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冤罪で婚約破棄された事務官ですが、追放された結果なぜか「お前は甘い!」と囁くに溺愛されました  作者: クレキュリオ


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後編 収束するHistory

 王の間は重苦しい空気に包まれていた。

 玉座の前に立つリクサは、背筋を伸ばしたまま動かない。

 その隣で、リクサの父が深く頭を下げている。


「申し訳ございません、陛下」


 低く落ち着いた声だった。

 だが、その謝罪に温度はない。

 玉座に座る国王が、静かに息を吐く。


「リクサ」


 名を呼ばれる。それだけで空気が締まる。


「何故、あのような行動に出た」


 リクサは顔を上げる。迷いはない。


「私は間違っていません」


 はっきりと言い切った。


「犯罪者を裁こうとしただけです」


 場の空気が一段冷える。

 父が横目でリクサを見る。

 様子を観察してる。何故か止めようとしない。


「私に不完全な仲間は要りません」


 リクサは続ける。視線は玉座へ向いたまま。

 表情からも反省と言う概念が存在しない。


「それが国王であっても」


 従者たちの間に緊張が走る。

 誰も動けない。

 国王はしばらく黙っていた。


 やがて、ゆっくりと口を開く。

 重りでも着いたかのような、口の重さだ。


「人は間違うものだ」


 国王は静かな声だった。

 出来るだけ宥めるように。子供に言い聞かせるように


「他人の間違いを許せる人間こそ、王に相応しい」


 叱責ではない。導こうとしている。

 これが国王たるゆえんだ。

 リクサは一瞬だけ沈黙した。そして……。


「陛下……!」


 声の調子が変わる。

 わずかに震えを混ぜる。


「私が……間違っていました……!」


 リクサはそのまま、深く頭を下げた。

 完璧な角度だった。

 間の取り方も、声の弱さも。すべて計算されている。


「その言葉を待っていた」


 安堵の色が混じる。空気が少しだけ緩む。

 従者達もホッと、息を吐いた。


 だがリクサは顔を伏せたまま……。

 口元だけで、笑った。王ですら嘲笑うように。

 誰にも見えない角度で。


 父だけが、それを見ていた。

 特に咎める気配はない。


***


「リクサ、お前に監視を付ける」


 父が口を開く。淡々とした調子だった。

 息子相手に事務作業の様に。


「しばらくは独断で動くな」


 命令だった。


「理解に苦しみますね。父上」


 自室で従者も居なくなった途端。

 リクサの態度は元通りになった。

 父親は溜息を吐く。人差し指を立てた。


「お前には一つ、教えておく」


 父は振り返らないまま言う。

 リクサは眉をひそめる。


「なぜ私がドライバーを持っているのか? なぜ私がお前とトライルを婚約させたのか? なぜ王国最悪の殺人鬼など生まれたのか?」


 リクサの動きが止まる。空気が変わる。

 元から冷酷な父だが、一層冷たい背中になった。


「その答えはただ一つ……」


 父はゆっくりと振り返る。

 表情は変わらない。怖い程の無表情だ。


「私が……。トライルの父から……。ドライバーを奪ったからだ」


 あっさりと言った。

 説明するでもなく。ただ事実として。

 リクサの目が見開かれる。


「父上が……?」

「そうだ」


 父は歩み寄る。


 距離が近い。


「王国史上最悪の殺人鬼……。それは私だ」


 父は静かに告げる。リクサの心に重みだけが残る。


「お前の評価はトライルだけの力ではない。私が定期的に。我が一族の邪魔となるものを始末したからだ」


 父は言葉を選ばない。まるで隠す気もない。

 なぜ今になって、そんなことを?

 リクサの脳裏に疑問が走る。


「お前はこれから、国王になる。その為に、今は余計な事をするな」


 父がリクサの肩に手を置く。

 強くはない。だが逃げられない。


「スペクトは私が消す。地盤を固めておけ」


 それだけ言って、父は手を離す。


 死体のような冷たい手が、離れてていく。

 足音が遠ざかる。

 リクサはその場に残った。


 ゆっくりと腰を落とす。

 力が抜けたように見える。

 手が震えている。


「父上が……殺人鬼……」


 かすれた声だった。恐怖を感じる声だった。

 だが……。リクサの口元が歪む。

 恐怖の代わりに狂気が心に宿された。


「使える……。使えるぞ……!」


 リクサの目に、恐怖は残っていない。

 まるで新しいおもちゃを手に入れた、子供の様な瞳だ。


***


「私の父は――王国史上最悪の殺人鬼です!」


 王の間は、再び張り詰めていた。

 さっきまでとは違う緊張だ。

 中央に立つのはリクサ。


 玉座の前で、堂々と胸を張っている。

 空気が凍ろうと、お構いなし。

 対数分まで謝罪してたものとは、思えない態度だ。





「……何だと」


 国王が眉を寄せる。低い声を出す。

 リクサは一歩踏み出す。


「事実です。本人の口から聞きました」

「証拠はあるのか」


 国王からの当然の問いだった。リクサは笑う。

 待っていた、と言わんばかりに。


「ドライバーです。父の部屋に、消えたドライバーがあります」


 国王の視線が鋭くなる。

 ドライバーの存在は、国王も知っている。

 なにせ、自分達上流階級には脅威となるものだ。


 トライルの両親が殺されても、国王は黙認していた。

 盗んだものは誰か。大方の予想は点いていた体。


「……軽率だな」


 リクサの低い声が背後から響く。

 リクサの父が立っていた。護衛に囲まれているが、動じていない。

 むしろ落ち着いている。


「リクサ。私が失脚すれば、お前の立場も危うい。理解しているのか?」


 リクサは振り返らない。視線は玉座のまま。

 光の籠らない瞳で、ニヤッと笑った。


「権威など知った事か」


 リクサは両手を広げて。上体を背後にい沿った。

 答えは即答だ。迷いがない。


「それよりトライルのボタンだ!」


 空気が歪む。全員が何のことだか、サッパリ分からない。

 父だけががわずかに目を細めた。

 もうこの息子は、ダメだと。


「拘束しろ」


 国王の短い命令。衛兵が一斉に動く。

 リクサの父に向かって。

 抵抗はない。そのまま両腕を押さえられる。


 連行されながらも、背中は最後まで揺れなかった。

 リクサはそれを見届ける。

 ズボンのウェスト部分。その背中に隠していたものを、取り出す。


 父が隠し持っていたものだ。

 ここに来る前に、拝借しておいた。

 先に失脚させておかなければ、どんな手を使って取り返されるか分からない。


「これが……。父の力の源……!」


 王の間から連行された父の背中を。

 リクサは狂気の笑みで、ジッと見つめていた。




***

 トライルは扉の前で一度止まり、ノックを入れる。


「入れ」


 スペクトの執務室は、妙に静かだった。

 装飾は少ない。机と椅子、書類の山。

 それだけで成立している空間だ。


「殺風景極まった、部屋だな」

「執務室だ。仕事に必要ないものは、置かない」

「同感だな」


 珍しく波長が合った。トライルもそのタイプだ。

 リクサは逆に、執務室に私物を置きまくってみるに堪えない。


 スペクトは机に向かっていた。

 書類に目を通しているが、手は止まっている。


「最近の調子はどうだ」


 唐突だった。トライルは肩をすくめる。

 眉間にしわを寄せながら、ぶっきらぼうな口を開く。


「仕事は回っている。問題はない」


 スペクトは数秒だけ黙る。

 そのまま、じっとトライルを見る。

 意図が読めない。トライルはため息を一つ吐いた。


「何が聞きたい? 私をここに置いて、何をするつもりだ」


 スペクトはすぐには答えない。

 代わりに、逆に問い返した。


「お前は何故、俺に媚びを売らない?」


 トライルは一瞬だけ眉を動かす。

 媚びを売って欲しいのかと、怪訝な目でスペクトを見る。


「私に下らん質問をするなと、いつも言っているはずだ」

「ふっ……。そうだったな」


 スペクトは小さく息を吐く。


「今まで、散々見てきた。権力目当てで寄ってくる人間を」


 スペクトの言葉に感情は薄い。

 だが、心に疲れはある。

 うんざりしている時の愚痴だ。


「何を言うにも、顔色を伺う。或いは気に入られようと、自慢話だ。」


 トライルは黙って聞いていた。

 否定も肯定もしない。ただ腕を組んで。

 スペクトの事を観察している。


「だがお前は違う。俺に遠慮せず、ずけずけとモノを言う」

「悪かったな。態度が悪いのは生まれつきだ」

「本来なら怒るべきなのだろうが。俺にはそれが心地よく思える」


 トライルは少し、目線を和らげた。

 彼の心に嘘は存在しない。上流階級特有の悩みがある。

 人を信じることに悩む人間は。大抵真面目なものだ。


「嘘をつくのが苦手なだけだ」


 スペクトの目がわずかに動く。

 興味を持った時の反応だった。


「なるほど……。興味深い……」


 トライルは何も返さない。

 スペクトと言う人間の、本質が分かっていたところだ。

 もっとも肝心の答え。なぜ自分をここに置くのかについて、帰ってきていないが。


「おい……」


 トライルが急かそうとした、その時だった。

 執務室の扉が強く叩かれる。

 スペクトが視線を向ける。


「入れ」


 衛兵が飛び込んでくる。息が荒い。

 よほど慌てているのか、顔が歪んでいる。


「大変です! 大変です! 私の給料は底辺です!」

「お前はクビだ」

「あ……。報告です!」リクサ様が王の間に引きこもりました!」


 空気が一気に変わる。

 トライルは首を傾げながら、確認する。


「引きこもっているのか?」

「はい! 国王を人質に取っています!」

「表現の問題か……」


 スペクトの表情が固まる。

 次の言葉で、さらに重くなる。


「要求は一つ! ドライバーを返して欲しくばトライルを呼べ、とのことです!」

「返して欲しいのは国王なのだが……」


 スペクトがゆっくりと立ち上がる。

 こめかみに手を当てながら、目をつぶっている。


「極まればここまで行くものか……。俺が行く」


 トライルはそれを見て、すぐに口を挟む。


「呼ばれているのは私だ。私が行く」

「お前が狙っている。リクサは危害を加える気、満々だぞ?」

「だからこそだ。私以外が行けば、余計な刺激を与えるだろう」


 スペクトは数秒だけ考える。そして、息を吐いた。

 なにを迷っているのか、トライルには理解できない。


「分かった。だがお前にだけ危険な目に遭わせない。俺も行こう」

「なぜ? 関係ないはずだ」

「それは俺にも分からない。だがなぜか……。放っておけないんだ」

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