62 初デート
「勇者、いい加減に進展させてください。」
俺がマリアとのティータイムを終えて部屋に戻ると、バスルが唐突にそう言ってきた。突然言われた言葉だが、俺も同じようなことを考えていたので驚かない。
進展させるのは、もちろん俺とマリアの関係だ。
「婚約者という関係にありながら、デートに誘わないとは・・・全くこれだからチェリーは困るんですよ。」
「誰がチェリーだ!?いや、わかってるけどよ、誘っていいのか?」
「何を遠慮しているのかわかりませんが、あなたはマリア様の婚約者ですよ?誘う権利があり、義務があると私は考えます。」
「そうなんだが・・・それは普通ならだよな。俺なんかが誘っていいのか・・・」
「はぁ?」
苛立った様子のバスルに若干及び腰になる。実は、こいつも相当強いらしく、魔王の右腕と言われるほど恐れられている。
俺は、姿見の前まで来て、自分を見つめた。それは、自分だけど、どこか他人の顔と体。
マリアをデートに誘う件だが、力のない俺がデートに誘うのは、なんだか恥ずかしい。マリアが俺の外見が好みなのは知っているが、それくらいしか、マリアを満足させるものがない俺が誘うのは気が引ける。
それに、この外見も俺の外見だと胸を張れない。やはり俺は、前世の外見が俺だと思っている。なら、この顔は誰なんだと言いたいが・・・
改めて今の自分の顔を見るが、やはりフツメンだ。この顔がいいとはマリアは変わっていると思う。
「なんですか、水仙気取りですか?」
「水仙?」
「・・・ナルシストだと言いたいのです。」
「・・・いや、この顔でナルシストはきついだろ。」
「その顔の何がいけないのですか?私は、あなたのような顔が良かったですよ。」
そういうバスルは、きりっとした顔で、少し近寄りがたい外見だが、イケメンの部類だ。俺に喧嘩を売っているのだろうか?
「なんですか、外見を気にしているのですか?マリア様がその顔がいいというのです、いいではないですか。」
「まぁ、そうなんだが。」
「納得いただけたようですね。では、早速誘いに行きましょう。」
「いや、もう少し待てよ。何も今でなくてもいいだろう。」
「いいえ。思い立ったら即行動。でなければ、またうだうだと悩み、結局誘わないということになります。」
「大丈夫だ。明日言うから。」
「そう言って、マリア様も何かとさぼるのですよ。」
「俺はマリアじゃねぇ!」
俺が叫ぶと同時に、部屋の扉をノックする音が聞こえた。
「・・・この話は、また後で。」
そう言って、バスルは扉を開ける。
「マリア様!?」
驚いたバスルの声に、俺も扉の方へと目を向けた。そこには、確かにマリアがいて、なぜか落ち着かない様子だった。
「あら、あなたもいたのね。・・・ちょうどいいわ。外出の準備をして頂戴。」
「かしこまりました。どちらへ参られるのですか?」
「・・・そうね。いいえ、その前に・・・ロウ。」
マリアは俺の名を呼び、バスルのかげから顔をのぞかせた。
「なんだ?」
「デートしましょう。」
先を越された。
今日の天気は快晴。出かけるならば、水を持ち歩いた方がいいと思われる。ま、俺の場合は違う意味で顔がほてって、のどまで乾いてしまっているわけだが。
俺のすぐ目の前には、長くてさらさらとした青い髪があって、風に吹かれて俺の顔をたまにくすぐって、その風がいい匂いまで俺に運んでくる。
マリアが俺に背を向けている。そして、そんなマリアに俺はしがみつくという情けない姿を晒していた。
「悪かったわね。これでは楽しめないでしょう?」
「・・・」
マリアが口を開けば、その振動がマリアの腰に当てている手に伝わる。マリアの腰は細くて、守らないといけないと感じる。手に伝わる体温のせいか、変な汗をかいてしまう。でも嫌ではない。
「楽しいよ。ありがとう。でも、マリアに情けない姿しか見せれないのは、男として肩身が狭いかな。」
「・・・いいのよ。あなただけではないわ。私からすれば、全ての男が頼りないですもの。だから、気にする必要ないわ。」
本当に俺は、だめだな。
今、俺たちは馬で移動している。乗馬が得意なマリアの後ろに乗せてもらっている状態の俺。普通は逆だろうと思うが、俺は馬なんて乗ったこともないから仕方がない。
「・・・これくらいしか、思いつかなかったの。私って、魔王だから町に出ることもできないし、だからといって、森で狩りをするのも・・・デートらしくないでしょう?」
「そうか・・・マリアは魔王だもんな。」
「え?」
忘れていた。いや、わかっていたが、意識していなかったのだ。マリアは魔王。ただの強い女ではない。人類の敵だ。
「なんでもない。俺は、人混みが嫌いなんだ。だから、町に行くのは疲れる。狩りも、俺にはできない・・・ははっ、俺何にもできないな。」
「ロウ・・・」
「悪い。マリアは居心地悪いかもしれないけど、俺は馬に乗って遠出でよかった。」
「・・・悪くないわ。」
「気を使わなくてもいい。」
「私、気なんて使わないわ。」
マリアが振り返る。挑発的な笑顔を俺に向けて。
「だって、私は魔王だもの。」
マリアが眩しく感じたと同時に、胸が高鳴った。
マリアは、俺と一緒で諦めている。
俺は、魔王と対峙し、死ぬことになる運命だった。そのことを変えることはなく、俺は勇者として生きることにした。そして、魔王であるマリアが、俺に惚れたことに気づいたときは、自分の命が奪われないという希望を見出し、かつ世界に平和が訪れることを考えて、マリアと婚約した。
どちらかと言えば、ネガティブな諦め方だったと思う。
マリアは、自分の理想の相手を諦めた。諦めて、妥協はしたが、それでもパートナーを手に入れるところだけは諦めず、魔王になってまで相手を求め、手に入れた。
それは、俺と違ってポジティブだと思うし、マリアは欲しいものを手に入れられたのだ。
俺は欲しいものを何も手に入れてない。いや、欲しいと望むことすらしなかった。ただ、奪われないことだけを考えて行動したのだ。
俺の命。仲間の命。世界の平和。
守ったなんて、かっこいいことは言えない。ただ、奪われずに済んだだけだ。
俺も、欲しいものを手に入れられるようになりたい。
そんなことを思っていると、マリアが険しい顔をして、上を見た。
突然、そんな俺たちを大きな影が覆う。
「全く、無粋ね。お仕置きが必要かしら。」
マリアがそうつぶやくと同時に、俺たちの周りは炎に包まれた。




