43 仲間
「あぁ、全くしょうがないわね。」
倒れて、血を吐いた俺にかかった影は、ジュリアのものだった。
「死になさい。」
ゾクリと、悪寒がはしる。
次に、先ほどのオーガの足音よりも何倍もでかい音が聞こえた。それは、何か大きなものが倒れるような音だ。
「サロも、いつまでも寝ていないで、起きなさい。」
そんな声をかけられた後、何か冷たい液体が降ってきて、俺はびしょぬれになった。
「何するんだよ!」
俺は起き上がって、ジュリアに怒鳴る。
「何って、ポーションをかけてあげたの。もうどこも痛くないでしょ?感謝しなさいよ。」
「あ、本当だ。」
俺のそんな様子を見て、ジュリアはため息をつく。
「あなた、自殺願望でもあるのかしら?弱いくせに、討伐依頼なんて受けちゃって、お馬鹿さん。」
「・・・」
どうやら、ジュリアに俺を殺すまでの気はなかったようだ。俺がただ先走っただけのようで、少し恥ずかしい。いや、かなり恥ずかしい。
俺は、立ち上がって、ジュリアの背後を見た。
そこには、地面に倒れたまま、ピクリともしないオークの姿がある。
「お前は強いんだな。」
「・・・そうね。私は強いわ。うらやましいかしら?」
「あぁ。」
「それはなぜ?」
その答えは決まっていた。俺が強ければ、魔王を倒せるかもしれない。そうすれば生きられるから。俺もサウスもロジもって、もう2人は関係ないか。
「それは、魔王を倒したいからだ。」
「なぜ、魔王を倒したいのかしら?」
「死にたくないから。」
「死にたくないから魔王を倒すの?なぜ?」
「なぜって、質問ばかりだな。死にたくないって、そんなにおかしいことか?お前は死が怖くないのか?」
「私が聞きたいのは、なぜ魔王を倒す力が必要なのかということよ。死ぬのが怖いなら、魔王を倒すなんてこと考えなければいい話よ。」
「俺は勇者だ。だから、力がなくたって、怖くたって、魔王と戦わなければならないんだよ。」
「なぜ?」
ジュリアは、悲しそうな目をして俺を見ていた。あまりの質問攻めに、怒鳴りたくなった俺だが、その顔を見て戸惑い、とりあえず質問に答えた。
「そう、決まっているから。」
「・・・あなた、優しいわね。でも、愚かだわ。」
「悪かったな。どうせ俺は馬鹿だ。」
「馬鹿とは言ってないわ。ただ・・・」
ひゅん
鋭い音が鳴って、俺の足元に矢が突き刺さった。
「無粋な人たちね。」
ジュリアは肩をすくめて、杖を構えた。
「話はそこまでだ。」
そう言って、茂みの中から数名の男が、こちらのひらけた場所に出てきた。
「お前が召喚された勇者で、間違いないな?」
「・・・」
俺は何も答えない。馬鹿正直に勇者だと答えるのは、まずいと感じ取った。でも、男は俺が勇者だと確信しているようで、俺の答えなど関係がなかった。
「オーガすら倒せない勇者など、人類にとって害でしかない。殺せ。」
男が最後の言葉を吐いた瞬間、男の仲間がそれぞれ武器を構え、魔法と矢を放ってきた。剣や槍を持っている者は、こちらに駆けてくる。
「面倒ね。」
ジュリアが杖を振ると、青白く輝く壁が俺たちの前に現れ、魔法と矢の攻撃を阻んだ。
俺も、一応剣を構え、敵の動きを目で追う。しかし、動きが速すぎるし、複数名の状況を把握することは難しいので、とりあえず一番近くまで来た、剣の男を追った。
サウスと同じで、大剣を持った男が、こちらに向かってくる。ジュリアは、他の男たちは足止めしたが、この男だけは放置した。こいつは俺に任せるということか?
俺は、剣を握っている手に力を込めた。
すぐそばに、剣を持った男がいた。男の射程に入ったようで、男はこちらに剣を振りあげている。
俺は、衝撃に備え剣を構えた。
そして、まさに男の剣が振り下ろされるというとき、男が目の前から消える。
「な!?」
回り込まれたのかと、後ろを振り返ると、俺の腕が誰かに捕まれた。俺の腕をつかんでいるのは、大剣を持った男だ。
「大丈夫ですか。」
「サウス!?」
俺の腕をつかんでいたのは、サウスだった。腕を掴まれていなければ、俺はサウスを刺していたかもしれない。よかった。
「全く、急いで追いかけてみれば、斬られそうになっているところで驚いたわい。」
サウスの後ろには、やれやれと言った様子で、ロジが杖を構えていた。
よく見れば、先ほどの男が、地面に転がっている。ロジが魔法で倒したのだろう。
「なんで。」
なぜ2人がいるのか。生意気にも、仲間はいらないと言った俺に、なぜついてきてくれたのか?
「話はあとじゃ。まずはあれを片づけなければの。」
「照れているのか、ロジ。」
「からかうでないわ。行くぞ、サウス。」
「わかっているさ。」
固まった俺の肩に、サウスは軽く手を置いた。
「少々お待ちを。すぐに片付けてきます。」
「ああ。」
なんでだろう。鼻の奥がツンとして、どうにも抑えられない。
目の前に、自分を殺そうとしている敵がいる。気を緩めるべき状況ではない。
でも、なぜだろう。ほっとして、目に涙が溜まってしまう。情けない。でも、これは悔しいとかそういう涙ではない。ただ嬉しくて、出てしまった。
守られている事実が、悔しさより嬉しいと思ってしまう。これではいけないとわかっているのに。
敵の前で、俺は嬉し涙をこぼした。




