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前世で弟だった旦那様が超シスコンになっていてどうにか矯正したい。  作者: ありま氷炎
第二章 私はあなたの姉でしたが、今はただのメイドです。
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2-2 私の事情


「旦那様、お茶です」


 1ヶ月前から、ロンのお世話係は私が担当になっている。これはロンの指示で、ゴネようとしたらメイド長のセリーナに睨まれた。

 っていうか、セリーナ、前は陽気な女の子だったのに、なんでキッツイ感じになったんだろう。メイド長という心労かな?


「姉上。こっちに座ってください」


 ロンは私が扉を閉めた途端、立ち上がってソファに座ると隣の部分をポンポンと叩く。


 ーー旦那様、私はメイドですので。

 ーー姉上。二人っきり、家族だけの時は姉上として接していいとおっしゃったじゃないですか。


 当初はこんなやりとりをして一生懸命断ろうとしたのだけど、1ヶ月経つ今は諦めて、ロンの指定した場所へ座る。

 使用人が旦那様の隣に座るなんてありえないんですけどね。

 いくらマリーの記憶があってもやはり違和感が拭えない。


「姉上。これ、買ったんですよ。食べてください」


 しかも何かわざわざ毎日というようにお菓子を買ってきてもらってる。

 断ると悲しそうな顔をする。それには騙されないと断ると今度は作り笑いを浮かべて、脅す。

 ーー姉上が見つかったと公表してもいいですか?

 ーーそれともジャネットとして、交際を申し込んでもいいですか?


 どっちも嫌なので、仕方なしにお菓子をいただいている。

 今の私にとっては贅沢すぎるお菓子で、とても美味しい。けれども、じっと見られているとその美味しさも半減してしまう。

 

「姉上。明日はお休みですよね。どこかに行かれるのですか?」


 もさもさとクッキーをかじっていると空色の瞳を輝かせてロンが聞いてきた。


「街に出ようと思っているの」


 お休みに宿舎にいるのは落ち着かない。

 屋敷内で他の人が働いていると思うと中々気が休まらない。

 メグの休みが重ならないので、私一人。

 マリーナにでも行こうかな。


「僕も一緒に行ってもいいですか?」

「駄目です」


 即答だ。

 とんでもない。

 ハレット家の当主、旦那様と出かけるなんてとんでもない。

 ただでさえ他の使用人から距離を置かれているのに、ますます関係が悪くなってしまう。


「どうしてですか?」

「旦那様」

「姉上」


 ロンが無言の圧力をかけてくるので、ちょっと溜息が出てしまった。

 私の立ち位置を理解してほしい。本当。


「……ロン。今の私は単なるメイドで、あなたは雇用主です。立場が違いすぎます。二人で出かけるなんてとんでもないことです」

「面倒だな」

「は?」

「姉上は気にしすぎなのです。一緒に出かけましょう。マリーナとかどうですか?1ヶ月前も出かけられたんですよね?」

「どうして知っているの?」


 え?

 なんでロンが。

 使用人の休みの行動なんてわかるわけないのに。

 まさか、誰かを使って?


「マリーナのパンケーキは美味しいですよね。姉上が亡くなってから辛くてずっと行っていなかったんですよね。姉上が一緒なら行ける気がします。一緒に行ってくれますよね?」

「む、無理、」

「姉上。覚えてますか?マリーナのクリームパンケーキ、僕大好きだったんですよね」


 ロンはうっとりとしながらパンケーキについて語る。

 それは幼いロンを彷彿させるものだった。

 ロンはクリームたっぷりのパンケーキが大好きで、口の周りを白くしながら美味しそうに食べていたっけ。


「……マリーナのことを考えると姉上が亡くなったことを思い出して、本当に駄目でした。でも今は、姉上がこうして戻ってきていらしたし、マリーナことを思い出しても辛くありません」

 

 ロンが目をうるうるさせて私を見ていた。

 食べさせてあげたい。


「いいわ。行きましょう」

「ありがとうございます!僕は馬車が駄目なので、馬で一緒にいきましょう」

「は?」

 

 馬、一緒に、二人のり?!


「楽しみです。姉上」


 嵌められた。

 二人で馬になって乗って出かけたら、もうこのお屋敷にいられないかもしれない。

 使用人になんて噂されるか。

 

 私の悩みなどロンは気にせず、嬉しそうに微笑んでいた。

 可愛いけど、なんていうかムカつく。




「旦那様、やるわね」

「え?どういう意味」


 今日のロンとのやりとりをメグに話して聞かせると、彼女は口元を歪めて笑った。


「あなたの、というかマリー様の弱みに上手くつけこんで、デートに誘ったわ」

「は?デート。違うでしょう?」

「デートよ。これは」

「は?」


 なんで、デート。いや、付き添いでしょう?


「やっぱり、なんか旦那様はちょっと悪どいわね」

「どういう意味?」

「とりあえず、ジャネット。私は結婚を延期することにしたわ」

「え?」

「あなたが心配なのよ。このままいくと屋敷で孤立しそうよ?」

「ありがとう!でも本当にごめんね。助かる。私だって、いつまで甘えるわけにはいかないから、色々考えてはいるのよ」

「考えなくても。公表してもらったら?」

「それはだめ。公表なんてしたら、この街だけじゃなくて、他の街にも噂が広がるでしょう?そしたら、あのクソ親父が探しにくるかもしれないわ」

「クソ親父……。あなたからそんな下品な言葉が出るとは。それくらい、駄目なのね?」

「話したでしょう?私の過去。あの人なら金蔓だと思って絶対にハレット家にやってくるわ。私がこのお屋敷にいる限りずっとお金をせびりそうよ」

「……そういう事情なのね?」

「うん、まあ、他にも大事おおごとにしたくないってこともあるんだけど」


 私は、今のジャネットという人生を楽しみたい。

 マリーはあくまでも私の前世かこだ。

 妄想ではないと思うけど。



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