教えてください」

「……がう」


 困った顔で俺の身体を起こすと、ルカルーは俺の手を引いて歩き出した。

 向かった先は現在建設ラッシュのまっただ中なピジョウ共和国の中にある居住区の一つ。

 土台を組んで石材を積み重ねている屈強な狼の男達にルカルーが声を掛ける。


「わふ! お前たち、話を聞かせてくれないか」


 ルカルーの呼びかけに男達が俺たちを見た。


「なんですかい?」「姫さまだ!」「姫さま、なんすか?」


 屈強なのにみんな、ルカルーと同じ尻尾をぱたぱたと振っている。

 歓迎されてるようだ、どうやらな。


「ここいるお前たちは、祭りに参加したな?」


 ルカルーの問い掛けにみんながそれぞれに頷いた。


「もちろんっすわ」「いきましたぜ」「最初の祭りだもん、当たり前っすよ!」

「二回目の祭りの目玉を考えていてな……何か不満はないか?」


 ふまん、と言って男達が顔を見合わせた。


「次も合戦だけっすか? 俺、女の子ナンパしたかったけど遊び場が少なくて困ったっす」

「お前、姫さまになんてこと言うんだ」

「えーでも兄さんもぼやいてたじゃないっすか。祭りで遊びたいのに、そもそもの遊びがないって」

「そ、それは」


 男が言いよどんだ時だった。


「おめえら、うるせえぞ!」

「「 へい! 親分! 」」


 誰かの大声に狼たちが一斉に背筋を正す。

 訓練が行き届いてんなあ。

 建設中の家の中からガタイが良いおっちゃんが出てきた。

 筋肉だけじゃない。精悍な顔つきから溢れる気迫がすごい。

 そいつの威厳はちょっとしたものだった。

 さしずめ、このおっちゃんがこの群れの主なのだろう。

 上半身裸で汗だくでおっちゃんがやってくる。


「すみません、姫さま。なにせ学がねえんで……うるせえ連中で、しつけがなってないんです」

「構わない。気にはしない」

「そうはいきません」


 悠然と構えるルカルーの前におっちゃんが膝をついて頭を垂らす。すると不思議と、他の連中もそれにならう。

 ルーミリアの作法なんだろうか。


「姫さま、なんなりとお申し付けください」

「顔をあげよ、ルーミリアの名の下に、問いに答えてもらいたい」

「はっ」


 立ち上がったおっちゃんが胸に拳を当てて直立不動になる。それに慌てて他の男達が続く。


「祭りに思うところはないか」

「……国のやることに文句なんて」


 おっちゃんが俺をちらっと目を伏せる。けれどルカルーは構わない。


「いい。許す。そなたたちももはやピジョウの柱。その意思は国の未来に繋がる。申せ」


 こうして毅然と振る舞ってみせると、なるほど。

 彼女は王族の一人だ。間違いない。


「さっき連中がぼやいてましたがね。娯楽が足りません……一回目はそれでも合戦があったからいいが、二回目以降はね」

「何を求める?」

「盛り場と若い奴は言うだろうが、俺からしてみりゃあうまい飯と酒があれば満足できる……強いて言うなら」


 強いて言うなら? 俺が尋ねると、おっちゃんは少しだけ照れた顔で呟いた。


「故郷の歌が聞きてえんです。ルーミリアにはいい歌がたくさんある……ペロリシア嬢の歌をもっとききてえんです」

「親方、ペロリちゃんの大ファンっすからね」

「うるせえ! だまってろ!」

「へい!」


 ルカルーが俺に笑みを向けてきた。

 なるほどなあ……娯楽か。


「仕事の途中にすまなかった。ありがとう……領主は感謝している」

「いや、それは俺の口から言うよ……ありがとな、みんなも!」


 俺の呼びかけに男達が笑ってそれぞれに答えた。

 立ち去るルカルーに続こうした時、おっちゃんに腕を取られた。「領主さま、内密にいいですか?」

 ちょっと意外な気持ちでふり返る。ルカルーに意識を払いこそすれ、おっちゃんは俺にあまり構わなかったから……どんな用事かわからないのだが。


「なんだ?」

「……あんま、うちの姫さまを働かせねえでください。身重でも気丈に働く強さがルーミリアの女の気高さなんで、男が大事にしてやらねえと」

「……おう」


 気を遣われているし、心配させてるんだな。

 確かにおっちゃんの言うとおりだ。クルルにしろクラリスにしろ、大事過ぎるくらい大事にしていたけど……ルカルーはそういう不満を言わないし、不安を感じさせもしない。

 強く気高い女であり続けたから。

 なるほど、確かに俺が気をつけなきゃいけねえな。


「すみません、差し出がましいことを」

「いや、助かる。気づいたことがあるならまた教えてくれ、今みたいに」


 おっちゃんにお願いをしてルカルーの隣に並んだ。

 素直に言っても聞かないだろうけど……心配ではあるんだ。

 ルカルーをなだめる手を考えながら、同時に思い悩む。

 二回目の祭りを開く前にしてすでに目玉が足りないピンチ。

 これをどう乗り越えるか……みんなの不満を解消する、か。

 それだけでいけるのか? 不満を潰したら満足になる?

 コハナが教えたかったのは、もっと違う何かのような気がする。

 単純な理屈の先にあるあいつの願いはなんだ。

 やれやれ。一難去ってまた一難。

 もう少しのんびりしたいが、そのためには国もなにもかも軌道にのせないとな。

 張り切っていきますか!




 つづく。

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