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エピローグ。

 


 その後の話……というか後日談。



 朝、目を覚ますといつものように一郎太が眠っていた。

 初めはまたいつものことかと思いながら一郎太を起こそうとしたが、手が止まる、

 以前とはいくつかが違った。


 一つは、一郎太が女性になっていること。

 女人四足禁制のこの寮の中で、たった一人だけ女性の一郎太。そうやって理解すると、心臓がドキドキと次第に高鳴っていく。まさに禁忌ともいえよう。

 二つは、昨日のこと。

 俺は昨日、一郎太に告白をした。『俺はお前のことが好きだ』とそのあとは二人は幸せなキスをしてハッピーエンド。というわけにはいかなかった。

 お互いがお互いの意思を確認しあったあと、部屋の掃除をして、壁に穴を開けたことに対して寮長に平謝り、そして最後は……お互い色んなことがありすぎて眠たいから寝よう。

 ということで、何も起きなかった昨日の夜。


 ……たしか別々で寝たはずなのだが、……はてなんでだろう?


 そんなことを考えていると目の前からふわりと俺が好きな香りがしてくる。


 思わず手を伸ばし、一郎太の頬に触れる。


「……んー……雄一?」


 眠たそうな瞳を開けながら俺の名前を呼ぶ一郎太が愛しく感じた。


「あ、悪い、起こしたか……?」

「んふー……まぁ、いいよ。起きなきゃダメだし……ね?」


 にんまりと幸せそうな笑顔を作る一郎太。


「いつから潜り込んだ?」

「私たちが眠った後、なんか現実味が湧かなくてね。だから雄一のベッドに潜り込んだ」

「現実味が湧かないって……」

「だって、雄一があんなこというの初めてだし……」

「そりゃお前が……」


 男だから……。と言いかけたところで止まる。

 一郎太が不機嫌になっていた。


「ふーん、雄一がそんなこというなら昨日のことは無しだね」


 冷たく、言った一郎太は起き上がろうとした。

 その一郎太の手を俺は捕まえる。


「……雄一、手を離して。朝ごはんできない」

「今日くらい、いいだろう」


 そう言って俺は一郎太の体を布団の中に引きずり込んだ。


「わ……ぷ」

「朝、冷え込んでいて寒いから。もうちょっと側にいてくれよ」

「……お腹減ってない?」

「減った」


 唐突に鳴り響く空腹の訴え。それは俺の腹だ。


「むー」


 女性らしい反応に俺はさっきまでドキドキしていた心臓がもっと高鳴るのを感じた。


「……」


 それを多分、一郎太は分かっているだろう。

 最初は抱きつかれている状態だった一郎太は、俺の背中に手を回し、抱擁を受け入れる。


「幸せだなぁ」

「そうか」

「私が、初めて女として生きていいという瞬間だよ」

「……そうか」

「そうかそうかって返事のボキャブラリーが少なすぎじゃない?」

「そうだな」


 くすくすと、一郎太の笑いに俺も笑う。

 これ以上もなく、幸せなことはないだろう。と俺は再確認した。




「……」

「……」


 講義室に一郎太と一緒に入ると、そこには元カノがいた。

 そういえば昨日、俺はこいつから逃げて……だったな。


「どいてくれない?」

「西田君に話があるの」


 そこをどけという一郎太に、俺に用事があるという元カノ。


「わかった。ここじゃなんだし」

「えぇ」

「わるい、席とって待っててくれないか」

「わかったわ。できるだけ早くね」


 一郎太に伝えた後、俺は元カノと講義室を出る。


 講義室から一番近い、空いている講義室に元カノを先に入れたあと、俺も続いて中に入った。


「仲直り……したの?」

「なんで知ってる」

「そんな顔してるから」


 元カノの観察眼は侮れないと今更のように思った。


「昨日のこと。西田君は喧嘩別れした。と思ったのに、元の鞘に戻ったんだね」

「それの何がいけないんだ」


 俺は強く出た。

 元カノは俺の行動を見た後、寂しそうに声を出した。


「西田君はさ、どうしたかったの?」

「なにを?」

「私に、どうして欲しかったの?」


 質問の意図を考える。

 私に復讐をして、なにをしたかったのか。どうして欲しいのか。


「……」


 結果的に、俺の復讐は達成されていない。

 目的もなく、ただ、一郎太の口車に乗せられて一郎太と付き合うことになっただけだ。


「目的なんか……ない」

「……」

「ただ、逃がした魚は大きいってことだけを知って欲しかった」


 お前が手放したもの。今まで捨て続けたもの。

 それらは全てお前にとってはガラクタなのかもしれない。

 だけど、そんなガラクタを、そんな俺を拾って大事にしてくれる人もいる。


「俺は、お前に後悔をして欲しかったんだ」

「……そっか」


 その復讐は永劫続くものだ。

 俺が、俺たちが卒業するまで。俺たちが金輪際会わずに済むまで。ずっと。


「俺の話はここまでだ。もうないんだろう」


 元カノは静かになっていた。

 それを確認したあと、俺はその場を去ろうとする。


「……短い間だったけど、楽しかった。ありがとう……『藤村』」


 俺は彼女の名前を、一言だけ言い放って、講義室の扉をぴしゃりと閉めた。

 廊下に出ると、そこにいたのは一郎太だ。


「終わった?」

「あぁ、終わった」


 これで、俺の復讐は終わった。

 もう満足だ。これ以上にないくらい。スッキリした。


「本当はもっとあの子をズタボロにしたかったんだけどな」

「お前さらっと怖いこというよな」

「えー、そんなことないよ? 全ては雄一のためだもん」


 そこまで尽くしてくれとは一言も言ってないんだけどなぁ。

 俺の腕に巻き付いてくる一郎太。

 もう二度と離さないと言わんばかりの絡みつきようだった。


「なあ、一郎太」

「んー? なーに」

「一郎太のその病気。どうしたら治るんだ?」

「……」


 素朴な疑問だった。病気はずっと続くものではあるが、その性別が入れ替わり続ける病気は永劫続くものなのかわからない。


「前に言った。リボンの騎士の話覚えてる?」

「おとといくらいだっけ」


 うん。と一郎太は頷く。


「それとなにが関係あるんだ?」

「子どもは性別がないときに、男か、女の心を神様から与えられる。リボンの騎士はその両方をもらった」


 だけど、私はそのどちらももらっていない。


「……たしか、恵まれている。幸せなとか言っていたよな」

「うん。だから私にも、女の心を与えてくれたら治るよ?」


 しばらく考え込む。

 どちらでもない一郎太を男か女にするには、そのどちらかを与えればいい。


「そのなんだ?」

「もー、わかってないな」

「すまん。全くわからん」


 一郎太の顔を見ると今にも沸騰しそうなくらいに顔を真っ赤にしていた。その顔が俺の耳元まで近づいてくると囁いてきた。


「私とセックスしたら……私は女でいられるの」

「……」


 つまり、俺が一郎太を襲いさえすれば……女になるってこと?

 その衝撃の事実に俺は頭が爆発しそうなくらいに真っ赤になった。


「……わかった?」

「……あぁ、わかった」


 にっこりと笑った一郎太は俺に寄り添ってくる。


「私を、早く女にしてよね? 雄一」


 俺は、どう答えを返していいのかわからなかった。

最後までご愛読ありがとうございました。


これにてエイレテュイアの天秤終わらせていただきます。


今後のことを話しますと、雄一と一郎太はデキ婚して、一郎太は女として生きていきますよ。


もしよろしければ、感想や評価。どしどし送っていただくと作者冥利につきます。飛んで土下座します。

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