52 勇者のバイト生活
とある食堂にて。
「へいらっしゃいっ!」
黒髪の男が、客に元気よく挨拶をするが、客は戸惑っていた。
「え?」
「サロ、なんだその挨拶はっ!普通にしやがれっ!」
「さーせん!」
とある屋台にて。
「はい、おつりね。」
「・・・へっ!?」
「こらサロっ!それは、銅貨じゃねー!こっちが銅貨だ馬鹿野郎!」
「す、すいません・・・」
とある厨房にて、皿の割れる音が響き渡る。
「何枚目だと思ってる!?」
「すいません!15枚目です!」
「よし、記憶力だけはいいようだ!だったら買い出しに行ってこい!」
「わかりましたー!」
とある町の大通り。
俺は、重い荷物を抱えて、バイト先に戻るところだ。慣れないことばかりで、怒られてばかりの俺だが、充実感がある。それでも落ち込みはするが。
「持ちますよ。」
唐突に声をかけられた俺だが、驚くことはなかった。俺の傍にはいつもサウスがいるのを知っているからだ。護衛と言えば聞こえはいいが、俺は少しだけストーカーを連想してしまって、怖く思っていることは秘密だ。
「これくらい平気だ。だが、ありがとな。」
「いいえ。それにしても、なぜこのように働いているのですか?欲しいものがあるのなら、私が買いましょう。だから、好きなようにお過ごしください。」
同じようなことを前にも言われた。だから、俺はため息をついて同じ答えを返した。
「これが俺のやりたいことなんだよ。普通に働いてみたかったんだ。」
「本当ですか?」
「本当だ。ま、自分でも変だとは思うけどな。俺、バイトとかしたことなかったし。一応金は稼いでいたけど、普通の仕事をして稼いでいたわけじゃねーしな。」
「どのような仕事をなさっていたんですか?」
普通の仕事ではないと言ったせいか、サウスが食いついてきた。でも、サウスに説明できるような仕事ではない。いや、いかがわしい仕事というわけではない。
雑誌とか、カメラとか・・・そういうのが理解できないだろうと思ってな。俺のへたくそな説明を聞いても、混乱するだけだろうし。
周りがコンビニや居酒屋、ファミレスなどの接客業をやる中、俺はカメラの前で女の理想の王子を演じていた。いや、カメラの前だけではないか。俺は人前では、王子を演じていた。
「詐欺師だな。」
「え?」
「いや、嘘だ何でもない。たぶん、この世界にはない仕事だから、言ってもわからないと思う。俺の住んでいたところとこの世界は、違いがありすぎるからな。」
「それは、残念ですね。それにしても、そこまで私たちの世界とは異なるのでしょうか?」
「そういえば、あまり前世のことは話していなかったな。」
「前世?」
隣を歩いていたサウスの足が止まったので、俺も止まってサウスを振り返った。
「前世とは・・・つまり。」
「・・・あぁ。俺は、一回死んだんだ。この世界に来る直前に、俺は刺されて死んだ。」
「死んだ・・・それは、もしかして召喚されたことが原因ですか?」
なぜか汗を流すサウス。暑いのか?今日はそう暑いとは思わないが。
「それは、わからないな。召喚されるために俺は死んだのか、死んだから召喚されたのか。女神もそんなこと言ってなかったし。」
「そうですか。」
今まで考えたこともなかったが、俺はなぜ死んだのだろうか。
勇者として召喚されるために死んだのなら、たまったものではないが、おそらくそれは違う気がする。
俺の死に意味などない気がする。そう、それはこれからの死、魔王と対峙し、魔王に殺されて死ぬのと同じだ。
俺が死んだって何が変わるというのだ。俺を好きだと言っていた女だって、一時は涙を流すかもしれない。でもいつか忘れ去って、次のいい男にあこがれを抱くんだ。そんなもんだろ?
でも、もしも死んだことによって召喚されたのなら、俺は幸運だったかもしれないな。なぜなら、生き返って少しの猶予が与えられたのだから。




