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46 災害



 俺は、目を覚ました。

 いつもの朝。宿の天井の木目を覚えるほど、俺はここで寝起きしている。


 ここ、バクラドでは、ロジと共に新米冒険者として生活している俺だが、冒険者らしきことは一切していない。いや、冒険者が何たるかを知っているわけではないが。


 冒険者というからには、冒険をするものだと思う。いくら便利屋と言っても、「冒険」しようぜって、思うほどにしていない。


 一度、あまりにおかしいと思ったので、ロジに聞いたことがある。

「なんで、冒険者っていう名前なんだ?便利屋とか雑用係でよくないか?」

「それはそうじゃが、そんな名前の職業に就きたいと思うかの?」

「・・・名前なんて関係ないが、就きたいと俺は思わないな。」

「そういうことじゃ。」


 そういうことらしい。冒険者になる者も、若い男が多いらしく、冒険という言葉が好きそうな年齢層で、性別だなと納得する。


 鈴木から聞いていた話だと、こういうのはハンターとか言っていた気がするが、この世界は違うらしい。ハンターでもいいと思う。俺は、ハンティングしないけどな。


 俺が受ける仕事といえば、やはり街でできる雑用系ばかりだ。街の外に出るとしても、薬草採取くらいで、討伐なんて夢のまた夢。やりたいわけではないが、討伐という言葉には憧れる。


 討伐と言えば、最後に受けたのは「オーク討伐」で、その報酬はすごかった。今の微々たる報酬を見ていると、あれはすごかったと感嘆する。


 金が欲しいわけではないし、命の方が大事なので、もう受ける気はないが。




 朝食を食べ終え、俺はギルドに足を運んだ。今日は、ロジがいるので薬草採取をしようかと思っている。

 ロジがいない間は、まだ街の外に行くのは禁止されており、ロジも毎回一緒なわけではない。ロジがいるときにできることを選択するのは、自然なことだと思う。


「今日は、薬草採取か。お主も好きよの。」

「その言い方は、やめてくれないか。なんか、イラっとする。別に草取りが好きなわけじゃねーけど、ロジがいないとできない仕事だからな。てか、過保護すぎじゃねーか?」

「それはそうじゃの。薬草採取なぞ、お主の年齢で保護者付きで行うことではない。しかし、お主は特殊じゃからの。」

「だからって、もう5回はやってるぜ、これ。」

「そうじゃの。なら、今日は一人で行ってくるがよい。ワシも今日は別にやることがあるからの。」

「あぁ、わかった。」

 あまりにも簡単に許可が下りたので驚いたが、これで自由の身だ。正直、自分が強いとは思わない。はっきり言って弱いが、だからといって、いつまでも保護者同伴なのは、周りの目も痛いし恥ずかしい。


 これから行く森は、何度も行っているし、危険な魔物や動物と遭遇したことがない。はじめてのおつかいではないが、一人で行くにはちょうどいい。


 俺は、ギルドでロジと別れ、一人で街を出た。



 太陽が真上に昇る頃。

 薬草を集め終えた俺は、丁度いい木陰を見つけて座り、昼食の準備をした。もうおなじみとなった魔法袋から、サンドウィッチと果実水を取り出し、風景を楽しみながら食べ始める。


「平和だな。」


 人類存亡の危機とか、そんなのを想像していたが、魔王がいたって別にいいのではないかと思うほど何もない。襲われた町なんてものもないし、食糧危機とか病が広がったりとか、そんなものもないようだ。


 魔王は倒すべき存在なのか?


 俺の最近の疑問だった。魔王は、聞いた話だと町や村を襲うらしいが、そこまで深刻な事態ではないような気がする。それは、人の表情を見て感じたことだ。

 悲壮感の一つも漂っていない。もちろん、今日の食事分の金もないというやつは、やつれていて悲壮感漂っているし、すぐにでも死にそうだ。だが、それは魔王とは関係ないだろう。


 一般的な街の人間を見ていると、普通だった。通ってきた村や町、ルマスでも同じだ。

 魔王が倒すべき存在なら、もっと辛気臭い顔をしているのではないか?


 そもそも、魔王が危険と誰が決めた?


 それは、おとぎ話とされていた、神話。人類の敵である魔王が現れ、それに対抗するため、人類は神に祈りを捧げ、勇者を召喚してもらう。神話は、その勇者と魔王の戦いを描いていた。


 そして、魔王を倒した勇者は、この世界の新たな神となる。この世界は、前世に暮らしていた国と同じで、多神教だから問題ない。


 俺は、神にはならない。俺は弱いから、魔王なんて倒せるわけがない。この世界に魔王を倒せるものはいない。だから、魔王が危険な存在でないとしたら、それはいいことだ。だって、誰も倒せない存在が人類の脅威なんて、まるで災害だ。



 そう、災害。この時俺は、魔王のことをよく例えていた。だから、気づくべきだったのだ。災害は、恐ろしい。でも、それは災害を経験した者にしかわからない。


 俺は、災害を経験したことがなかった。


 あるのは、台風で停電を経験したりとか、そんなもの。それだけでも生活がかなり不便になった。だけど、それだけの経験でもわかることはある。


 俺の家は、2日間停電したままだった。だが、学校は30分程度の停電で済んだ。また、全く停電していない地域もある。そんな地域は、俺の家が2日間も停電していたことすら知らなかった。そして、どんなに不便だったかも知らない。


 つまり、そういうことだ。経験しなければわからないし、同じ国にいたとしても、その不便さなんかわからない。

 それが災害だ。




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