表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/10

10.サブクエスト

 朝、華世が出社すると、澪の姿が目に入った。


「お、おはよう」


「あ、おはようございます!」


 澪ちゃん、霧島君とはどういう関係?

 ねえ、付き合ってるの?

 出会いはいつ? どこで?

 ああ……、聞きたいことが多すぎる……。


「華世さん、どうかしました?」


「へっ? い、いや別に?」


「? あっ、華世さん! 朗報です! ゲームからの出会いも、あるみたいですよ」


 澪は、にやりと笑った。


「……」


「ゲームきっかけで始まる恋ですよぉ!」


 澪は嬉しそうだ。


「ふーん。そうなんだ……。よかったね。澪ちゃんもゲームやるんだ?」


「え?」


 華世はあからさまに冷たい態度をとった。

 そして、澪から逃げるように、距離をとる。


 わたしの方がゲーム知ってるのに。

 弓使いに憧れてるとか言ってたくせに。

 初心者の彼女には、手取り足取り教えたりするの?

 あのサンライズミストさんが?


「あーもう! まったく、誰が誰に言ってんのよ!」


 華世はひとり、頭を抱えた。明らかに様子がおかしい華世に、澪は違和感を覚えた。


「ん? 華世さん、なんか怒ってる?」




 その夜、華世は部屋に戻ると『魔物狩人の結び』にログインした。


「あれ? サンライズミストさん、いない。珍し……」


 華世は、カーテンを開け、向かいのアパートの部屋に目をやる。

 部屋は明かりがついていない様子だった。


「いないのかな……」


 結局その日、いくら待ってもサンライズミストが現れることはなかった。



 翌朝、華世は出勤前、アパート前を掃除する恵美の姿を見かけた。


「大家さん、おはようございます」


「あら、おはよう」


「体調、もう大丈夫なんですか?」


「ええ、もう随分と元気になったわよ。ありがとう。それより霧島君の方が心配よ」


「え? 何か、あったんですか?」


「なんか熱が出て、寝込んでるのよ。大学も行けてないみたいで」


「だから、ログインしてなかったのか……」


「こういう時、ひとりって大変よね。仲良しのいとこさんも来たばかりだし、そんな頻繁には来られないでしょうし」


「仲良しのいとこ?」


「一昨日は、いとこさんに連れられてオシャレなカフェに行ったみたいよ? あとで、何か作って持って行ってあげようかしら……」


「いとこ!? え、澪ちゃんって、いとこだったんですか!?」


 恵美は、華世の様子にきょとんとした。


 いとこが“重度のネトゲ廃人”って、あれは、サンライズミストさんだったのか!!

 点と点が線になり、華世の中で全てが繋がった。




 その日の夜、華世は、飲み物やカップアイスを持って、霧島の部屋の玄関前までやって来た。


「来てしまった……。いや、前、助けてもらったしね?」


 自分に言い訳をしながら、チャイムを鳴らす。

 ふらふらしながら、中から霧島が出てきた。


「き、霧島君、大丈夫?」


「大丈夫じゃないです……」


 華世は、霧島の額に手を当てる。


「まだ、熱あるじゃん! 寝てないと! あの、アイスとか持ってきたから、よかったら食べて?」


「ありがとうございます……」



「お邪魔しまーす……」


 来てしまった!

 サンライズミストさんの部屋の中まで来てしまった……!


 霧島はベッドに戻り、そのまま倒れ込んだ。


「あのぉ……、大家さんから聞いてね? ひとりだとこういう時、大変だろうからって……それで……」


 霧島は消えそうな声を発しながら、部屋に掛けてあるコートを指差す。


「そうだ……。姫華さん……。僕のコートのポケット……」


 え!? 今、姫華って言った?

 まさか……。いや、気のせいよね?

 いよいよ、幻聴まで聞こえるとは!!


 霧島が指差した先にあるコートのポケットに手を入れると、無くしたと思っていたイヤリングが出てきた。


「! これ無くしたと思ってたやつ!」


「観覧車のところに落ちてて、姫野さんのしてたのだと思って拾ったんですけど。そのまま返しそびれてたので」


「ありがとう……。あ、何か食べた? キッチン借りてもいい? 何か作るよ。アイス食べて待ってて」



 おかゆを持って華世が来ると、そこには、空のアイスのカップがあった。


「美味しくできたか分からないけど、おかゆ作ってみた」


「ありがとうございます……」


「ひとりだと心細いよね。食べられそうだったら、食べてね? じゃあ……」


 部屋を出て行こうとする華世の服を、突然、霧島が掴んだ。


「!」


「もう少しだけ、ここにいてくれませんか?」


「へっ……。い、いいけど……」


 華世の服を掴んだまま、霧島は目を閉じた。


 華世は、部屋にある霧島のゲーミングセットを見つめた。


 ご近所だからフレンドになりたくなかったわけじゃない。

 姫華がわたしだと知られ、嫌われるのが怖かったからだ……。

 サンライズミストさん、わたしって、ちっとも素直じゃないよね……。





 クリスマスイブ、この日も、朝から華世は『魔物狩人の結び』をしていた。


「ナイスー!」


 画面内の魔物が消滅し、すっかり元気になったサンライズミストの声が、ボイスチャット越しに聞こえてくる。


「サンライズミストさんも、ナイスー!」


「姫華さん、今日クリスマスイブですけど、朝からゲームでよかったですか?」


「サンライズミストさんこそ、クリスマスイブなのに予定ないんですか?」


「これが予定なんで! だって今日報酬2倍なんですよ?」


「まあ、そうですけど」


 華世は笑った。


「姫華さん、僕ずっとサブクエストについて考えてたんですけど……」


「え? 今日限定のサンタのサブクエストですか? 魔物からサンタを守るやつ……やってみます?」


「やっぱり、僕は全部のクエスト達成したいなって……」


「?」


「サブクエストも、クエストなんで!」


「はぁ……」


「あ、雪だ!」


 サンライズミストの弾けた声がした。

『魔物狩人の結び』の世界に雪が降り始め、画面上の姫華とサンライズミストの近くをサンタクロースが歩いてきた。


「クリスマス仕様の演出ですかね。サンタも来ましたね!」


「姫華さん、外、見てください!」


「へっ……?」


「外、雪が降ってます!」


「!? 外? そ、それは、どの地域も同じとは限らないから……。そちらは雪が? サンライズミストさんのところだけかも……」


「いいから、窓開けて! 姫野さん!」


「え……!?」


 ひ、姫野さん!?

 心臓が急にバクバク音を立てた。


 華世は、恐る恐るカーテンを開ける。

 ヘッドセットをした霧島が窓を開けて、こちらを見て手を振っていた。


「!」


 いや、バレてるやん!!


 華世は、窓を開けた。外は、雪が降っていた。


「そりゃ、フレンドになってくれないはずですね」


 霧島が微笑む。


「!」


「もうずっと前から、フレンドですもんね」


「なんで、わたしだって……!」


「プレイ中に、普通に霧島君って僕のこと呼びましたよ?」


「ええ! うっそ! 嫌だ!」


「姫野さん、かわいいですね」


 霧島は笑った。


「はぁあ!? 全然かわいくないし!」


「僕、サブクエストにも挑戦していいですか?」


「えっ?」


「クエストは制覇したいので!」


「!?」


「恋はサブクエスト、なんですよね?」


「!!」


「報酬は恋人でしょうか? 僕、必ず攻略してみせます!」


「はっ、はい……!?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ホワイトクリスマスに恋のサブクエスト攻略宣言。 このあとも華世は、霧島くんに振り回されながら、サブクエスト達成までたどり着くのではないかと思います。 完結までお疲れさまでした。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ