うんちしてまいります! :約4500文字 :SF :粗野
「皆様、こんにちは。内閣総理大臣でございます。私たちは今、この国の新たな時代の節目に立っております。私の呼びかけに応じ、皆様が力を合わせてくださったおかげで、ついにタウク星との会談が正式に決定いたしました。まさに私の努力が実を結んだのであります。本当にありがとうございます。会談に向けて、まだまだ学ぶべきこと、整えるべきことは山ほどある。私はそう考えております。それもスピーディーかつ着実に進めていかねばなりません。しかし私は、必ずやこの会談を成功に導き、タウク星との強固な同盟関係を築くことをここにお約束いたします! そして、他国のあらゆる脅威からこの国を守り、明るく希望に満ちた未来を実現してまいります! そのために……私自身も、うんちしてうんちしてうんちしてうんちして、うんちしてまいります! そして、食べて食べて食べて食べて、食べてまいります! 皆様にもぜひ引き続きうんちを食べていただけますよう、心よりお願い申し上げます。誠にありがとうございました」
あるとき、巨大な円盤が地球へ飛来した。
それは雲海の上に浮かぶ山脈のように巨大で、太陽の光を受けて鈍い金属光沢を放ち、静かに滞空していた。
その圧倒的な存在感と堂々たる来訪に、口を開けて見つめる者。頭を抱えて絶望する者。とにかく少しでも遠くへ逃げようとする者――人々はまるで踏みつけられた蟻の群れのように慌てふためいた。
技術力の差は、そのまま軍事力の差に直結する。いくら勇ましい言葉を並べたところで、戦う前から勝敗は見えていた。人類に抗う術などない。こちらを脅威と見なしていないからこそ、真正面から現れたのだろう――多くの人々はそう考えた。
しかし、円盤から使者が降り立ったことで空気は一変した。
なんでも、地球には友好を目的に訪れたという。穏やかな声でそう告げたタウク星人の使者は各国の首脳と会談を重ね、世界中を視察して回った。
各国の首脳たちは、我が国こそが最もふさわしい友好国であると示そうと、血走った目で接待に励んだ。子供たちに旗を振らせて歓迎し、伝統文化を披露し、豪華な料理を並べ、最先端技術を見せ、笑顔を貼りつけて媚びへつらった。
しかし、どの国を訪れてもタウク星人は去り際に決まって残念そうな表情を浮かべた。
何かが足りない。だが、いったいそれは何だったのか――その答えは、すべての国を視察し終えた後に開かれた会見で明かされた。
『あなた方地球人類は資源を無駄にしている』
その一言に人々は言葉を失った。まるで幼い子供が親から正論で叱られたときのような、言い訳をしたくてもできない羞恥が世界中の人々の顔を俯かせたのだ。
確かにそのとおりだった。人類は利益を求め、この星という巨大な資源を貪り続けてきた。森林を削り、海を汚し、大地に穴を開け、果てには戦争まで起こして奪い合っている。宇宙人の目にはどれほど愚かで未熟な文明に映っていることか。
今こそ、いや、ようやく人類が一つになる時が来たのではないか。国家や民族を超え、手を取り合うべきだ。会見を見守っていた人々の多くがそんな決意を胸に抱き、目にぐっと力を込めて顔を上げた。
しかし、その直後だった。
『なぜ、あなた方はうんちを食べないのですか?』
誰もが呆気に取られた。
聞き間違い、翻訳装置の誤作動、宇宙人特有のジョーク――一瞬のうちに様々な可能性が脳裏をよぎった。だが、そのどれでもなかった。タウク星人の表情は至って真剣であった。むしろ、人類の常識を疑うかのような目でこちらを見ていた。
そして、その後に続いた演説を聞き、人々は自らの考えを根本から改めることとなった。
食糞――確かにそれは自然界において決して珍しい行為ではない。多くの動物が栄養素や腸内細菌の再吸収を目的として行う、極めて合理的な行動である。
タウク星人もまた、それを行う種族だった。ただし、彼らにとってそれは単なる生理現象にとどまらない。神聖な儀式であり、生命の循環を体現する崇高な営みだという。文明の根幹を支える倫理観そのものだったのだ。
さすがにこれを真正面から否定する愚かな政治家はいなかった。とはいえ、人間がそのままの形で食糞を行うのは難しい。
よって、各国政府は企業に要請を出し、巨額の補助金を投じて食糞関連事業の育成を推進した。
むろん、それ以前から糞尿を含む汚泥の再利用は行われていた。肥料や燃料、工業原料としてすでに社会の一部に組み込まれていたのだ。しかし、タウク星人の文化を鑑みるに、単なる再利用では不十分だった。
彼らの価値観に倣い、『食べる』という形で循環を完成させてこそ最大限の敬意となり、友好の証になると各国の有識者会議は結論づけたのである。
さらに研究と検討が進められた結果、排泄物は固形のまま保持したほうが再利用効率が高いというデータが示された。政府はただちに補助金を交付し、各家庭におまるを配布した。ハシビロコウをモデルにした鳥型のおまるである。その名には総理の名前が冠され、国民に広く親しまれた。人々は徐々にトイレに流すことをやめ、おまるを使用するようになった。毎朝、回収業者が各家庭を巡回して、排泄物を回収していった。
むろん、最初は抵抗感を示す者や嘲笑する者もいたが、環境保護、資源循環、国際協調、そして何より異星間外交といった言葉が繰り返し語られるうちに反対派は次第に肩身が狭くなっていった。協調を示さない企業はすぐさま政府からヒアリングを受け、批判する者は熱狂的な愛国者から非国民と謗られた。
もっとも、異星人との友好がかかっている重大な局面。当然なのである。
ちなみにタウク星人の外見は地球人類と同じく二足歩行であった。ただし、肌の色は総じて橙色をしていた。さらに特徴的なのが頭部だった。彼らの頭皮は柔らかく大きく垂れ下がっており、その余った部分をゴムのような紐で束ね、頭頂部で一つにまとめ上げていた。
そして顔の中央には長く大きな鼻が突き出しており、その形状は率直に表現すれば子供のペニスによく似ていた。
つまり、頭のてっぺんと顔の真ん中にそれが付いているような姿をしているのだから、食糞文化があると聞かされてもすんなり納得がいくものである。
彼らは自らの肛門からひねり出した糞をそのまますぐに食べることもあれば、専用の処理施設で加工した後に食べることもあるという。
また、彼らの住居に備え付けられたトイレは空気圧による吸引式のもので、排泄物を迅速かつ衛生的に回収できる構造になっているらしかった。いずれ地球のトイレも同様の形式に移行するだろうと、テレビのコメンテーターたちはしたり顔で語った。
『朝はフン~。フンフフーン~。朝から糞を食べよう~』
『僕はこれ。フンショック』
『一本満足! う~ん、この味最高!』
回収された糞を加工し、なんとか人間でも口にできる形に整える技術が確立されると、各企業は一斉に市場に参入した。巨大資本が流入し、新興企業が乱立し、投資家たちはこの黄土色の大波に熱狂した。
俳優、スポーツ選手、アイドルなど著名人が次々と広告に起用され、食糞商品は華々しく売り出された。
むろん、広告塔として起用された彼らの中に、食糞に何の抵抗を抱いていない者などいるはずがないが、実際に食べる必要はなく、カメラの前で笑顔を作って台本を読むだけなので、視聴者が糞を食おうが食うまいが知ったことではないのである。
環境大臣が茶色く濁った液体の入ったグラスを一気に飲み干し、一言「うまい」。スーツの胸ポケットに食糞バーを入れ、報道陣の前を笑顔で通過する与党議員。足を組み、食糞パンを頬張る動画をSNSに投稿する野党議員。庶民アピールはお手の物である。
小中学校の給食でも試験的な提供が始まり、児童らは半ば強制的にその味に慣らされていった。
この頃にはメディア戦略の効果もあり、『食糞を拒むのは野蛮人だ』『時代に取り残されている』『環境意識が低い』『非協力的』『非国民』といった空気が社会全体に広がっていた。ウン活は市民権を得ていたのである。そのため、公の場で批判を口にできる者などおらず、不満を抱く者たちもせいぜいネットの片隅ですかしっ屁のような皮肉を漏らす程度であった。
もっとも、そんな連中でさえ、『十代女性の糞のみを使用したクッキー』といった触れ込みの商品が発売されるや否や、我先にと買い占めに走った。通販サイトはアクセス集中でサーバーがダウンし、転売価格は異常な高騰を見せ、テレビでは専門家が『若年層特有の腸内環境が多くの世代に魅力的に映ったのでしょう』と真顔で解説した。
粉末状に加工された糞を混ぜ込んだスナック菓子やチョコクランチ、ジュース、おつまみ類、サプリメントなど商品展開は驚くほど多岐にわたり、食糞文化は違和感なく国民生活へ茶色く溶け込んでいったのであった。
そしてその功績が認められ、ついにタウク星人との再会談が決まった。
しかし――。
「あ、あ、あああ……うううう、どうか、どうか、お願いしまあああああす!」
会談は彼らの宇宙船内で行われ、食糞製品を持参する食事会の形式が採られた。
これまで積み重ねてきた技術と努力、そして誠意を示す絶好の機会とあって、総理は興奮気味にその場に臨んだ。
官僚たちが徹夜で練り上げた台本と綿密な事前打ち合わせの効果もあり、会談は滞りなく進行した。終始和やかな空気が流れ、笑顔が交わされ、軽い冗談も飛び交った。総理はしつこいほど積極的にボディタッチを繰り返し、上目遣いで彼らの包皮を見つめた。さらに彼らの音楽に合わせて身体を揺らしたり、食糞クッキーを口いっぱいに頬張るなどして、実にチャーミングに友好関係の構築に全力を注いでいた。
しかし、一つだけ気がかりな点があった。
タウク星人たちの食がほとんど進んでいなかったのである。
それでも彼らは終始にこやかな態度を崩さず、提供された品々にも目を通していたため、総理側もさほど不安視していなかった。だが――。
『総理。残念ですが、あなた方の国とは同盟を結べないようです』
「そこをなんとか……! なんとかああ、お願いできませんかああああああ!」
総理は顔を真っ赤にし、こめかみに青筋を立てて中腰で深々と頭を下げた。
ぶびっ、ぶびばっ、ぶびびぶ――スカートとタイツを脱ぎ捨て、さらけ出された下半身。その尻から屁が放たれるたびに、タウク星人たちは期待に身を乗り出した。だが、出てくるのが気体だけだと分かると彼らの顔には露骨な失望が滲んだ。
「どうか、どうかお待ちにあああああああ!」
どれだけ必死に身をよじっても実は出ず、ただの過剰なパフォーマンスに終わった。
懇願の声も虚しく、タウク星人たちはそのまま席を立った。あとに残されたのは尻が奏でる空虚な別れの調べと、香ばしい匂いだけだった。
結局、タウク星人が同盟を結んだのは、世界で最も人口が多く、かつ最も未発展と見なされていた国だった。
タウク星人はまずトイレ環境の整備に着手した。続いて栄養価と味の良い食物の生育環境を整え、現地住人に安定した仕事を与えた。これにより、新鮮で質の高い糞を継続的かつ大量に供給できる体制を築き上げたのである。
もし、あの会談の場で総理が糞を出せていたら、結果は違っていたのかもしれない。
しかし、食糞食品の栄養吸収率があまりにも高かったため、総理の体内には排出すべき糞そのものが残っていなかったのだ。
自ら率先して食糞を行い、国民の模範となろうとした総理。
国民に尻拭いをさせるようなクソッたれではなかったゆえに、なんとも皮肉な結末であった。




