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3-4

 

 ロンが父からの手紙を持ってきて三日がたった。

 泣き続ける私のそばにロンはずっといてくれたけど、オーランドが彼に帰るように促して渋々戻っていった。彼が側にいてくれたのはあったかい気持ちになったけど、手紙の内容を話すかどうか、迷っていたので、助かった。

 オーランドも詮索してこなくて、ほっとして、気持ちの整理をつけながらこの三日は過ごした。もちろん、仕事はきちんとこなした。

 いいや、むしろいつもより真剣に取り組んだ。何か手を動かさないと泣いてしまいそうだったから。

 ずっと父が嫌いだった。

 飲んだくれで、話しかけても無視をする。母が亡くなってからはほとんど話すことはなかった。

 父のことが嫌いで母に泣きついたりしたけど、母は一度も父のことを悪くいうことはなかった。母は父を本当に愛していたようだった。

 勤務先の孤児院が火事で全焼して「買い手がいるからそこにいってもらう」と言われて、逃げなければと思った。売り飛ばされると思った。

  そして十七年前のマリーの死。父がもし止めることが出来たら、マリーは死なず、オーランドと結婚していたかもしれない。ロンがおかしくなる事もなく、誰かと今頃幸せになっていたかもしれない。

 だけどそうだったら、きっと(ジャネット)今こうして存在していない。

  私は今の自分(ジャネット)が好きだ。マリーの記憶はあるけど、私は彼女ではない。

  ロンに話したら、悪戯した子や唆した男を探そうとするかもしれない。きっとオーランドも同じ事を考える。

  だから手紙の内容は話せない。

 

「ジャネットはマリー様だから、将来は安定ね。ロン様とオーランド様どっちを選ぶの?」


 ロンが来て、人払いをして話し込んだことは屋敷内では知らないものはいなかった。翌日キャリーにはひどく絡まれて、あまり話したことがなかったメイドからも嫌味なのか、なんなのか話しかけられるようになった。


「今の私は単なるメイドのジャネットです。そんな恐れ多いことは考えたことはありません」


 こうして返すと、大概眉を顰められる。

 何を期待しているのかな。

 本当。


 実家に戻ろうか。

 父と多分話したほうがいいし、今は多分娼館に売り飛ばそうと思っていないはずだから。一度実家に戻ろうかな。休暇を申請して。

 それとももうやめてしまおうか。

 今の父であれば一緒に住むことは可能かもしれない。院長様も建物を立て直すって言っていたから、もしかしたらまた人手が必要になっているかもしれない。

 あの街から逃げたのは、父が私を娼館に売り飛ばすと思っていたからだ。でも今の父はきっとそんなことはしない。だから……。


 そう決めて、メイド長に話そうと休憩時間を見て彼女を探していると、屋敷が急に慌ただしくなった。オーランドが急に戻ってきて、私を呼び出した。


 彼は三日前にロンと話した応接間にいて、やはり人払いがされていた。

 深刻な上に、何か苦しみに耐えているような、そんな表情をしたオーランドは、前回と同じようにすぐ側に座るように言う。

 有無を言わせない様子で、私は彼の隣の椅子に腰掛けた。

 息が掛かりそうほど近くの距離。息は乱れていないけど、彼にしては珍しく少しよれた警備兵団の制服のまま、少し汗の匂いが漂ってくる。普段なら着替えるか、それなりに整えているはずなのに、そんな余裕も彼に無いようだった。


「ジャネット。落ち着いて聞いてくれ」


 そう言う彼の声は静かであったけど、表情は硬くて、何かお腹の当たりが痛くなった。

 何を言おうとしているのかな。

 戸惑いながら頷くと彼が口を開いた。


「今朝、君の父、ソウ男爵でシアヌ川で遺体が見つかった。拷問された痕があって、最終的な死因は溺死だ」


 父が死んだ?

 拷問? 

 溺死?


 酷いことに、悲しみよりも、何やら悪寒が体を包む。


 父は手紙の最後に


『せめて、お前の前世マリー様の事故の真実を明かしたいと思ってる。


 今度お前に会うときは胸を張っていたい。


 今まですまなかった。』


 書いていた。

 恐らく、その悪戯を唆した男に会いに行ったのだろう。または誰かに話そうとしたのか。それで捕まって?

 拷問。

 どれくらい苦しんだのだろう。

 今までみたいに黙っていたら、そんなことをされなかったはずなのに。

 愚かな父。

 だけど、私のために彼は真実を向き合った。十七年前にできなかったことをやろうとして、殺された。

 嫌いだった。だけど、今は嫌いじゃない。

 馬鹿、本当にクソ馬鹿だ。殺されることはわかっていたはずなのに。


「ジャネット」


 声をかけられハンカチを渡される。

 また泣いていたみたいだ。

 最近はよく泣いてしまう。


「ありがとうございます」

 

  私だってハンカチを常備しているのだけど、遠慮なくオーランドのハンカチで涙を拭った。












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