9 同じクセ、やめてよ
急いで車内のモニターに目を通す。
敵車両の現在地。1台がすぐそばまで迫っているが、残りの2台はまだ遠い。
トラップの設置場所のデータも表示されている。
「カイン、南東基地に現状を報告して。この画像データと、さっき誰かがトラップにかかったこと。
あと援助に来る航空機にもこの座標の車両は撃たないように伝えて」
「報告完了済み」
「……そうなんだ。
今、リーダーっぽいところだったのに」
……二名編成にリーダーはないんだけれど。彼が『やってくれた』分、私も少しだけ先輩風を吹かそうと思っただけ。
妙な悔しさを覚えた瞬間――
『おい!てめぇ、騙しやがったな!聞こえてんだろ!――』
足元の死体の通信機から、わめき声が響く。かまってやる時間が無い。
相手もこちらも同じ機銃。こっちは背面が完全に割れてるから逃げながら撃つのは苦しい。
奪った車両を動かし、側面を崖につけ、機銃だけ崖から覗かせる。車両の側面も背面も狙われない、ちょうど良い具合だ。
「崖下でちょうど良かったかも。こっちにはカインもいるし」
タイヤが地面を擦り付ける音を立て、重い車体を大きく振りながら敵の車両が現れた。
銃座につき、できるだけ側面、装甲の薄そうなところを狙う。
カインは車外で対戦車ライフルを撃っている。数発撃ち込んでようやくタイヤが一本破裂し、車体が右に傾く。速度が落ちるが止まる様子はない。
こちらは車両の上部を撃たれ続けている。音の感じだと、まだ耐えられる。
「カイン、平気?カメラ狙えるんならそっちを……」
視線を照準から車内のモニターに移し、それ越しに彼を見た。
――まただ。
ライフルを構えたまま、顎の汗を拭う仕草。これも記憶の中の『あの人』と同じ――
それだけじゃない。
撃つ。
ボルトを叩く。
撃つ。
もう一度叩く。
コッキングの時に叩き下ろす手の指が少し開いていて。
手の角度。何気ないのに、同じ癖。その繰り返しに、『あの人』が重なり、目が離せなくなった。
「隊長、ねぇ……やっぱり……隊長なの?」
久しぶりに会えた気がして、喉が震えた。
目の前に敵がいる。頭の半分が撃ち続けろと怒鳴っていた。
なのに、またすぐに気配が消えてしまいそうで、カインに重なる隊長を呼ばずにはいられなかった。
「指示:射撃継続
情動的反応確認。
ナノマシン指示:ホルモン分泌抑制による対処」
こちらを見もせずに冷たく返される言葉に、一気に現実に引き戻された。やっぱり『あの人』……隊長じゃないんだって。
でも……だって、機械は汗なんかかかないのに。あの仕草は何なの?
動揺で思考がぐらついてるのに、呼吸と身体の震えが収まっていく。
指示を受けた上位ナノが作用したのだろう。
「破壊完了:車内モニター用カメラ」
カインがドライバーの目を奪った。彼はちゃんと仕事をやってる。
勝手に感情をコントロールされるのは腹立たしいけど、説教……とお仕置きは敵を片付けてからだ。
『俺たちが逃げると思ってたんだろ!
退くわけねぇだろうが。俺を誰だと思ってやがるッ!』
今度は死体の通信機じゃなくて、スピーカー越しにあいつの声が響いた。
警戒してもっと距離を取ると思っていた。でも相手は引くつもりは無いらしい。
正面の目を失ったドライバーが岩を盾にするように車両を止めた。
もう少しこちらに近付けば、カインが手を出せる……そんな距離で。
死体からヘルメットを外し、その通信機のマイクのスイッチを入れた。深く息を吸い込み――
「私たちが霧の外に出た途端に臆病だな! Valour&Equity……勇気と公平、だったか? 聞いて呆れる。突っ込んでこいッ!」
震えを誤魔化すように、必死に声を張り上げた。こんなふうに挑発するなんて初めてだったから。
スピーカーのハウリング音が短く響いた。
『チッ……お前、もしかして南の女かよ。
飽きられてこっちに飛ばされたってわけか?
なぁ、俺のこと、ただドライブしながら的を撃つだけの馬鹿だとでも思ってんだろ。
俺たちは突っ込まねぇ。”ここ”だ。この角度、この距離が一番俺達にとって安全だ。
素人のお前に教えてやる。
武器は対空、対地両用仕様だ。戦闘機に見つかっても簡単に追い払える。
アレは鬱陶しいが柔らかいからな。
でも、戦車とはやり合わねぇ。火力が足りねぇからだ。そもそも車両を潰しに来たわけじゃねぇんだよ。』
そこまで言われてはっとした。
通常、敵のエリアに押し入るような車両は、空からの攻撃を警戒して天井も固くする。
……でもこれは、交戦を避けるステルス車両だ。
『気付いたか?
何年も南にいたんなら武器からそれぐらい想定できなきゃ駄目だろうがよ、お嬢ちゃん』
彼の言葉をなぞるように、天井の着弾音が変わった。
読んでくださってありがとうございます。
バンピングの手の動きフェチです。




