クライマックス その問いはNo Thank You
王宮の中央は、異様な騒ぎになっていた。
衛兵たちが一か所に集まり、円を作っている。
その外側に、トライルとスペクトが到着した。
「ここか……。もう騒がしいな……」
トライルが足を止める。スペクトが一歩前に出る。
すでに状況は見えていた。
リクサが取り押さえられている。
両腕を押さえられながら、それでも暴れていた。
もう終わっていた。それが二人の感想だった。
「離せぇ! 俺はリクサだぞ!」
「大人しくしろ! 重罪人リクサ!」
リクサが叫ぶ。声が裏返っている。
一度見た光景だ。トライル達は一歩下がった。
「リクサなどと呼ぶな! 今の私はニューリクサだ!」
意味が分からないが。本人は本気だ。
トライルは小さく息を吐く。
人は追い詰められると、ここまで壊れるのかと。
「バカじゃねえの、アイツ……」
トライルが思わず、素の反応をする。
リクサはそれに反応し、顔を上げる。
トライルを見つけ、目の色が変わる。
「トライル!」
拘束を無理やり振りほどこく。
その手には、ドライバーが握られていた。
「見ろ! これがドライバーだ! 良いだろう? ドゥン!」
リクサは奇声と共に、ドライバーを腰に装着。
起動装置となるスーパーキーを装着。ドライバーを開く。
だが何も起きない。
「……何故だ? なぜ何も起きない?」
押す。叩く。回す。
リクサはあらゆる接触を試みたが、何も起きない。
それでも何も起きない。
「何故だぁ!」
リクサは完全に使い方を理解していない。
トライルは目を細めて、見ていた。
全員が油断したところ。横から銃声が響く。
「ナスダァ! え? ナス?」
リクサの手から、ドライバーが弾き飛ばされる。
ドライバーだけ撃ち抜かれたのか、リクサに怪我はない。
銃声の方向に、女性が立っていた。
ギャレナが、銃を構えたまま息を荒くしている。
どや顔をしながら、トライルにサムズアップした。
「トライル! もう大丈夫だ! 貴様を騙したリクサを、倒しにきた?」
「騙す……? なにを言っている?」
トライルは親友の性格を理解している。
騙されやすいうえ、思い込みも激しいと。
説明を後回しにして、ドライバーに向かって歩く。
トライルはドライバーを拾い上げる。
重みを確かめる。壊れていないようだ。
「リクサ、違うぞ。ドライバーはこう使う」
トライルが短く宣言する。
ドライバーを胸に装着する。
固定されたドライバーに、アクセルハイパーキーを取り出す。
音が鳴り、赤い粒子がドライバーから放たれる。
粒子がトライルに纏わり付き。鎧となる。
彼女は両腕を掲げた。
「ユピ……。アイ……。エェ!」
最後に青いバイザーの、ヘルメットが装着される。
リクサが後ずさる。これがドライバーの力。
人間に強力な力を与え、仕事を補助する力だ。
「お前の行き先は、絶望だ」
トライルが静かに告げる。
腰のストップウォッチを、空中に投げる。
ドライバーのマキシュウムドライブが発動。
「9.8秒後、お前に絶望が下る」
一瞬で世界が歪む。 音が消える。
色が引き延ばされる。時間の流れが緩む。
トライルだけが通常の速さで動ける。
超加速。それがアクセルキーの力だ。
誰も認識できない中、だけがトライルは動く。
蹴り。打撃。斬撃。光線。一気に放つ。
「それがお前の。残り寿命だ」
加速が終わる。リクサの体が一気に吹き飛ぶ。
加速中に受けたダメージが、瞬間的に起こる。
「ヌワァ! ゾゲン! バラス! ゲロス!」
トライルはドライバーを外す。
何もなかったように。
衛兵たちが一斉に動く。
何の迷いがない。リクサを取り押さえる。
そのまま引きずられていく。 ただの犯罪者として。
「許さんぞ、トライル! 必ず……。必ずボタンをむしり取る! 俺は不滅なりぃ!」
負け惜しみを言う、リクサをスペクトが睨む。
目を大きく開けて。鼻の穴を広げて。
「そんなことをしてみろ。俺は貴様この世から消す!」
空気が凍る。スペクトに言われて、リクサが驚いている。
トライルも初めて。彼が感情的に叫んだところを見た。
「嫌われるぞ。しつこい男は。お前の負けだ。認めるんだな」
「はい……」
***
地下牢は静かだった。
石壁に囲まれた通路に、規則的な足音が響く。
トライルは歩きながら、奥の牢を見据える。
隣にはスペクトがいる。
何も言わない。 ただ同じ方向を見ている。
やがて、一つの牢の前で止まった。
彼の表情は穏やかだった。
「トライルさん。私は心を入れ替えた」
彼がゆっくりと立ち上がる。
鉄格子の前まで歩く。
「これからは従者達の言葉に耳を傾け、民のために尽くそう」
鉄格子に触れない程度に近づく。
爽やかな笑顔と共に。
「だから……。ここから出してくれ……」
トライルは一歩も動かない。
表情も変えない。代わりに告げる。
「断る。信用できる証拠がない。何一つな」
リクサの口元が歪む。
鉄格子を蹴り飛ばして、大きな音を立てる。
「だから謝罪してんだろ!」
リクサは鉄格子を掴む。
その瞬間、 鉄格子に電流が走る。
バチッ、と音が弾ける。
「おのれぇ! 鉄格子風情が 私に逆らう気かぁ!」
リクサの体が跳ねる。
そのまま床に崩れ落ちる。
痙攣しながらも、なお睨みつけてくる。
「やはりこいつを改心させるのは、不可能なようだ」
スペクトが口を開く。
「リクサの勢力は壊滅した。従者は全員、こちらで引き受ける」
トライルが横を見る。目を丸めながら、彼を見た。
視線に気づきながらも。無表情でスペクトは続ける。
「使える人間は使う。それだけだ」
「悪くない結末だ。お家騒動にしてはな」
トライルからの素直な評価だった。
スペクトはわずかに視線を動かす。
「トライル。お前はこれからどうする?」
「敵討ちは終わった。家ももうない。だから一からやり直す」
スペクトは唾を飲み込んだ。
少しだけ、間を置き。トライルを見つめる。
「これからも……。俺の傍に居て欲しい」
スペクトは短く言う。
命令ではない。頼みでもない。
トライルは考える。
「私を利用するためか?」
「王の評価などどうでも良いさ。俺は媚びない人間に、傍に居て欲しいんだ」
スペクトは一拍置く。答えを待っている。
珍しくソワソワしている。
「俺は甘いか? やっぱりダメか?」
トライルはフッと笑った。
「私に……。下らん質問をするな」
一応書いておくけど、これが評価されるなんて思ってないよ。




