第二十一話
祭りに目玉が欲しいって言われてもなあ。
特に浮かばないですけどね。
実際、街中に出てみると、あちこちで活気のある声が聞こえる。
「人間世界にも魔界にも持って帰れるお土産スイーツはこちらへどうぞー!」
「魔界製の電化製品はこちらー! 最新式の発電機も今なら大特価だよー!」
「スライムの握る飯! スラ飯販売中だよ!」
呼び込み。おい呼び込み。最後のあれ! 思わずふり返って見たら、ペロリがルカルーとナコと三人で並んでいた。
「おい、おい、おい、おい! なにしてんの!」
「あ、お兄ちゃん! クルお姉ちゃんがドラマの話してたから、なんか気になっちゃって!」
思わず近寄って話しかけた俺にペロリは笑顔だ。
見れば行列ができていて、三人はその前の方にいる。俺がクロリアにお勉強の面倒を見てもらっていた間ずっと並んでいたのかな。
「おいしいんだって! ドラマとたいあっぷ? してて。結構人気みたい」
「……まあ、並んではいるな」
うまいのだろうか、と気になりはする。
「最近話題になってるんだよ? 共和国で実験的にお店を出すのが流行ってるの」
「そうなのか?」
理屈がよくわからないんだが。
きょとんとする俺はナコを見ると「自分にその手の説明もとめるな」とツンケン顔。
お前はそういうクールなところがあるからいいと思う。
「魔界ほど規制が厳しくないから出店しやすい」
意外や意外、口を開いたのはルカルーだった。
「人間世界ほど法整備もまだ追いついてない。だから共和国で店を出す。話題を集めている間に、魔界の業者は魔界でも同じ商品を提供できるように準備をする。そして」
「満を持して発売ないしサービス提供開始。大繁盛、か」
商魂たくましいなあ。
「クロリアとクラリスの指示で、誰かに直接的な危害が及ばない範囲でなら……なるべく黙認するようにしている。この店も、届け出は受領している」
語ればしっかりしている。さすがは帝国の姫君。
思わず尊敬の眼差しで見る俺に、ルカルーは照れくさそうに俯いた。「がう……」
俯く彼女のお腹はだいぶ膨らんでいた。
「動き回って大丈夫なのか?」
「だいぶ楽になった方だ。寝ているのは趣味じゃない……」
「わああ……!」
俺とルカルーの会話にペロリが目をキラキラさせているのなんだろう。
「買ったら二人で街を回ってみたら? たまにはさ」
ナコのそれはあからさまな配慮なんですが、ここは乗っておこう。
「この後、時間いいか?」
「……がう」
ルカルーの赤面を見るのは……正直、悪くないからな。
嘘だ。訂正する。
「…………ううう」
恥ずかしそうにしているこいつは、物凄く可愛いと思うよ。
だから悪くないんじゃない。最高だ。
◆
クルルの言うドラマのようにスライムが目の前でにぎりめしを握ってくれるパフォーマンスは大好評のようだ。
注文を受ける。高速で握って提供する。液体が付着した気配なし。
むしろ作られた拳の迫力がすごい。パンチの前に釘とか、あるいはゴムとかつきそうです。
でも食べてみるとふんわり握られた米粒たちが絶妙の塩加減で口の中に広がっていく。
正直侮ってた。マジでうまいのな。
「ああいう出店が増えてくれたら活気が増していいな」
「……がう」
隣を歩くルカルーはどこかそわそわしていた。
そう言えば二人きりで行動するタイミングってそうそうないよな。
最初の冒険で言えば狼帝の墓あたりか。
懐かしい。もうだいぶ前の話のようにも思う。
一人でしみじみしているのももったいないな。クロリアがくれた時間には制限があるのだから。
「なあ、ルカルー」
「……なんだ」
落ち着かない顔で俺を見てくるくせに、俺と視線が合うと慌てて視線を逸らす。
恋する乙女か。
でもそうだった。こいつは案外、強くて気高い表向きに隠れて実はすっごい乙女なのだった。
「指輪を探さないとな」
「……う」
こくん、と頷いた。
待ってたと文句を言わず、どんなのが欲しいとねだりもせず。
「式は……夢があるなら、叶えたい」
「…………」
ふるふる、と頭を振る。
「……あんまり、大々的でないなら、いい」
いじらしいなあ。
「ルーミリアへ行くか?」
「がう?」
「狼の宴に合わせてさ、こっちでもささやかな式をやるけど……ルーミリアの狼の宴の日に、大騒ぎするんだ。みんなで」
案外楽しそうじゃないかな、と思って切り出したんだ。
「……うう」
返事はない。けれど尻尾がぱたぱたと左右に振られている。
隠せてない。隠せてないよ、お前の本音!
「お腹の子はどうだ?」
「……順調。たくさんいる、みたい」
「そうなのか!?」
ちょっと待って。え? たくさんいるって、え?
「双子とかか?」
「三つ子……」
「ちょっと!」
思わずルカルーの脇を掴んで掲げた。
お腹に子供がいたって重くたって構うもんか。
「すげえじゃんか!」
思わず抱き締める。
「う、うう」
照れくさそうに俺の背中に手を回してきた。
「……自信、ない。ルカルーは……クルルやクラリスのようなママになれるだろうか」
「大丈夫だって。俺が保証するよ」
深呼吸した。
ルカルーから日向のやわらかい香りがする。
「お前がママになるんだよ」
いや、違うな。これなんか違うな。強いて言えばえっちな響きしかしないな。
「……がう」
ほらみろ! ルカルーもちょっとなにいってるんだろう、ってきょとんとしてるよ!
慌てて咳払いをしてから言い直す。
「ルカルーらしく、ゆっくりと……なっていくさ。俺だってそうだし、みんなもそうだ」
「ルカルーのお父さまとお母さまも?」
「……きっと、そうだったと思うぞ?」
少なくとも夜泣きで起こされる経験値とか、よそ見をしたら次の瞬間にはどうなってるかわからないくらい暴れられる恐怖(赤子なのに!)とかは実際に体験しないと増えないからな。
「式をやろう。子を育て、俺たちの群れを作っていこう」
「……がう」
クルルやクラリスなら、自分の願望を訴えるだろう。
だから俺も付き合いやすいし気持ちを返しやすい。
そこへいくとルカルーは内にため込むタイプだ。クロリアが指摘するように、俺がもっと気をつけなきゃだめだ。
「よし! よしよしよし!」
「あ、うう?」
頭を撫でると真っ赤な顔で俺を見上げてきた。
尻尾はずっとぱたぱた振られている。
「不安なこと、洗いざらい吐け。じゃないと撫でるの止めてやらない」
「い……言いたくなくなる……うう」
唸りながらも素直にされるがままになっているこいつは可愛い。
大事にするべき奴が増えていく。彼女はもちろん、そのお腹にいる三つの命も。
元の世界で言えば俺は間違いなく地獄へ堕ちるだろうが、構うものか。
どうせ堕ちるなら、全員まとめて幸せにしてから堕ちてやる。
ペロリも最初の旅で言っていた。
みんなを幸せにすればいい。
みんなの不満を満足に……いいや、違うな。
みんなの声にならない期待を現実に変えていくんだ。俺が、この手で。
それが俺なりの生きる意味なのかもしれないと、ルカルーの頭を撫でながらしみじみ思ったのだ。
つづく。




