1話 キスされて数秒でフラれました
憧れの全寮制の魔女育成学園に無事入学することが出来た私は、ドキドキしながら寮室のドアを開けた。
わっ! 凄く綺麗な子……。シルバーブロンドのロングヘア……本当におとぎ話の中のお姫様みたい。
ドアを開けた向こう側にいた美少女に私がほうけていると、美少女の澄ました綺麗な顔が、ぐっと私に近づいていた。
って、いや、近すぎじゃない?
「んむ……っ、」
柔らかい感触が私の唇に触れた。
え? なにこれ、もしかして今キスされてる? さすが美人、まつ毛ながぁ……。
驚いて何も出来ず、逆に冷静に美少女を観察してしまう。パチパチと瞬きをしても、美少女の顔が離れていかない。銀色の瞳はまるで猫のようで吸い込まれてしまいそうだ。
いや、嘘だ。冷静なわけない。プチパニックを起こす私にお構いなく、私の小さな胸に豊満な胸を押しつけると、美少女は頬を赤く染めて目を閉じた。
いやいやいや、待って、私は百合には興味ないんだけど……!
すると、私と美少女の身体を魔法の光が包み込んだ。
「ぷは……っ、あの……いきなり、なに……?」
かろうじて問いかけると、美少女が顔を赤らめたまま、慌てて私から距離をとって言った。
「こ、これはただの契約です。貴女と恋人になるつもりは絶っ対に有り得ませんからね!」
え? 勝手にファーストキス奪われて、私今フラれてる……?
「はぁぁぁああ!? 急にキスしてきておいて、何それ! こっちのセリフなんだけど! っていうか、誰!」
「た、確かに名乗る前にそのキ……契約するなんて、それは私が礼儀をかいていました。ごめんなさい。私も緊張していたものだから……」
「えっ、あれ、意外と素直に謝るじゃん……」
「私はフリーニャ・ラーノ。ラーノ家といえば、名門ですから貴女も知っていると思いますけど、同室になるのですから緊張しなくてもいいんですよ」
なんだろう、このお嬢様感あるツンケンしてる感じ。
私は本来、魔法の世界の住人じゃないから名門なんて知らないけど……、絶対にいいところのご令嬢だよなぁ。あれ、でもなんかラーノって聞いたことあるような……。
「あっ! フリーニャ・ラーノって、首席の人だ!」
「はい。僭越ながら、首席挨拶をつとめさせて頂きました」
「やっぱり! あー……、首席挨拶。凄く、その、良かったよ!」
「ありがとうございます」
なんか凄い真面目なこと言ってたから寝かけてた……なんて、言えないなぁ。
そのお嬢様がどうして私にキスなんかしてきたんだろ。どう見ても私に好意があるわけじゃなさそうなのに……、いや、でも顔赤いし照れ隠ししてるだけってこと!?
「私は帳 叶芽。宜しくね!」
とりあえず、バクバクと高鳴る心臓は置いておいて、自己紹介をする。
「トバリさん……珍しい名前ですね」
「違う違う。カナメが名前。私、こっちの世界の住人じゃないんだよね!」
「え…………? あちらの世界の人が、どうしてこの学園へ……?」
魔女の世界と私のいた魔法が存在しない世界は、隣り合わせに存在している。
私の世界で魔法はおとぎ話だけど、こっちの世界の人は向こう側を知っているらしい。だけど、わざわざ交流することは滅多にないとおばあちゃんが言っていた。
「私のおばあちゃんの家が、こっちの世界と繋がってるの」
「おばあ様が……、魔女なんですか?」
「うぅん、違うよ。星降る夜におばあちゃんの家の池を覗くとこっちの世界が見えて……、箒に乗って飛んでる魔女達を見て、魔法って本当にあるんだって分かってから、私、絶対に魔女になるって決めたんだ!」
私の言葉にフリーニャがだんだんと青ざめていく。
「つまり、貴女は魔法が使えないってことですか……?」
「そうだね! でもやる気は人一倍あるから、大丈夫! きっと、私の情熱が伝わって、面接で合格出来たのかな?」
「あの! そんなの困ります! 私と貴女はパートナーなんですよ……っ!」
「パートナーって?」
私が首を傾げると、フリーニャはさらに顔を曇らせていく。
「入学式の説明を聞いていなかったんですか!? この学園では、同室の二人は運命共同体のパートナーです。その、キス……で契約を交わすとお互いの行動が成績にも関わってくるんです!」
「えっ!? じゃあ、さっきいきなり私にキスしてきたのって……!」
「だから、契約だって言ったじゃないですか!」
フリーニャが顔を赤らめて口を尖らせる。
「……なんだ。急にキスしてきたから私のこと好きなのかと焦っちゃったよ。しかも、いきなりフってくるから意味わからなかったし」
「この契約方法のせいで、勘違いして恋人になっちゃう人もいるんです。だから、勘違いしないでくださいと……!」
まぁ、この美貌で迫られたらそういう気持ちになるのも分からないではない……。正直、女の子同士なんて興味無い私ですら、ドキドキさせられたんだから。けど、私だって別に百合になるつもりはない。
「女の子同士でも恋人になっちゃうんだね」
「女性しかいないからこそ、ですね。魔法使いの学園はまた別でありますから、異性とは交流もないですしね」
「そういうもんかぁ」
「それよりも、パートナー制度ですよ! 私は卒業するまで首席でいなければいけないんです。つまり、パートナーの貴女が落ちこぼれだと、困るんです!」
なっ、落ちこぼれなんて言い方は酷すぎる。まだ魔法を覚えてないだけなのに。覚えようとして一つも使えないのと、習ってもないのとでは話が違う。
「まだ分からないでしょ! 授業受けたら飛びぬけた才能があるかもしんないじゃん」
「そんなに甘くはありませんよ。魔法を使ったこともないのに、生まれた時から魔法が身近にあった人達に適うとお思いですか?」
う……、正論が耳に痛い。
「成績下位の人は即退学という噂も耳にします。とにかく、私の足を引っ張ったら許しませんからね! 貴女も首席を目指して下さい!」
「そんな甘くないって、言ってたばっかりじゃん」
「大丈夫です! 私はフリーニャ・ラーノですよ! どんな落ちこぼれであろうと、最高の魔女に仕上げてみせます!」
「だからっ、落ちこぼれって言わないでってば!」
さようなら、私のスローライフ。
こんにちは、スパルタな魔法ライフ。
「さぁ、最初の授業は『魔女の丘』への遠征です。魔法は使えなくても、箒は乗れますよね?」
きっと、ただの遠足程度の仲良くなりましょうね、の授業なのだろう。
当たり前のように魔法と空を飛ぶのは別だと安心しきっているフリーニャの目を、真っ直ぐ見れずに逸らしてしまう。
「ごめん。私、まだ……空飛んだことないや」
落ちこぼれ魔女、確定の一言だった。




