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死ねない私の鉄のテディベア  作者: ノイズラズリ
なら、よかった
16/17

2 手首のお揃い


 ブリーフィングの後はサーミルと敵基地内の構成予測と侵入手順、装備の確認。いつもの流れだ。


 今回は電子探知される可能性を下げるため、作戦エリアにはパッドも持ち込まない。腕時計もアナログ時計を使う。

 それに、アナログ時計の方が体感的正確性は高い。秒単位でタイミングを合わせるにはこちらの方が最適だ。


 基地の掛け時計の前、サーミルの隣に並んで秒針を睨む。

 彼がカウントを始めた。


「……5、4、3、2、1、マーク」


 時計のリューズを押し込んだ。

 サーミルが腕に巻いた時計を私に向ける。掛け時計、サーミルの時計、私の……明らかに私の時計の秒針が遅れている。


「……ちょっとリューズの遊びが大きかったから」


 それに今まで使ったことのない型だし。小さいし、堅い。……押しにくいんだ。

 私の言い訳に、サーミルが小さく笑った。


「これ、3度目だよマヤ。いい。僕がやるよ」


 彼が私の手首のそれをいじると、あっさり秒針のリズムが重なった。


「これでお揃いだね」


「ありがと……お揃いも何も、支給品でしょ」


 ……まぁ、言いたいことが分からないわけじゃない。

 潜入開始後、撤退までの間に私たちはお互いの顔を見ることはない。お互いを繋ぐのは短距離通信と、この寸分狂わずお揃いの秒針だけだ。


「……サーミル、緊張してるの?」


「え? あぁ、緊張してないわけじゃないよ。でも……そうだな、高揚してる。久しぶりだから」


 少しだけ笑いが漏れた。相変わらず彼は素直なのに掴めない。


 次は……ステルススーツ。

 中継基地の在庫には女性用の装備品なんてものはストックされていない。

 プレートキャリアもバックパックのハーネスも、本部から持ち込んでいなければ自分でどうにかするしかない。おかげで針と糸でベルクロ(面ファスナー)を縫いつける技術だけは上手くなった。


 でもステルススーツは半分電子製品みたいなものだから、ベルクロで留めるわけにはいかない。

 細いワイヤーでできる限り身体に沿うように縫い合わせなければ、繊維の弛みが屈折率を狂わせモアレを生み、視認性を上げてしまう。

 歪んだ輪郭を浮かべて敵基地で幽霊騒ぎを起こしたいのでない限り、調整を妥協する選択肢は無い。


「ステルススーツ、ダブつかないように調整しなきゃ」


 呟いて男性用のそれを取りに行こうと立ち上がった。

 彼が「あぁ」と思い出した顔で、私の乗ってきた車両に積んであった支給ボックスから取り出した2着のパッキングされたスーツをテーブルに置いた。

 片方は彼自身の、もう片方にはマジックペンで大きく『W』と雑に記されている――私のサイズ。


「……! どうしてここにこれが?」


「適材適所だ」


 どういう意味だか分からず首を傾げた。


「だって、君が来るなら、僕のペアになるに決まってるだろう」


 少しだけ得意気に笑って、彼は目線をパッドに戻した。


 俯いたシドルハニーの焼けた肌にパッドの光が反射している。

 チェック項目を見て「あとはハッキング用のデバイスを準備するだけだね」と頷いて、カールした彼の黒髪が揺れた。


 以前彼とペアを組んだ時、私が音を立ててしまい、怪しんで近寄ってきた敵を彼が静かにねじ伏せてくれたことがあった。ペアがサーミルでなければ失敗していたかもしれない。

 今だって完璧なんかじゃないけれど、あの頃の私はもっと……練度の低いお荷物だった。


 でも、彼はブリーフィングで私を推薦する前……私が来ると知った時から、わざわざステルススーツをオーダーして私が来るのを「待っていた」。彼は私が南部戦域で何かを持ち帰ってくると確信して、この重要な作戦のペアに据えたんだ。

 ここまで信じてくれたバディに報いるためには完遂させる以外にない。

 『この私』が死んでも成功させる。


 突然、サーミルのパッドが短い通知音を鳴らした。

 状況に変化があったのかと身構えた瞬間、彼が「へぇ」とふと表情を緩めた。


「見てよ、この鳥。マークスマンのヨハンが送ってきたんだ。新種じゃないかってさ。赤い羽根がピッと立ってかっこいいね」


 彼が柔らかい笑顔で差し出したパッドに映っていたのは、頭のてっぺんに赤い羽根を生やした、青い鳥の画像だった。


 ほんの数秒前まで、軍人の顔でチェックリストを見つめていたくせに。

 やっぱり彼はマイペースだ。


「うん

 ……面白い」


 少し脱力してそう返すと、彼は満足げにパッドを下げた。


読んでくださってありがとうございます。

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