5 盾とわたしの間
スピーカーのハウリングが止んだ。
……安全な車両からあの野郎を引きずり出してやりたい。
でもこの状況ではわずかでも反応を見せることすら奴らを喜ばせるだけだろう。
今の私にできるのは、せいぜい地面か白い蒸気を睨みながら、1秒も早く味方の到着を祈るだけ。
「……うちの支援、あと何分で来ると思う?」
「支援要請通信より5分42秒経過。最速で5分程度と推測」
「5分……」
私たちが霧に巻かれて、静かに観察されていた時間が5分。敵地でこの状態を維持するのは、10分程度が限界のはず。
なら、今のこの刺激しながら反応を見るフェーズもまた5分だろう。
それが終わればさっさと私を処分して、次のターゲットか撤退へ移行する。
霧の奥から発砲音が響いて、私を追い立てるように着弾音が近付いてきた。
舌打ちが漏れる。
「……やっぱり」
私の呼吸か心音が落ち着いたところで撃ってきた。
カインが私の頭を低く押さえつけ、一歩前に出た。
そして、淡くライトブルーに揺らめく光の膜――エネルギーシールドが展開する。
新しい装備なのかカイン専用だか知らないけど、こんな装備は初めて見る。
ただ、盾のハンドルに表示されているシールドの残量ゲージはみるみる減っていく。
電磁ノイズを撒き散らす霧の中でエネルギーシールドを維持するのは、土砂降りの中で焚き火をするようなものだ。
案の定、滑らかなシールドの膜がすぐに不安定に波打ち始めた。
やがて、土や石が弾ける音がすぐそばまで迫ってきて、身を縮めた。
カインが斜めに構えた光の膜が、弾丸を受け流していく。
なんとか機能していることに少し安堵して、この景色に奇妙な既視感を覚えていた。
昔、こんな風に守られたことがあった。あの時はありふれた金属の盾だったけれど――
……いや、思い出に浸っている場合じゃない。
防ぎ切れなかった弾丸がカインのボディに当たり、彼の身体が揺れた。
撃たれた本人は無反応。
それでも私の肩にかかった彼の重みが彼の受けたダメージの大きさを語っているようで、私のほうが息が詰まった。
彼は何事も無かったかのように立ち上がり、私を見た。
金属と被膜材に覆われたその大きい手が、私の知ってる角度で視界に入る。
私の頭を撫でた。ヘルメットとその手が触れて、コンッと音が響く。
「! ……どう、して、今の……」
盾を構えた動きだけじゃない。
頭を撫でた仕草までも、あの時の『あの人』と同じだった。
ただ、続けて聞こえるはずの声が聞こえない。私の無事を確認して、あの時の彼は少し笑って「ほら、大丈夫だったろ」と言ってくれた。
私のせいで、もう戻ってこないかもしれない人。
もう一度目の前の機械にあの愛しい気配を探したけど、片膝を付く彼の姿からそれは完全に消えていた。
幻覚でもいいから、もう少しだけでいいから、あの感覚に触れたかったのに。
頭を振って、自嘲混じりにため息をついて切り替える。
……こんな状況で、こんな風に思うなんて。
それこそ質の低いジョイントの吸いすぎだ。
単に、私の頭についていたゴミを払ってくれただけかもしれない。
読んでくださってありがとうございます。少し書き直しました。(2026/3/4)
肝心のサイエンスな部分はふわっとしてます。よくわからないところもふわっと楽しんでいただけたら嬉しいです。
今回だと盾は大事なところはシールド化されてて動作はするけど起動後はノイズの影響を受けるって感じで。ふわっと‥‥。
感想いただけたらモチベになります。よろしくお願いします。




