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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹
第三章 神罰が一回だけとは限らない

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第二十九話 後悔〈リアス過去編〉



「失礼致します」


 時間通りに部屋を訪れたのは、リアス様のお父様であるモリアス様だった。内緒にするよう前もって言ってある。


 今日はマナー教室はお休み。リアス様には、他の侍女と一緒に街(王都)の使いをお願いしているから大丈夫。同行している侍女には、出来る限り、時間を延ばすように指示してるしね。


「どうぞ、お座りになって」


 そうソファーをすすめると、宰相様は腰を下ろした。


 向かいに座る私の隣には、勿論イシリス様がドカッと座っている。二人っきりで話をしたいとお願いしたら、一蹴されたわ。宰相様って、お父様とそうたいして年齢が変わらないのにね。異性ってだけでアウトみたい。おかしいよね。


「ミネリア王女殿下、今日もご機嫌麗しく――」


「堅苦しい挨拶は不要です」


 宰相様の挨拶を遮る。時間を稼ぐよう頼んでも、どれ程稼げるか分からないからね。


「分かりました」


 娘さんと同じ年齡である小娘に遮られても、宰相様は顔色一つ変えないわ。さすがね。


「モリアス様、ベルケイド王国に慣れましたか?」


 侍女が淹れてくれたお茶をすすめながら尋ねた。


「そうですね。こちらに来てから、色々ありましたが、充実した日々を過ごさせてもらっております」


(色々ね……かなり飲み込んで出て来る言葉よね。皆、過激だからね。私もだけど。なんせ、日々、魔物と対峙している家だから)


 私なんて、言葉遣い素に戻ってるしね。今は令嬢らしく話しているけど、家族には素に近いし、イシリス様は令嬢より。さすがに、聖獣様にはタメ口はきけないわ。お願いされても無理。まぁ兎に角、普通の貴族とは掛け離れているのよ、(うち)は。


「それなら、よかったですわ。これからも、陛下とベルケイド王国を頼みましたね、モリアス様」


 サラリと流してあげたわ。


「はい」


 これで、挨拶は終わり。ここからは本番。


(さて、隠さず話してくれるかしら)


「モリアス様、実は貴方にお訊きしたい事がありまして、本日、ここにお呼びしましたの」


「訊きたい事ですか? リアスが何か粗相でも致しましたか?」


 宰相様はお父様の右腕から父親の顔になる。そこに、亡王国の貴族の駆け引きは見えない。


 私の中で、好感度が上昇中。 


 イシリス様の機嫌は急降下。


「いいえ。リアス様にはよくして頂いておりますわ。博識で、マナーにも長けていらっしゃります。私みたいな、成り立てホヤホヤの小国の王女にとって、リアス様はなくてはならない存在ですわ」


「……そう仰って頂き、リアスも喜ぶと思います」


 そう答える宰相様の表情が、一瞬曇ったように見えた。気の所為、見間違いって言われそうな僅かな反応だったが、私は自分の目を信じる。


「モリアス様、まだ先の話になりますが、私はリアス様に、私の専属侍女になって欲しいと考えていますの。それだけの能力と信頼がありますから。しかし……今のままでは、どれ程能力が高くても、専属には出来ませんわ。どうしてか、分かりますか?」


 宰相様の頭の中に、私がリアス様を専属侍女にしようと考えている事は、薄々察していたみたい。全く、驚きもしなかったから。反対に、更に空気が重くなる。


「……自信のなさ。自己評価の低さですか」


(ちゃんと、娘の事を見ているのね)


 更に、好感度上昇。イシリス様は……言わなくても分かるわ。分かっているなら、話が早い。


「ええ。侍女とはいえ、私の専属ななれば、文官の仕事も兼ねる事になります。騎士団や、王太子殿下の従者、魔法師師団、他にもありますが、彼らと対等に話交渉する事になります。……リアス様自身、交渉術には長けていますが、我がベルケイド王国は、亡王国や他国程甘くはありません。それは、モリアス様が一番よく分かっていらっしゃるでしょ」


 一旦ここで話を切ると、宰相様は「はい」と小さく答えた。私は続ける。


「皆、過激で曲者揃いですからね。今のままだと、簡単に食われてしまいます。それでは、困ります。なので、モリアス様にお訊きしたいの。何故、リアス様はそこまで自己評価が低いのですか?」


「それは……」


 モリアス様は言い淀む。それは知らないからではなくて、理由を知っているからだと思った。私は更に少し口調を変えて畳み掛ける。


「ずっと、不思議でならなかったの。だって、リアス様は努力を惜しまない方よ。何度も何度も(つまず)き、それでも折れる事なく努力を続け、今のリアス様がいる。そんなの一目見れば、直ぐに分かりますわ。私は知っているの。努力し、身に付けたものは自信に繋がる事を。でも、リアス様は違う。それは、何故?」


「…………」


 宰相様は黙り込む。難しい表情で、ただ、膝の上で握り締めた両手を見ていた。


「……ここに来てからも、リアス様は頑張っているわ。分からない事があれば、他の侍女に頭を下げて訊いている。そんな事、普通の公爵令嬢が出来ると思う? 出来ないわ。それが出来るから、私はリアス様を傍に置きたいと思ったの。……もう一度訊きます。何故、リアス様は自己評価が低いのですか?」


(絶対、答えてもらうわよ)


 やや圧を加えながら、私は宰相様に尋ねる。少し間が開いた後、宰相様の口が開いた。


「…………それは、全て、娘を護れなかった私が悪いのです」


 宰相様の声はとても苦しそうで、聞く側の胸を痛ませるものだった。話し出した内容は、私が想像していたよりも、遥かに痛々しく、常軌を越えたものだった――




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