3-6 手紙の内容
生まれ育った街ーケンバルに入り、真っ直ぐ教会に向かう。
ここでまずは父の遺体を教会の安置所に預けて、荷馬車とも別れる。
御者さん、名前すら聞くのを忘れていたことに驚きながらも、お礼を言う。支払いをしようとすると既にロンから貰ってると答えられた。
やっぱりロンの手配だったんだ。荷馬車を見送ってから代金をロンに返そうとすると断れた。だけど、無理矢理手に握らせる。手配だけ出なく料金まで借りるのは余りにも甘え過ぎた。
「それでは明日の朝に。神のご加護がありますように」
「はい。ありがとうございます」
神父様と言葉を交わして、教会を出る。ロンは馬を教会の厩舎に預けて、私についてきた。
「あの、」
「ジャネット。もしかして僕が邪魔?ただ側にいるだけだから、気にしないで」
家までついてくる気なのか、どうして。
会話らしい会話をしないまま、私は家に辿り着く。鍵は捨てないで持っていた。今となってそのことに安堵しながら、扉の鍵を開ける。
「これは、」
家は何者かによって荒らされていた。何かを探した痕跡、争った後、椅子が倒れ、床に何かの染みがついている。
父はここから連れされたのだ。それがはっきりとわかる惨状だった。
「入ってもいい?」
ロンがそう尋ねてきたが、私は言葉を返せなかった。彼はそれを了承と取ったのか、入ってきて、私の側に立った。
「……ジャネット。今日は宿に泊まったほうがいい。これでは寝る場所を確保するのも大変だろう?」
「いいえ、大丈夫です」
寝るくらいの場所はどうにか作れる。
「それなら僕も泊まってもいい?」
「何を、そんなのダメに決まっているじゃないですか!」
「心配なんだ。この荒らされ方、君の父君はここから無理やり連れ出されたのだろう。そして誰かがこの家で何かを探していた。今も誰かがこの家を監視しているかもしれない。君の身が危険かもしれないだろう?」
ロンは淡々と、私に言い聞かせる。
その様子は不思議だ。
こんな風に荒らされているのに彼は驚かない。
まるで予想していたみたいだ。
彼は何かを知ってる?もしかして手紙の内容を知っている?手紙の封はしっかりされていたけれども、綺麗に開ける方法はある。
「ジャネット。葬儀が終わってから話そうと思っていたけど、今話すよ。そうじゃないと君は納得しないだろううから」
何を話すというのだろう。
胸がキリキリと痛む。音が聞こえそうなくらいだ。
「ごめん。手紙は君が読む前に開けて中身を確認している。屋敷で不審な動きをしている者がいたから、詰問したらその手紙を持っていた。どうやら、君が、姉上の生まれ変わりだとわかった辺りから、君宛の手紙は全て誰かに渡されていたみたいだ」
私が姉上の生まれ変わりだとわかってから。
それはそうだ。間接的だけど、自分が故意に殺してしまった少女の生まれ変わり、その父がその秘密を知っている。そうなれば警戒するだろう。でもまさかハレット家でそんなことが行われていたなんて。
「屋敷の者の身元はしっかりしている。まさか、市長の紹介状を持っていた者がそんなことをするなんて考えたことがなかった」
「市長?」
「姉上を殺したのは市長だ。正確にいうならば、僕に悪戯を仕掛けようとしたのが市長夫人、そして唆したのが市長だと僕は思っている。これに関してはオーランドも同意している」
「オーランドも?」
「彼は警備兵団副団長だ。巻き込んだ方がいい。しかも彼は君は心配していて、姉上の婚約者だった男だから」
「父を殺したのは市長だって、ことですか?」
「うん。今証拠集めをしている。色々手を回す必要もある。だから君の身も危ない」
「だったらロンも、同じじゃないですか!」
「うん、そうだね。だから警備の者を付かせている。姉上を殺した犯人を吊し上げる前に死にたくないからね」
ロンは自嘲ぎみに笑う。
「ロン。やめて。もういいじゃない。マリーは死んでしまった。今さら明らかにしなくても。父のように殺されてしまったらどうするの?市長相手よ?」
「嫌だ。なんで姉上は死ななきゃいけなかったんだ。あの事故が起きなきゃ、姉上はまだ生きていて僕の側にいてくれたはずなのに!」
「ロン……」
「市長夫人、シャーロットが僕に気があることは知っていた。だけど、小さかったし、僕は姉上のことしか見てなかった。だから邪険にしてしまった。だから、起きてしまった。僕は知らなかったんだ。彼女がそんなことで恨むなんて」
「ロン」
泣いてはなかった。けれども声は掠れて今にでも泣き出しそうな彼に小さいロンが重なる。
「ジャ、姉上」
昔みたいに彼を包み込むことはできない。
だけど、少しでも慰めたくて私を彼を抱きしめる。
「あなたは悪くないわ。だから自分を責めないで。悪いのは悪戯をしようとしたシャーロット様。そしてそれを唆した男」
男ーー今の市長は婿だ。前市長の娘であるシャーロット様の婿で、たしか、オリバーという元騎士だったはず。
「私はあなたを庇うことができてほっとしている。あなたが死ななくて本当によかった。だから自分を責めないで。お願い」
「姉上」
ずっと私をジャネットと呼び続けていた彼。
きっとずっと堪えていたのだろう。
私はジャネットだ。だけど蘇ったマリーの記憶は、ロンへの愛情に溢れている。だから私は、姉として彼を慰める。私の大切な弟。
私たちは結局日が落ちて真っ暗になるまで、そうして抱きしめ合っていた。




