21 イケメン高校生な俺
「ねぇ、見て。宮前君だよ!」
「ホントだ!今日は運勢最高だね。」
昼休み。高校の制服に身を包んだ俺が、少し歩いただけでこの騒ぎだ。本当に俺の顔は、かっこいいから困る。
俺は事実を再確認して、人気の少ない階段を上がる。校舎の端にあるその階段は、日のあたらない場所にあるのと、利便性が悪いことでいつも人気が少なかった。だが、俺にとっては人がいないことは都合がいい。
人に四六時中囲まれているのは疲れる。移動時間くらいは、一人でいたい。誰の視線も気にせずに。
しかし、人気が少ない場所では、先生の目を気にしなければならない行いをする者もいるわけで・・・
「約束通り来たんだから、僕のお弁当返してよ。」
聞きなれた声が、上の階から聞こえた。
鈴木だ。
「俺ら友達の鈴木のために、あることを考えたんだ。それはな、鈴木の健康にいいことだぜ?」
「いいから、返してよ。もう時間もないし、すぐに食べないとお昼を食べそこねちゃうよ。」
「まだノブが話してんだよ!聞けよ、豚!」
揉み合うような音が聞こえる。俺は、その場で立ち止まっていた。
「そう、豚。お前さ、メタボっていうんだよ、その体型。メタボは良くないんだぜ?昨日のテレビでやっていたから間違いない。」
「俺も見た!あれは悲惨だよな。俺、鈴木にあんな悲惨な目にあって欲しくないんだよ。」
心配しているというような言葉を吐いているが、その声色はいかにも楽しそうだ。猫がネズミをいたぶるような、残酷さが垣間見える。
俺は、階段をのぼった。
一段だけのぼって、立ち止まる。
「だから、ダイエットしねーとな!けど、ダイエットって、一人でするの大変だろうから、俺らがサポートしてやるよ!」
がしゃんと、何かが落ちる音が聞こえた。
「ひっひどいよ・・・」
「これで、昼飯は抜きだな。これもお前のためだ。きっと俺たちに感謝することになるさ。おい、お前ら行くぞ。」
「頑張って、ダイエットw」
「ぷふっ。ひでーかお。あ、元からか。」
笑いながら去っていく男たちに、鈴木は何も言い返さなかった。俺も、何も言わなかった。
俺は、再び階段をのぼり始めた。少し速足で、今度は止まらずに上の階まで行く。
「鈴木・・・」
「梅君?」
鈴木は、ひっくり返った手作り弁当を拾い集めている。
「ふふっ。困ったよ、本当に。昼抜きなんてさ、死にそうなくらい苦しいよね。」
「・・・」
笑った鈴木に何も返せない。俺は突っ立ったまま。
「ま、どうせ時間もないし、食べ損ねることになったんだけどね。でももったいないな、お弁当。3秒ルールで食べれるかな?」
「それは、やめとけ。お腹壊すぞ。」
「そうだね。梅君、先に行って。そのプリント出しに行くんでしょ?」
鈴木は俺の手に持ったプリントを見てそう言うが、俺はその言葉にも動けない。ただ、俺は疑問を口にした。
「なんで、笑えるんだ?」
その言葉に、鈴木の動きが止まり、俺は少し焦りを感じた。
「・・・梅君、君は僕のことをどう思っているの?」
「お前のことを?」
「そう、僕のこと。」
鈴木は、気のいいやつだ。でも、女子にはキモイとか思われていて、男子からは蔑まれている。可哀そうなやつだ。
だが、俺の友達。
「僕は、可哀そう?」
「あぁ。」
「僕は、気持ち悪い?豚だと思うかい?」
「いや、それはない。だいたい、気持ち悪いなんて・・・そう思っている奴らの方が気持ち悪い。」
「そう。やっぱりそうだよね、梅君は。」
「どういうことだよ?」
「梅君は、良い人だってことだよ。ほら、早く行かないと、チャイムなっちゃうよ。」
「あ、ヤバ。じゃ、また後でな。」
「うん。」
帰り道。俺はいつものように鈴木と帰っていた。
「そうそう、君に僕の宝物を見せてあげる。これだよ。」
「・・・なんだこれ?ドラゴン?」
鈴木に見せられたのは、一枚のカード。そこには神々しい姿の白い生き物が描かれていた。
「僕がね、カード大会で入賞した記念にもらったカードだよ。もう手に入らない貴重なカードなんだ。これがあれば、あんないじめなんて、なんとも思わないさ。」
そういえば、鈴木がこそこそと何かを眺めている姿を何度か見た。このカードを見ていたのか。
「ふーん。俺にはよくわからないや。けど、良かったな。レアアイテムってことだろ?お前そういうの好きだもんな。」
「ま、そうだけど・・・レアアイテムとはちょっと違うかな。だからね、梅君。気にする必要はないからね。」
「気にするって、昼のことか?なんでお前、先生に言わねーんだよ。」
「うーん。僕の場合は先生で解決できることではないと思ったからね。むしろ悪化する危険性の方が高いんだよ。だから、君もいいつけたりしないでね。」
「しねーよ。」
「ま、そうだよね。それで、今日はどっちの家に行く?」
こうして、たわいもない会話をして帰った。
その次の日に、鈴木がひどい目にあうとも知らずに。
「はっ!?」
目を開ければ、この数日で見慣れた天井があった。ここは、宿の俺の部屋だ。
「起きたの?もっと寝ていればよかったのにね。寝ているあんたは、少しはましだったわ。」
今日二度目の、目覚めたらロリがいたという光景。
「俺、寝てたのか。」
「寝ていなかったのなら、何をしていたのよ。あんた、夢見が悪そうね、うなされていたわよ。」
「夢・・・か。確かにろくな夢じゃなかった。」
もう、俺には関係のない世界の話だ。なのに、こんなにも胸を苦しめる。
「汗びっしょりじゃない。喉乾いたでしょ?水飲む?」
「あぁ。」
水をコップに注ぎ、俺に手渡したロリは、ベットの端に腰を掛ける。
「で、どんな夢だったの?」
「たいしたことじゃない。」
「さっきと言ってることが違うじゃない!?たいした夢じゃないのなら、あんたはなんで汗びっしょりなのよ・・・」
「汗っかきなんだよ。」
話す気はない。俺は、ロリと目も合わせずにそう言って、寝直すために布団をかぶった。
「もうっ!人が心配をしてあげているのに!」
「・・・」
「そんなんだから、呪いみたいな加護が付くのよ、べーだ!」
ロリの言葉が、頭に残る。
呪いみたいな加護。そんなものを付けられた俺は、一体何なのだろうか。
少なくても、勇者ではないと思う。




