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25 不幸の知らせ



 暗闇にぽつぽつと、不規則に小さな光が並んでいる。星空か。

 さわさわと、心地よい音が辺りから聞こえる。草が、風になびく音か。ここは草原?


 膝を抱えて座っていた俺は、手を地面につけた。それは、草や土の感触ではなく、固い石の感触がした。俺は、コンクリートの上にいるのか?


 俺は、大きな石の上にいた。


「この世界には、なれましたか?」

 唐突に、背後から声をかけられた。その声は、落ち着いた女の声。どこかで聞いたことがある声だ。


「・・・」

 誰かと、問いたかったのだが、声が出なかった。


「何の力も持たない勇者よ。あなたは、まだ無駄なことを続けているのですね。」

 馬鹿にされたのか?


「素振りをいくらしても、あなたは強くなど慣れませんよ。たとえ、何十年という月日をかけたとしてもね。」

 その事実に、俺はやはりとしか思わなかった。まだ、1か月としていないが、自分の成長ぶりを見れば、強くなれないことは悟っていた。


「あら、もっと絶望するのかと思いましたけど、平気なんですね。でも、これから先、あなたは耐えることができるのかしら?」

 楽し気に話す女。あともう少しで、この女のことを思い出せそうなのに、思い出せない。


「おんぶにだっこの旅は、お気楽でいいですね。ですが、その旅も2人がいればこそ。もうすぐ、それも終わります。」


 どういうことだ?


「言わねばわかりませんか?」


 2人がいればこそ・・・2人がいなくなる?


「それはどうでしょうか?私も、全てを見通せるわけではありませんので。」

 女が笑う気配がした。


「せいぜい、お気をつけて。あなたが気を付けたところで、何も変わらないとは思いますがね。」


 馬鹿にされている。見下されている。

 腹立たしいが、言い返せない。俺が気を付けたところで、どうにもならないことがいくらでもあるのは、本当のことだ。


「もっと下等生物らしく、わめき散らせば、まだ可愛げがありますのに。そうそう、何か思い出したりとかはしていませんよね?」


 思い出す?この女のことでさえ、俺は思い出せない。どこかで聞いたことがある声のはずなのに。


「それはよかった。今思い出されても、面白くありませんからね。しかし、少しは思い出されているはずなのに、私のことがわからないとは、可哀そうな頭の持ち主ですね。」


 こちらが言い返せないのをいいことに、好き勝手に言っている。馬鹿にされている分はまだよかったが、憐れまれると流石にくるものがあるな。


「私は、あなたに呪いをかけた者です。」


 呪い?


 あれか!加護を付けたという女神か!そうだ、そういえばこんな声だった。


「良かったですね。これですっきりしたでしょう。これから、機会があればこうやって不幸の知らせをしてあげます。喜んでいいのですよ?」


 不幸の知らせって・・・そんなもの嬉しくない。


「あなたが嬉しいとか、関係ないのですよ。私が面白いかどうか、それが重要なんですから。どうです?この世界にはなれましたか?その体も、素敵でしょう?」

 女神の意地の悪い声が聞こえ、思わず歯ぎしりをした。


 俺の体をこんなフツメンにしたのは、おそらくこの女神だろう。


「はい、そうです。唯一自慢できる容姿を奪ったらどうなるか?そんな実験のようなものです。面白いと思いませんか?」


「勇者が、何の力も持たない、役立たず。そういうのも面白いですよね。どうです、この世界の人間は?役立たずのあなたでも、優しく向かい入れてくれましたか?」


 俺は、城を追い出された。魔王を倒すというのに、その力もなく、供の者も2人だけ。武器すら渡されなかった。


 歓迎されているという印象はない。何も期待されず、ただ魔王に倒されることだけを望まれた気がした。


「仕方がないですよね。だって、あなたは何の力もない。魔王を倒す保証もないのに、強い仲間や希少な武器なんて渡せない。しかし、あなたは勇者。力がなくても、その肩書がある限り、守られる者ではなく、守る者、強き者として扱わなければならない。」


 本当は、弱い、守られるべき者なのに。


「でも、実際あなたは守られている。仲間に守られる勇者、それがあなた。いつまでそれが続くのか、いつまで私を楽しませてくれるのか・・・できれば、最後まで楽しませてくれることを望みます。」


 お前の望みなんて知るか。お前は、俺が魔王に倒されて死ぬことを望んでいるのだろうが、簡単には死なない。


 何の力もない俺を、魔王と対峙させるように勇者の肩書を付けて、加護で強くなることを防ぐために、何の効力もない加護を付けた。


 なぜ、そこまでするのかわからないが、俺は死なない。


「死にますよ。いずれね。不死にはなれませんから。」


 それは、そうだが。いや、そういう死じゃなくて・・・

 調子が狂う。女神とはこんなものなのか?


「そろそろ、時間ですね。また、会いましょう。次の不幸があなたに近づいたときに。」


 いらない。


「本当に要らないのですか?」


 ・・・


 俺は何の力もない。悪いことが起こるとわかっても何もできない。だが、知っているのといないのでは違うだろう。これは、必要なことかもしれない。


「馬鹿なりに考えるところ、好ましいですよ。では、また。」


 風になびく草の音が小さくなる。


 視界が狭まる。


 女の気配が感じられなくなった。




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