表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【書籍化】最強守護騎士の過保護が止まりません! ~転生令嬢、溺愛ルートにまっしぐら!?~  作者: 櫻井みこと
魔法学園一年生

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/64

不安と失言

 ララリは男爵家に引き取られたとはいえ、当主のエイター男爵は実の父親である。魔導師団長の息子であるフィンに頼まれたと告げれば、彼が欲している品をすぐに用意してくれるだろう。

 問題は、セシリアの方だ。どうやってこの魔法式を父に解読してもらうかと、頭を悩ませていた。

「ここはやっぱり、お母様を使うべきかしら?」

 自分の部屋に戻ったセシリアは振り返り、傍にいてくれたアルヴィンに声をかける。

 図書室から戻ってから、ずっと何かを思案しているらしい彼の様子が少し気になっていた。

「いや、公爵に聞く必要はない」

 アルヴィンはセシリアから魔法式の紙を受け取ると、視線をそこに向けたまま、きっぱりとそう言った。

「アルヴィン?」

 彼は手を伸ばして、セシリアの腕をそっと掴んだ。そこに嵌められている魔力を封じている腕輪に触れる。

「エイオーダ王国は、俺の出身国だ。この魔道具を作るための魔法式は、これのものとよく似ている」

「えっ……」

 思ってもみなかった言葉に、ミラは思わず声を上げる。

 アルヴィンがエイオーダ王国の貴族出身だとしたら、あの魔力の高さと魔法知識の豊富さにも納得がいく。

「そうだったの」

 だが彼と出会ったときの状況や、話してくれた過去から考えても、良い思い出ではないことは確かだ。アルヴィンも詳細を話したくないから、あの場では父の名前を出したのだろう。

「材料さえ揃えば完全な魔道具を作ることができるだろう。だから、もう心配はいらない」

 たしかに魔を退ける魔道具を手に入れることができれば、アレクは正常な状態に戻れる。それができれば、あとはララリがいる。きっと彼の弱い部分を理解して、支えてくれるだろう。

 それに魔道具があれば、これから始まるだろう魔族との戦いも有利に運ぶことができる。

 それなのに不安になるのは、そう言ったアルヴィンの顔が晴れやかではないからだ。

「アルヴィン」

 セシリアは手を伸ばして、彼の頬に触れた。

 初めて出会った頃は柔らかな子供の肌だったのに、今では引き締まり、身体つきも比べものにならないくらい逞しくなった。

 少年が少しずつ青年に変わっていく長い時間を、ともに過ごしていた。

 だからアルヴィンが落ち込んでいることが、セシリアにははっきりとわかってしまった。

「セシリア?」

「思っていることを話して。もしあなたが嫌なら、魔道具なんか作らなくてもいいのよ」

 他の方法を探そう。

 きっとふたりなら、もっと良い方法を見つけられるはずだ。

 そう言うと、アルヴィンは首を横に振り、頬に添えられていたセシリアの手を、両手で包み込むように握り締める。

「いや、魔道具を作ることに反対しているわけではない。魔法式こそ複雑だが、魔法自体はそんなに難しいものではないから、材料さえ揃えば問題なく作れるはずだ」

「じゃあ、あなたを悩ませているのは何?」

「……」

 アルヴィンは話すことを躊躇うように、視線を逸らす。セシリアは彼の言葉を、辛抱強く待った。

 ここで有耶無耶にしてはいけない。きちんと、話し合いをしなくては。

 そう思ったからだ。

「あの魔法書を書いたのは、俺の父だ。父は、魔道具に関する本を何冊も書き記している」

 セシリアの根気に負けたのか、やがてアルヴィンは静かな声でそう語り始めた。

「アルヴィンの?」

「ああ」

 彼は深く頷き、痛ましそうな顔をしたセシリアに笑みを向ける。

「言っておくが、前にも話したように、父のことはもう何とも思っていない。すべてはもう過去のこと。今の俺にはお前がいる。それだけで十分だ」

「じゃあ、どうしてそんな顔をしているの?」

 アルヴィンは話すことを躊躇うように、唇を噛みしめた。

「お願い、話して。あなたが傷ついているのに、何も知らずにいるのは嫌だわ」

「……あの本を見たとき、父のことを思い出した」

 妻を深く愛するばかりに、その死の原因となった一族や、生まれてきた子供さえも許せなかったアルヴィンの父。

「昔は幼かったから、父の考えを理解することなんてできなかった。だが、今なら……」

 アルヴィンは、セシリアという存在を得た。何よりも大切で、かけがえのない存在だ。

それをもし失うことがあれば、自分も父のようになってしまうのではないか。

「もしセシリアを失うことがあったらと、そう考えただけで怖くなる」

「アルヴィン」

 二度目の人生といえ、前世ではあまり恋愛の経験を積まなかった。

 もしかしたら愛というものを、セシリアも深く理解できていないのかもしれない。

 それでもアルヴィンのことを愛しいと思うし、互いに同じ気持ちなら、先のことを考えて不安になるよりも、今こうして一緒にいる時間を大切にしたいと思う。

 だから、安心してもらいたくて、ついこう言ってしまった。

「大丈夫よ、アルヴィン。本来の魔力は私の方が強いんだから、もしふたりの子供が生まれても、きっと大丈夫だわ」

「……子供」

 アルヴィンの白い肌がほんのりと赤く染まったのを見て、自分の失言に気が付く。

「あ、例えば、という話で……。そんなに深い意味は……」

 同級生に比べるとかなり大人びているが、アルヴィンもまだ十五歳だ。

 自分の精神年齢が二十代後半だったので、深く考えずについ言葉にしてしまった。でも十五歳の貴族の令嬢という立場を考えると、少し大胆だったかもしれない。

 けれど、そんな焦っているセシリアを見て、アルヴィンは柔らかく微笑んだ。

「そうだな。セシリアは俺よりも強い。心配はいらなかったな」

 そういう彼からは、先ほどまでの焦燥感を感じない。

「ええ、もちろんよ」

 少し恥ずかしい失言だったが、それでもアルヴィンの雰囲気が和らいだことが嬉しくて、セシリアも微笑みを返した。

 これで魔道具が完成すれば、王太子と敵対しなければならないという、不安要素がひとつ減る。王女ミルファーの高慢な物言いが魔族の影響だとしたら、きっと彼女も元に戻るだろう。

 大きく変わってしまったゲームの流れが元の形に近付けば、これからどう動いたらいいのかも、見えてくるに違いない。

 セシリアはこのとき、そう考えていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ