22 ロジとロリ
「あんた、本当に才能がないわね。」
「うるさいな。」
あれから2週間、ロリはずっと俺について、俺の邪魔をしていた。今日も日課となった素振りをしていたら、俺のやる気をそぐようなことを言ってくる。
「聞いた話だと、剣を持つこともできなかったのよね?それからすれば・・・ま、成長はしているようだけど。」
「・・・」
「これ以上、成長する兆しがないわ。あんた、その剣で人が斬れると思ってるの?」
「わかってる。だけど、これしか・・・素振りしてるしか、ねーんだよ。」
一週間前に、剣を教えていた者が言った。
「もう、教えることはありません。あとは、あなた次第です。」
技という技のようなものを教えてもらえず、ただ剣を振ることしか教わらなかった。おそらく、見捨てられたのだろう。
「魔法は使えない。なら、これでしか身を守れない。成長できなくても、これ以上弱くならないために、剣を振るしかねーんだよ。」
「そう。可哀そうな人ね。」
剣を振る。走る。
せめて、体力だけでもつけなければ。
夜。とある酒場で、ロジはちびちびと酒を飲んでいた。そこへ、一人の精霊が現れる。
「来たわよ。」
ロリと勇者が呼ぶ精霊、ロマリアだ。
「遅かったの。ま、座れ。」
「言われなくたってそうするわ。」
そう言って、ロジの前の席に腰をおろし、足を組んで机に頬杖をついた。
「あいつ、夜まで頑張ってたわよ。勉強以外の時間は、体力づくりで走ったり、素振りをしているの。それでも・・・」
「成長せんか?」
ロリは無言で頷いた。
「呪われている・・・なんて、冗談だったんだけど、本当にそうなのかもしれない。本人もそう感じているようね。だいぶ焦っているみたい。」
「じゃろうな。」
「ま、それでも無理やり息抜きはさせているわ。あんたの依頼は完遂させるつもり。安心して?」
「少しは、楽しめておるかの?」
「さぁ?息抜きは出来ているようだけど、わからないわ。あんたが言った、ご飯を一緒に食べたり、お茶をしたり、買い物に行ったりはしてるけど。」
「最悪、楽しませてくれるだけでよいのじゃ。」
「それが一番難しいわ・・・って、あいつを強くするのも難しいけど。加護が付けれればよかったんだけどね。」
「まさか、あやつに加護かついているとは、思いもしなかったの。」
「それは、私もよ。」
「もうすぐ、ここを出るつもりじゃ。」
「そうなの。」
「・・・今まで世話になったの。今しばらく、あやつの傍にいてやってくれ。」
「別にいいけど、あいつは女の子が苦手みたいよ。打ち解けてはいるけど、壁があるのを感じるわ。他の男にでも頼んだ方がいいんじゃない?」
「・・・なぜかわからんが・・・サウスの直感でな、あやつは女に慣れさせて方がいいというんじゃ。」
「・・・サウスの直感ね。なんか当たりそう・・・ま、それならいいわ。」
ロリは立ち上がった。
「もう行くのか?」
「ご飯はあいつと食べてきたし、最近朝早いのよね、あいつ。」
ロリは席から離れて、出入口へと向かうが足を止めた。
「そういえば。」
「なんじゃ?」
「・・・あいつ、たまに違和感があるのよね。気のせいかしら?」
「気のせいじゃな。あやつはただの人間じゃ。」
ロリは一瞬目を細めたが、何も言わずに店を去った。
ロリが去り、ロジは一人で酒を思いのままに飲み干した。今日はもう話す相手はいない。なら、飲みたいだけ飲めばいい。
「しかし、違和感とは。」
ロリが感じていた違和感。それは、ロジにも心当たりがあった。勇者とか単純な理由では片づけられない、何か。
隠しきれていない尊大な態度、全てを見下すような目。しかしそれは、期待をしないという消極的な感じを読み取ることができ、哀れに思える。
そんな、哀れにも思えるが・・・貴族のような傲慢さの中身で、自信がなさそうなさがり眉に、貧相な体つきという外見。そう、外見と中身がちぐはぐなのだ。
そういえば、城のメイドの報告に奇妙なものがあった。
なんでも、最初に着替えるために部屋に案内した前と後では、別人のように違っていたと。まるで、入れ替わったかのような・・・
「まさかな。入れ替わりなど・・・」
あるわけない。そう笑うはずだったのだが、うまく笑えなかった。
勇者は、特殊な力を持っている。そして、総合的に他の人間より強い。それは、神話を見れば明らかなことだ。
剣術で魔王を倒した勇者、魔術で魔王を倒した勇者、魔法とは違う節理のものを使い魔王を倒した勇者・・・どれも、得意分野はあったようだが、普通の人間よりは強かったようで、当時の騎士団長や宮廷魔術師も勇者に勝ったことは一度もなかった。
それほどの別格。だから、この世界の者たちは勇者を求めた。
しかし、召喚されたのは平凡な人間。
剣はサウスより劣る、という前に剣を持つことすらできない。
魔法はロジより劣る、という前に魔法を使うことすらできない。
知識もない。
そんな勇者を、サウスは女神の加護をもらえなかったのではないかと考えた。神話に登場する勇者は、女神の加護を授かっていた。それもあって強かったのだろう。
しかし、その予想も外れ、おそらく勇者は加護を持っている。それも女神の加護を。
「神の気配・・・そう言っておったの。」
ロリの言葉を思い出す。おそらくそれが、女神の加護。
その加護は、何に付与されるものなのか?体?魂?
もし、あの勇者が入れ替わったとして、それが原因で弱いのだとしたら?
ロジは深くため息をついて、酒をあおった。
「関係ないの。」
おそらく、勇者は答えを知っている。勇者は何かを隠している。それは、サウスとの共通認識だった。しかし、それを勇者は話す気はないようだし、2人はもうすぐ死ぬ予定なのだ。知る必要はない。
「やることは変わらないのじゃ。」
勇者は、強くなる兆しはない。しかし、着実に知識は身についている。十分ではないが、時間をかけすぎるのもよくない。
「さて、行くとするかの。」
立ち上がり、しっかりとした足取りでロジは外に出た。




