31 俺は偉い
向かい合って胡坐をかいている2人。サウスとロジは何か真剣な顔をして話していたが、俺が近づくと話をやめてこちらを向いた。
「どうかなさいましたか?」
「いや・・・あの。」
「なんじゃ、歯切れが悪いの。」
実際話し出すことが難しい。今から言うことは嘘だから。だが、この嘘を言うのなら、言いにくそうな感じが出ていた方がいいので、俺はそのまま続けた。
「悪い・・・精霊からもらった巾着、盗賊に取られた。」
「え?」
「は?嘘じゃろ?」
嘘だ。ロジ、よくわかったな。
「そうですね。それは嘘でしょう。」
え、サウスまで?信じられないという思いからの、嘘だろ発言ではなく、俺が嘘を言っていることに気づいているようだ。なぜだ?
「なぜわかるのか?という顔をしていますね。わかりますよ。だって、全部見ていましたから。俺が、偶然居合わせてあなたを助けたと思っていましたか?違いますよ。」
確かに、俺はサウスがたまたま戻ってきたところ、俺が襲われていて、それを助けてくれたのだと思った。だが、今思えばタイミングが良すぎる。
「俺は、あなたの騎士です。いつでもあなたを守れるように、そばにお仕えしています。」
「・・・嘘だよな?」
先ほど、2人が俺に掛けた言葉を、今度は俺がサウスに掛けた。
嘘だと言って欲しいという思いで言ったのだが、俺の願いは届かなかった。
「安心してください。嘘ではありません。」
笑うサウスに、俺の背筋が凍る。
俺は、若干震えながらロジを見た。否定して欲しくて。
「小僧・・・残念ながら本当のことじゃ。黙っていて悪かったの。しかし、いつも他人に見られておると知ったら、かなりのストレスを感じることじゃろうと思ってな、黙っておったのじゃ。」
あぁ。かなりのストレスだな・・・って、怖いわ!ストレスどうこうの前に、怖すぎる!ホラーだろ!
「なんで、そんなことを?別に、俺は逃げたりしないし・・・」
「もちろん、守るためです。あなたが逃げるなんて、疑っていませんよ。」
「守るため?」
「はい。」
「そうじゃ。ワシらは、お主を死なせるつもりはない。」
ロジの言葉に、俺は固まる。
死なせるつもりがないだって?
「まさか・・・魔王に勝つつもりか?」
そんなわけないと思いつつも、俺が死なない方法はそれしかないと思っているので聞いた。何の力もない俺が、魔王に勝てるわけがない。
そして、剣の扱いが長けているサウス、魔法が使えるロジも魔王には勝てないだろう。勝てないから、勇者召還が行われ、俺が召喚されることになったのだ。
「・・・いや、それは無理じゃの。お主もわかっておろう。ワシが言いたかったのは、魔王と対峙するまでの間じゃ。」
「ま、そうだろうな。驚いたよ。発言には気をつけてくれ、もうろくしたのかと思ったぞ。」
「なんじゃと!」
ロジがものすごい形相で怒ったので、思わず笑う。
「それで・・・」
話に一区切りついたところで、サウスが本題に戻した。
「なぜ、嘘をつかれたのですか?嘘をつくのには、それなりの理由がありますよね?」
さて、困った。だが、これでよかったのかもしれない。ウソがばれるのを怯えて行動するのは、危険だったろうしな。
「俺は、俺たちを襲った盗賊の拠点に行きたいんだ。」
当然そんなことは反対されるだろう。だから嘘をついた。あの巾着の中には、サウスやロジの荷物が入っているし、便利なアイテムなので取り返しに行くことになると思って、盗られたと言ったのだ。
俺が盗賊の拠点に行きたいと言った2人の反応は、俺が思っていたものと違った。
「・・・やはりそうですか。」
「ま、予想はしておったがの。」
俺の考えは、2人にまるわかりらしいと知り、なんだか恥ずかしくなった。
サウスが真剣なまなざしで問いかける。
「さらわれた女性たちを救いたいのですか?」
「そうだ。」
俺は迷いなく答えた。
正直こんなことを言うのは恥ずかしい。救いたいと言っても、俺が救うわけではない。サウスとロジに任せきりになるのは、目に見えているからな。
「わかりました。では、準備を整えたら行きましょう。」
「え?」
「何を驚いているのじゃ。お主が言ったのじゃろう?助けに行くと。」
「でも・・・いいのか?」
俺は、うまく言葉にできず、それだけを聞いた。
サウスは、嬉しそうに笑って頷く。ロジは意地悪そうに、にやにやと笑った。
「逆に聞くがの。何か悪いのか?」
俺はその言葉に、はっとした。そうだ、俺は何も悪いことを言っていない。ただ、人助けをしようと、勇者らしいことを言っただけだ。たとえ、俺にその力がないとしても、それは勇者として、正しい。
「いや、悪くない。よし、行こう。」
「はい。」
「偉そうにするでないわ。何の力も持たない小僧が。」
「悪かったな。でも、俺は偉いんだ。」
胸を張った。恥ずかしいが、先ほどより恥ずかしいという気持ちは消えている。それがいいことか悪いことかはわからないが、俺にとってはありがたい。
「俺は、勇者だからな。」
だから、俺は女たちを助けだす。だって、それが俺の役目だから。




