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【4節開始】『英雄たちの愛娘』  作者: 西日爺
4節 求めた強さ

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73.新しい力

リリアがBランクに昇格した。

やっと動いたCランク筆頭に、ギルドは少し浮足立ちながらも賞賛と尊敬が広がって行く。

だからと言ってリリア達の生活は大きく変わらない。昇格試験の結果が出ると、リリア達は翌日からウルルの森へと入って行った。

いつもの衛兵が昇格に喜び、冒険者を続けている事に驚く。衛兵の反応でたまたま周りに居た人も気づき、驚きと尊敬の視線が集中してしまう。

リリアは笑顔で返していたが、ハジメとエリスが少し居心地悪くしていたのでさっさと移動をする。そんな日常の、平和な一幕。

静かに、けれど静かにすることが許されず。リリアの昇格の噂はどんどんと広がり、未だ冒険者を続けている事が余計に尊敬の眼差しとなって広がって行った。



「なんだろうね」

「ホントにね。しかも俺と一緒に来てくれなんて、何かあったのかな」

リリアが昇格して10日程経った。当然リリアの元にはいくつもの勧誘が届いている。全て断っていたのだが何故かサシウス(ギルドマスター)も一緒に勧誘していて、お世話になっているだけに断るのに凄く困っていた。

グレンやライファからは実際に会っておめでとうを言われ、リズウェルからは抱きしめられていた。マリーにはまだ連絡が届いてないようだが、どういう反応が返ってくるか楽しみだ。

そして今日、そんな勧誘と賞賛の連絡に混じっていた手紙に従って、リリアとハジメはとあるお店に顔見せに来ていた。

エリスは依頼があって予定が合わず2人だけだが、久しぶりの2人きりは不思議な緊張も無く、とても自然な雰囲気の中に居る。

――ガラガラ

2人は何度も来て慣れた『閉店』が掲げられる入口を気にせず開けると、いつも通り何も並ばない武具屋の売り場を奥へと進んで行く。

「――こっちだ!」

和室に入ろうと靴を脱ぎかけると店のもっと奥、鍛冶場からニルグの声が聞こえてきた。

その声に導かれるように、2人はすぐに鍛冶場へと向かう。

静かな通路を雑談しながら歩いて行くと、休憩中だったのだろう。ニルグとソフィラがのんびりと座っていた。

「ニルグ老、お久しぶりです」

リリアが声をかけるとニルグは嬉しそうに口角を上げる。

「久々だな。聞いたぞ嬢ちゃん、昇格おめでとう」

「ありがとうございます」

ニルグの誉め言葉にリリアは素直に頭を下げてお礼を言う。ハジメも一緒になって少し頭を下げると、ニルグが2人に椅子に座るよう勧める。

椅子に座ろうとする、机の上に抜き身で置かれていた剣がハジメの視界に入った。

「(なんだろう)」

ハジメが普段使うロングソードより2回りは大きい、巨剣に分類すべき剣。ライファが持つ巨剣よりは小ぶりで、常人では振るのは難しいが運ぶくらいは出来そうだ。

「ニルグ老。今日はどういったご用件ですか?」

リリアが巨剣に気付かずニルグに声をかけると、ニルグは嬉しそうにお茶を飲む。

「固くなる話じゃない。嬢ちゃんの昇格祝いに何かやろうと思ってな」

その言葉はまるで孫の成長を喜ぶ祖父、拒否したら怒りそうだ。

予想外の事を言われたリリアは一瞬微笑むとすぐに悩み始めて固まってしまう。

「……何かあるかな」

「探せばあるんじゃないの?」

一切思い浮かばず言葉しか出なかったリリアにソフィラが苦笑いを浮かべながら促す。それでも何も思い浮かばないらしく、頭を捻るばかり。

当然欲しい物はある。お金が欲しいと思うのは当然だし、服なんかも買い足したい。

けれどそれは願望でここで頼む事ではない。ニルグの問いは冒険者として何か必要な物は無いか聞いているのだ。

「――ほとんど買っちゃったからなぁ」

リリアは何とかそれだけを呟く。その答えにニルグはにやりと笑う。

「あぁ、そんな気はした。それでだ嬢ちゃん。今後どう活動する?」

「これまでとそんなに変わりません。Aランクを目指して活動していきます」

リリア自身、Aランクは不可能と分かっている、可能性はゼロだ。それでも諦めず、そこを目指すと決めた。

ニルグも分かっている。けれど指摘せず、小さく頷いた。

「新しいパーティメンバーは勧誘するのか」

「いえ。ハジメとエリス、3人で組んで行きます」

リリアの意志のこもった答え。ニルグは納得したように頷くと、ハジメを見てきた。

「そう言っとるが、坊主はどう考えてる」

「リリアと組んでAランクを目指します」

ハジメの答えも決まっている。リリアの背中を押した以上、ハジメも一緒に前を向く。その言葉にニルグが満足そうに笑うと、机の上に置いていた巨剣を優しく撫でた。

「なら丁度いい。嬢ちゃん、こいつを坊主に売る。それを昇格祝いにさせてくれ」

「え」

全員の視線が巨剣に移る。

巨剣と言うべきサイズの、けれど巨剣としてはどこか不足に感じる巨剣。

剛力が使うと考えるとどこか心もとない。並みの剛力ですら不足に感じるほどだが、ハジメの剛力なら大丈夫と思いたい。

「これ巨剣……なんですか?」

ハジメの呟きが響く。リリアも似た意見のようで、不思議そうに巨剣を見ている。

その疑問にニルグが頷いて返す。

「分類は巨剣になる。わしが信用する剛力のために、最初に作った巨剣がコイツだ」

ニルグの答えはハジメは驚いたように巨剣を見つめる。その巨剣に吸い込まれるように手を伸ばすがすぐに止め、ニルグを見た。

「ニルグ老、持ち主の剛力の方は?」

「亡くなった。だからこれは置き土産じゃ」

ニルグは懐かしそうに呟く。

――遺品

そこまで大切な物と思わなかったハジメは動揺する。リリアも同じくらい慌ててニルグを止める。

「ニルグ老、そんな大切な物を売ってはダメです」

「気にするな嬢ちゃん」

「気にします」

リリアの言葉を無視してニルグが嬉しそうに微笑むと、少し身を乗り出してリリアの頭をポンと撫でる。

「そんな驚くことじゃねぇ。こいつも武器だ、使われなきゃただの鉄塊。置物にしかならない邪魔者だ」

「でも、大切な物ですよね」

リリアも何とか平静に戻るとニルグを説得する。けれどニルグの決心は堅いらしい。

「良いんだ。コイツを渡すのは、わしが納得した奴だと決めていた。仕舞っているだけじゃ価値は無い、こいつは使ってこその代物じゃ」

ニルグは珍しく小さく微笑むと、少しふらつきながら巨剣を持ち上げハジメに渡す。

「合う合わないがあるからな。坊主、少し振ってみろ」

「――ニルグ老」

ハジメは困惑しながらも受け取ってしまう。重さに驚き軽くふらつきながらじっくりと巨剣を見つめていると、ニルグが笑みを深くした。

「嬢ちゃんと一緒に行くんだろ。ならこいつも――ユイの形見も、一緒に連れて行ってやれ」

「……え」

「……」

――ユイ(リリアの母親)の形見

ハジメはそれ以上言えず、リリアでさえ絶句してしまう。

不思議な空気が広がりながら、ハジメは手に持つ巨剣を見つめ続けた。



ソフィラに先導され鍛冶場を出ると、店の裏手にある広場へと来ていた。

既に試し切り用の巻き藁が置かれていて、切られるのを今か今かと待っている。

「――――」

ハジメは何も言わず、周りの視線も気にせず静かに巨剣を構える。少し持ち手が細く感じたが、握り直すと違和感は薄くなる。

そのまま剛力を使わず、虚空をゆっくりとなぞる。

―― 

静かに、音も出さずに動かす。この振りでは葉っぱも巻き藁も、何も切れない。それでもゆっくりと、自分の体と語り合うように振る。

巨剣の重さに耐えきれず、体が持っていかれる。

――ぅ

振る速度を上げると小さく音がした。

体は振り回され、響き出した音は小さく誰の耳にも入らず、しかし巨剣は久しぶりの速度を楽しむようにハジメと踊る。

「……」

――ぶん

ハジメが剛力を使うと、振る速度が上がった。空気を切る音が響き、ハジメの体が速度を感じる。

全力はまだ出していない。なのに巨剣がまだ行けると、まるで語り掛けるようにハジメの力を引き出す。

――ブン

全力に近い振り。ロングソードでは壊してしまいそうで滅多に振れず、だからこそ余裕を持っていた先の光景。

想像以上に頑丈で、予想以上の切れ味を持っている。

固い物でなければ巨剣が負ける事は無いだろう。

ハジメの全力を受け止めて、巨剣の最大を使える不思議な感覚。

「――――っ」

ハジメはそこから一気に踏み込むと、振り回す様に薙ぎ払う。

試し切りの巻き藁が空を舞った。それは巻き藁の上部ほんの少し、拳1つ分の高さ。ハジメが狙ったところを綺麗に切り裂く。

――ブンッ!

ハジメはピタリと止まると体を1回転させて、今度は反対側から薙ぎ払うように巻き藁を襲う。再び舞う巻き藁、それは先ほどと同じ拳1つ分の薄さに切り飛ばされ、紙吹雪のように舞い散る。

「――ふっ!」

最後の1太刀、ハジメは袈裟切りのように振り下ろすと巻き藁は綺麗に両断された。

ハジメがピタリと止まる。まるで剣の先まで全てが自分になったような錯覚。

「……」

ハジメはそのまま動けない。全力を出したはずなのに、巨剣からはこんなものじゃないと背中を叩かれる感覚。

その不思議な感覚に驚きながらも緊張をほぐすと、深く息を吐いて残心を解いた。



ハジメが巨剣を大切そうに持ちながら近くで見ていたリリア達の元に歩み寄る。

どう見ても感動しているハジメに、リリアが緊張した様子で口を開く。

「ハジメ、どう?」

「凄すぎる。何この剣」

ハジメは驚きながら巨剣を見つめる。実際持って振ってみるとどうしても大振りになってしまった。間合いの優位は取れるだろうが今のままではリリアにもアスティアにも通用しない。

反省しながら剛力を解除すると、普通に持ってるのが辛い程の重量を感じる。それでも背負ったり、運ぶ体勢になっていればかなり重いで済む程度、普段から持つようになればすぐに慣れるだろう。

「大丈夫そうじゃな」

近くで見ていたニルグも満足そうに呟く。けれどハジメはどこか不思議そうに、手に持つ巨剣を眺める。

「ニルグ老、この巨剣は何なのですか?」

巨剣は剛力用に作られた剣。ライファの巨剣(ウツギ)のように特注が基本。巨大、高質量な代物だ。

けれどこの巨剣は違う。巨大、ではあるが小ぶりだし重量も比較的常識内。剛力以外には振ったりは出来ないだろうが、それでもライファの巨剣(ウツギ)と違い持ち運びは可能だ。

ハジメのもっともな疑問にニルグは巨剣を見つめながら口を開く。

「そいつは戦時中にユイ用に作った、兵士でも運べるように設計された巨剣だ。だから多少強度を落としてでも軽く作ってある」

多少強度を落として(弱い剛力には耐えて)軽く(持ち運べるように)作ってある。

どこか矛盾を含む武器を、ハジメが不思議そうに眺める。

「俺の記憶が正しければ、ユイさんは凄く剛力が強かったと聞いたんですが」

「間違ってないぞ。ユイは剛力だったが、対人じゃ求められる力は限られてるからな。相手が剛力でも正面からぶつかる必要はない。だからこいつを作ったんじゃ」

ニルグが当然と言う風に答える。

その言葉を心にとどめながら、ハジメは体にしっくりくる巨剣の重さを味わう。

試し切りならハジメの全力を受け止めた。そしてきっと、この巨剣に体を慣らしていけばもっと強くなれるだろう。

しかしそれはあくまで試し切り。ハジメが一気に強くなったわけではなく、新しい(武器)を手に入れただけ。この武器を不安定に状況が変わる戦いの中で使いこなさなければならない。

「――」

ハジメは視線をリリアに向けると小さく頷く。少し微笑んでるかもしれない、それほどにしっくりと来る巨剣。

持ち主の遺志が、まるで大切な者を守る様にハジメの意志に答える。

「ニルグ老、いくらですか?」

リリアが聞く。ハジメが一瞬後悔したように表情を変えるが、リリアはすぐに気付き安心させるように微笑むを向ける。

「金貨10枚じゃ」

「……」「……」

ニルグの提示した値段に2人が固まった。

本来、巨剣は完全オーダーメイド。鍛冶師の言い値が基本。本来だったら金貨30枚はくだらない。王都でも小さな家なら買えてしまうぐらい。

それを中古、大切な遺品とは言え金貨10枚は相当な安値だ。

「なんじゃ、やっぱ手持ちが足らないか」

「……ハジメは今いくらぐらいある?」

「金貨5枚。でもそれ以上は出せないし、使っちゃうと当分大変」

リリアもハジメも諦めた様に呟くと巨剣に目を移す。手が届くと思ったが現実が見えてしまい、ご飯を目の前にお預けされている子犬の様な状態だ。

そのとても寂しそうな状況にソフィラは吹き出す。

「ニルグ老、いじわるしてないで言ったらどうですか?」

「そうじゃな、悪かった」

ニルグが反省したようににやりと微笑むので、リリアとハジメは不思議そうに目を合わせる。

「嬢ちゃんが家を買ったのはソフィラから聞いていた。金が無い事も予想出来た。それでじゃ。金の代わりに魔獣の素材でも頼もうかと思ってな」

「……何の素材ですか?」

リリアが少しの警戒をもって確認する。金貨10枚、高価な素材を大量に渡す必要がある値段。ハジメも分かっているからリリア以上の警戒を持って言葉を待つ。

そんな2人を安心させるようににやりと笑うと、最初から準備していた答えを伝える。


「ドラゴン素材一式。安いもんじゃろ」


――ドラゴン

ハジメが詳細も分からずリリアに視線を向けると、ありがたそうに、申し訳なさそうに、面倒そうに、様々な感情をないまぜにしていた。

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