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 俺は、涙を必死に抑えて、流れてしまったものはぬぐった。


 俺に何ができるとかはないが、状況を把握するために辺りを見回す。

 立っている敵の数は5人。魔法使い2人と剣士3人。


 ジュリアは防御に徹し、攻撃魔法を防いでいる。ロジは、敵の魔法使いに魔法で攻撃しているが、敵も防御魔法を使い攻撃を防いでいた。


 サウスは、なんと剣士3人を相手にしている。


 盗賊たちをいとも簡単に倒したサウスだが、今回の敵は技量が盗賊たちとは違うようで、3人もの相手は難しいようだ。手数が足りなくなると、ロジが援護して何とか均衡を保っていた。


「そこの枯れた人。」

「それは、まさかワシのことか?」

「そうよ。私の代わりに防御魔法を張って頂戴。私が高威力の魔法で、あの2人を防御魔法ごと蹴散らすわ。」

「・・・わかったわい。」

 心配そうにサウスを一度だけ見やり、ロジは攻撃魔法をやめて、防御魔法を使う。


「なるべく早く頼むぞい。」

「わかっているわ。」


 ジュリアは、少し考えるそぶりをしてから、杖を敵に向けた。


 俺が2人の様子を見ていると、連続して聞こえていた金属音、剣同士がぶつかり合う音に乱れが出てきた。


「ぐっ。」

 聞きなれた声がうめくのを聞いて、俺はそちらを見る。


 サウスの肩から血が流れていた。


「サウス!」

 俺は剣を握りしめ、走り出そうとしたが、必死に抑えた。俺が行っても足手まといなことはわかっている。


 悔しくても、俺はサウスを助けに行くわけにはいかない。


 ロジの支援がなくなったサウスは、明らかに不利になっていく。次々と新しい傷を増やし、息も上がっていた。


 敵の攻撃をはじき返し、後ろからの攻撃を受けたサウス。こちらの方に顔を向けていたサウスの、その表情が少しゆがんだ。


 サウスの名をもう一度叫ぼうとしたとき、サウスの胸から剣が突き出した。


「ぐはっ。」

 血を吐き、膝から崩れ落ちるサウスから目が離せない。


「嘘だろ・・・」


 目の前の光景が信じられない。サウスの胸に剣が刺さっていた。サウスが血を吐いて、倒れている。胸からはすごい量の血が流れだしていて、あれでは死んでしまうのではないか?


 敵が、こちらに剣を向けている。走ってこちらに近づいてきている。


 敵が炎に包まれた。


 敵は倒れて、こちらに来る者はいない。サウスは、倒れて動かない。


「サウス?」

「この、馬鹿者!」

 サウスの名を呼ぶが、ロジの怒声にかき消される。ロジは、サウスに駆け寄る。俺も、サウスのもとに行かないと。



 よろよろと、俺はサウスに近づき、すぐそばまで来て座り込んだ。


「サウス。」

 名を呼ぶが、サウスは返事をしないばかりか、目も開けない。


「サウスっ!」

「無駄じゃ。」

 大きな声で叫ぶ俺をロジは止めた。無駄とはなんだ?その疑問は、すぐに解消された。


「もう、死んでおる。」

「・・・嘘。」


 嘘だ。だって、さっきまで生きていた。こんな簡単に人が死ぬわけない。こんな簡単に人は死んではいけない。


 それに、サウスは死ぬべき人間じゃない。死ぬ必要なんてない。だから、死んではいけない。なのに。


 わかっている。もう手遅れだって。


 でも、受け入れたくない。受け入れられない。誰か、助けてくれ。俺が勇者だというのなら、願いの一つでも叶えてくれよ、神様。

 俺は、弱くて何もできないけど、魔王と対峙する義務は果たすつもりだ。だから、お願いだ。これをなかったことにしてくれ。


「サロ。」

 神に祈る俺の耳元で、俺の名を呼ぶ女の声。女の吐息がかかり、ぞっとした。なぜなら、その息はひどく冷たかったから。


「死にたくないと言ったわね。魔王を倒せば、生きられるとも。」

「あぁ。でも、それがなんだよ。」

 ぐちゃぐちゃの思考が、なぜか正常に戻り、今は頭が冷えていた。ジュリアの唐突な質問も理解ができるし、答えられる。だが、なぜそんなことを今聞くのか。

 サウスの死の直後に。


「今でも死にたくないと思うのかしら?」

「当たり前だ。なんだよ一体。」

「そう。この男は、大切な人ではなかったの?」

 この男、サウス。


 俺はサウスを見た。大切かどうか?そんなことを言われてもわからない。でも、ただひとつわかるのは、サウスは死んではだめだ。何がだめかとか、理由なんてない。俺が許せないだけだ。


「大切とかわかんねーよ。」

「なら、この人に死んで欲しかった?それとも、生きて欲しかった?」

「そんなの、生きてて欲しいに決まっている!俺は、こいつに何度も助けられた。命とかそういう意味でもそうだし、なんつーか、その、救われたんだよ。」

「ふーん。大体わかったわ。なら、これでいいわね。」

 一人納得したような様子で、ジュリアは俺の隣に来て、俺の顔を覗き込んだ。


「サロが、死ななくて済むように、私が魔王を倒してあげるのと」


「この男が、生き返るように、私が魔法をかけてあげるの」


「どっちがいいかしら?」



 なぜとか、どうやってとか。考えることはたくさんあったと思う。

 でも、冷え切っていた頭は、ただ冷静に俺の願いを口にした。


「サウスを生き返らせてくれ。」

「わかったわ。」

 俺の言葉を聞いたジュリアは、なぜか少し悲しそうに、でも満足した様子で笑って答えた。




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