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揺れる。

 

「……よし、じゃあ! 今日のバイトお疲れ様のかんぱーい!」

「かんぱーい!」


 男の一人がみんなが飲み物を持ったのを確認して掛け声をかけた。

 俺は知らない居酒屋で知らないグループに囲まれて、ビールを持っていた。

 なんでこんなことになったんだっけ。と考える。

 ここにくる前は公園で野宿しようと思って……。元カノの奴に声をかけられて、飲み会に行くんだけどと誘われて、何を思ったのか俺はここにいていた。

 どうしてだ? と自分に問いかけてくるが、答えなんて帰ってくるわけがなかった。


「西田君西田君、乾杯」

「あ、うん」


 俺の隣には元カノがいて、カルピスサワーを片手に持っている。そして、ただ持っているだけの俺のビールにカチンと打ち付けてきた。

 ずっとキンキンに冷えたビールジョッキを持っているからか、手が冷たくて既に悴んでいた。

 辺りを見回す。

 そのグループには元カノと付き合っていたであろうイケメンの男はどこにもおらず、いるのは元カノと女性二人の三人と、先輩であろう男性二人の五人グループだ。

 その中に俺が混じっているのはとても不思議に感じる。

 みんな面識がないのに、よく部外者がいても気にならないな。と思った。


「あー、酒が美味いなー。こんな美少女たちと飲めるなんてお兄さんたちうれしいなー」


 中ジョッキのビールを半分ほど飲んだ男が顔を赤らめ、隣に座っている女性に話しかけてくる。

 話しかけられた女性も女性で嫌な顔をせずちびちび飲んでいたグラスから口を離した。


「もー! 先輩ったら何言ってるんですか。先輩たちだってまだまだ若いですよー!」

「俺たちまだ若いか。いやー、持つべきものは女性の後輩だなー。男の後輩もいいが、愛想が悪くて困るぜ」

「先輩下心見えまくりですよ」


 そんな馬鹿な褒め合いをしている奴らはケラケラとうふふと笑い合っていた。

 心の中を読まなくてもわかる。


『ヤリたい』

『財布はたんまりあるのかしら』

『酒臭い、離れてくれないかしら』

『ブサイクな奴らばかりだ』


 そんなクソみたいな考えが飛び交っているのを見なくてもわかっている。

 もちろん、女は視線はポケットに入っている財布に違いないのだから、男はあくまで財布の『付属品』なのだろう。

 ウォレットチェーンとかそういう感じの。

 隣でツンツンと腕に突いてくるのを感じた俺は隣を見ると元カノが申し訳なさそうにしている。


「西田君? ごめんね。全然知らない人の所に連れてきちゃって」

「まぁまぁ、そういうなよ。美咲ちゃん。外で一人ぼんやりしていた人がクラスメイトならほっとけないって」

「ほんと美咲ちゃんって優しいね」


 女の子の一人がそういうと周りがウンウンと頷いた。


「本当、いろんな人助けちゃうもんね。ほんと俺たちも助かっているよ」

「そうでもないよ。当たり前のことをしただけなんだから」


 隣で本当のように話す元カノに俺は何も感情を見せなかった。

 ポイント稼ぎとかよくやる。

 俺はそんなことを思いながら、ビールに口をつけた。


「それにしてもあの西田と一緒に飲めるとは思わなかったぜ」

「……あのとは?」


 男が、俺をみて言い放ってくる。俺はその意味がわからずビールから口を離した。


「突如現れた美女を彼女にしたんだろ? すげえ噂で持ちきりだぜ? なんでも手篭めにしたとかさ」

「そうそう。お前彼女とはなんの関係なんだよ」

「……」


 俺はどう答えたらいいのか悩んだ。

 肯定でもないし否定でもないその噂にどうしたらいいか。

 実は一郎太という同居人と付き合っています。なんて言えるわけがない。

 全寮制で、同居。しかも、女性に体を変化させれるなんてさらに言えるわけがない。


「なーなー、この全寮制の大学でどうやって見つけたんだっていってるじゃんかー。円ちゃんもきになるだろ?」

「私は……そんなに。人の恋路を邪魔するほどじゃないし……」


 嘘をつくな。俺に話しかけてきたくせに。

 でも、答えれないというのも事実だ。

 第一、一郎太とは付き合っていない。一郎太は俺がここにいるクソ女に復讐をするということに加担しているだけに過ぎないから、付き合っているという言葉は不釣り合いだ。

 でもそう思うたびに思う。この胸のざわつきに俺は毎回毎回苦しめられた。

 沈黙のまま何も話さない俺にイラつき始めた男が探し始める。


「なーなー、いえよー。恋バナくらいできるだろ」

「……そもそも俺、あいつと付き合ってない……」


 周りが騒ついた。

 チクリと心臓に痛みを感じた。


「え、……付き合ってないのかよ」

「じゃああのくっつきぶりはなんだったの?」

「仲良いようにしていたじゃない」


 突然襲い掛かる質問責めに俺は動揺した。隣にいるやつも、カルピスサワーを飲みながら考え込んでいる。

 チクチクと針が刺さっていく。心臓の動きを阻害するかのように、胸の痛みがどんどん増していく。


「え、じゃぁあの子ノーマークなんなら俺付き合っちゃおうかな」

「えー。無理だって先輩は」

「なんだとー。俺は一応モテて……」


 意識がぐらぐらとした。一本の針の先端の上でまるでバランスを取っているかのような……。不安定な場所にいるようだった。


「……西田君、ちょっと」


 グラグラと立場が危ぶまれる状態の時、隣にいた元カノに声をかけられる。

 元カノは手招きをして俺を外に連れ出そうとしていた。

 いまこの状況で、俺はその場から離れる他、選択肢がない。だから俺は元カノの手招きに応じることにしたのだ。

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