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死ねない私の鉄のテディベア  作者: ノイズマリー
なら、よかった
14/15

2 敵わないな


 ブリーフィングの後はサーミルと敵基地内の構成予測と侵入手順、装備の確認。いつもの流れだ。


 今回は電子探知される可能性を下げるため、パッドも持ち込まない。腕時計もアナログ時計を使う。

 それに、アナログ時計の方が体感的正確性は高い。秒単位できっちりカウントするにはこっちの方がいい。


 基地の掛け時計の前、サーミルの隣に並んで秒針を睨む。

 彼がカウントを始めた。


「……5、4、3、2、1、マーク」


 時計のボタンを押し込んだ。

 二人で無言のまま3つの時計の秒針を目で追う。……明らかに私の時計の秒針が遅れている。


「……ちょっとリューズの遊びが大きかったから」


 それに今まで使ったことない型だし。小さいし、堅い。……押しにくいんだ。

 私の言い訳に、サーミルが小さく笑った。


「これ、3度目だよマヤ。いい。僕がやるよ」


 彼が私の手首のそれをいじると、あっさり秒針のリズムが重なった。

 黒いまつ毛に縁取られた琥珀色の大きな目で私の反応を観察してくる。……視線がうるさい。


 反応するのも癪なので、気付かないふりをして次の確認に移った。


 ステルススーツ。


 中継基地の在庫には女性用の装備品なんてものはストックされていない。

 プレートキャリアもバックパックのハーネスも、本部から持ち込めなければ自分でどうにかしてやるしかない。おかげで針と糸でベルクロ(面ファスナー)を縫いつける技術だけは上手くなった。


 特にステルススーツは半分電子製品みたいなものだから、ベルクロで留めるわけにはいかない。

 細いワイヤーでできる限り過不足なく縫い合わせなければ、繊維の弛みが屈折率を狂わせモアレを生み、視認性を上げてしまう。

 歪んだ輪郭を浮かべて敵基地で幽霊騒ぎを起こしたいのでない限り、調整を妥協する選択肢は無い。


「スーツ、ダブつかないように調整しなきゃ」


 呟いて男性用スーツを取りに行こうと立ち上がった。

 彼が「あぁ」と思い出した顔で、私の乗ってきた車両に積んであった支給ボックスから取り出した2着のパッキングされたスーツをテーブルに置いた。

 片方は彼自身の、片方は――私のサイズの。


 少し俯いたシドルハニーの褐色肌にパッドの光が反射している。

 チェック項目を見て「あとはハッキング用のデバイスを準備するだけだね」と頷いて、くしゃっとカールした彼の黒髪が揺れた。


 ふと、再会した時の彼の「やっと来た」と笑った顔を思い出した。サーミルは私が来ると知った時から、この重要拠点の運命を決める任務のペアを私に据えると決めていたんだ。


 当然、いつもと同じように本気で取り組むつもりではいた。

 でも胸の奥ではリスクの大きな任務への不安と、私なんかが、私しかいないから、選ばれてしまったから、という半ば諦めに近い義務感が苔生(こけむ)していた。

 まるで、沼地の湿気た空気が体の中をどこまでも錆びつかせていくような停滞。


 それらが一瞬で消えた。


 サーミル。彼はブリーフィングで私を推薦する前から、私が来るのを「待っていた」。

 ここまで信じてくれた私のバディに報いるためには完遂させる以外にない。それ以外の結果はすべて裏切りだ。


 『この私』が死んでも成功させる。


 突然、サーミルのパッドが短い通知音を鳴らした。

 作戦に変更でもあったのかと身構えた瞬間、彼が「へぇ」とふと表情を緩めた。


「見てよ、この鳥。また新種だってさ。赤い羽根がピッと立ってかっこいいね」


 彼が柔らかい笑顔で差し出したパッドに映っていたのは、この星で新しく発見された鳥類に関する軍内ニュースのページだった。


 ほんの数秒前まで、真面目な顔でチェックリストを見つめていたくせに。

 本当は根っこのところでマイペースなんだ。


「うん、面白い」


 私がそう返すと、彼は満足げにパッドを下げた。


ここまで読んでくれてありがとうございます。他の話もそうですがあちこち修正とか結構やってます。後から直せるのがweb小説の強み!

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