2-10 ピクニック
「さて、今日はピクニックに行きましょう」
「え?」
翌日、当たり前のようにロンに馬に乗せてもらって、出かけた。
マリーナにいくと聞かされていたのに、しばらくすると彼は馬の足を止めて、そう言う。
「嫌ですか?」
「嫌じゃないけど。どうしたの?」
「こんなに天気がいいじゃないですか。青空の下で食べる食事はきっと美味しいですよ」
一生懸命顔を上げて、彼の顔を見るとなんだか少し企んでいる、そんな笑みだった。
まあ、深く考えてもしかたないし。
ピクニックなんて、そういえばジャネットとしてはしたことない。
マリーの時は、家族で出かけたりしてたなあ。
「姉上?」
「ロンに任せるわ。でも今度はお父様とお母様も誘いたいわね」
「……そうですね」
私はジャネットだ。だけど、思わずロンにそう提案していた。彼は少し考え込んだ後、頷いた。
目的の場所にすぐに着いた。
私も知っている場所で、なんだかとても懐かしかった。
馬を繋いでから、大きな木の陰に持ってきたシートを敷く。マリーナにいくのになぜ食事を用意するのかと疑問だったけど、これで疑問が解かれた感じだ。
ということは、最初からピクニックにいくつもりだったんだ。それなら早めに言ってくれれたばよかったのに。
お父様とお母様と一緒に来れたら楽しかったのに。
「姉上?どうかしました?」
「随分用意周到だったから、最初からその計画だったんだと思って」
「あ、すみません。あの、誰にも邪魔されたくなくって」
「邪魔?」
「えっと、あのすみません」
ロンの言っていることがわからない。
邪魔って、まさかお父様たちのこと?だったらちょっとひどい。
「ねえ。ロン。いくらあなたが大人になったからと言って、お父様達を邪険にするのは良くないと思うのよ。ピクニックは大勢のほうが楽しいでしょう?」
「姉上は僕と二人では楽しくないですか?」
悲しそうに聞かれてしまい、それ以上言えなくなる。
ロンを包む雰囲気はどよーんとしている。
「ロン。そんなことないから。今は二人で楽しみましょう。次はお父様たちと」
「はい。そうしましょう。姉上」
さっきまでの落ち込み具合はなんだったのか、ロンは笑顔を取り戻し、持ってきたバスケットから食べ物や飲み物を取り出し始めた。
「はい。姉上」
「ありがとう」
差し出された葡萄を口に含むと甘酸っぱさが口の中に広がる。
「酸っぱい〜」
「え?」
ロンが慌てて別の葡萄の実を口に入れた。するとやっぱり酸っぱかったみたいで、目をきゅっと閉じる。
こんなところは小さい時と一緒だ。
「本当だ。酸っぱい」
「ふふふ」
酸っぱいものは相変わらず苦手みたいで、少し涙目になっていて私はおかしくなった。
「貸して。私が食べるわ」
「僕が食べます。姉上に食べさせるわけにはいかないです」
「ロン。あなたは酸っぱいもの、苦手でしょう?ほら、頂戴。酸っぱいけど美味しいから」
「僕が食べます」
彼は私に渡すまいと葡萄の房を持って頭上に掲げる。
なんだか対抗意識をもってしまい、少し体を起こして彼から房を奪おうとした。すると、体の均衡をちょっと崩してしまって、彼に寄りかかってしまった。
「ご、ごめんなさい」
マリーの記憶を取り戻して、それがロンにバレて、屋敷を出ようとしてから軟禁状態。なんだかマリーの意識が出過ぎていて、ロンのことは弟として意識していた。だけど、こうして寄りかかり、彼の胸板の厚さなどを感じてしまうと、大人としての彼を思い出す。そしてジャネットとしての私が我を取り戻した。
「私、なんていうか」
ずっとマリーじゃないと言いながら、マリーとして振る舞っていた。
彼女はもう死んだ存在だ。
私はジャネットで、彼は私の旦那様だ。
「姉上」
彼から離れ、立ちあがろうとした私は、その腕の中に閉じ込められた。
「離して、ください」
「姉上。僕は弟として、姉上を抱きしめているのです」
言い訳、言い訳じゃないはず。
私も、マリーも時たまロンをぎゅっと抱きしめることはあった。
でも、
「おっと、姉弟の抱擁にしてはちょっと激しくないか?」
おどけるような声がして、ロンの力が緩んだ。
その隙に私は彼から逃れる。
「オーランド!」
突然現れたのはオーランドだった。




