第二十八話 新米王女殿下も堪能したいんです
「イシリス様、少し、相談したい事があるのですが……」
「相談?」
「リアス様の事です。リアス様って、自己評価低過ぎませんか?」
リアス様と交わした会話を思い出しながら、私はイシリス様に相談する。
「あの女の自己評価が低いからといって、ミネリアになんの問題があるんだ?」
ブラッシングが終わった後も、私の膝に頭を乗せたまま、イシリス様は答えた。
(まぁ、確かに、イシリス様の言うのも分かるけど)
「今は問題はありませんが、先を考えると……それに、気になるのです。あれ程優秀な方なのに、根本的な所で自信がないなんて」
今は、マナーの先生としてお願いしているけど、いずれは私の専属侍女として、常に傍にいて支えて欲しいと考えていたの。だから、あの断罪パーティーの場で引き抜いた。護衛侍女のジュリア、文官としても完璧なリアス様、二人がいれば最高の布陣だと思うのよね。
そして、行く行くは幸せな結婚をして、子供を生んで欲しいの。辛い過去を持つリアス様に、このベルケイド王国で幸せを掴んで欲しい。
「……あの王国では、あの女のような奴らは、使い勝手のいい捨ての駒でしかないだろうな。故に、駒に掛ける愛情も、労りなどないだろ」
「腹立たしい事ですが、そうですね……」
あの屑達が、王国で仕事をしているのを見た事がないわ。出来て、判子を押すだけじゃない。特にあの第一王子は、下半身に脳味噌が付いてるから絶対しないし、無理。生徒会でも、リアス様に全部丸投げしていたから、王子の仕事も彼女がしていたと思うわ。
「そんなに気になるなら、一度、モリアスに訊いてみたらどうだ?」
「そうですね、親に訊くのが一番早いかも。モリアス様に一度訊いてみます。ありがとうございます、イシリス様」
私はイシリス様の頭を撫ぜる。
「ミネリア、あの女の事はもうどうでもいいだろ。もっと、俺を撫でてくれ」
焦れたイシリス様が、不満気に言ってきた。それが、可愛くて、嬉しくて、手の感覚がなくなるまで撫でてあげたい。
「はい、イシリス様」
私はクスっと笑うと、イシリス様の頭を撫で続けた。
撫でてると、いつも思うのよね。一緒に寝て、そのお腹に顔を埋めて吸いたいって。なのに、どうしても、イシリス様は許してくれないの。番になった頃はまだ小さくて、分身ならたまに許してくれていた。それも、数回でしかないけど。私の身体を考えて、それが限度だったの。だから、デビュタントが来るのが待ち遠しかった。
なのに、デビュタントが終わって、一緒にいられるようになったら、更に許されなくなった。あの時のショックは言葉に尽くし難し。
(自分はいつも私の匂い嗅ぐのに、不公平だわ)
「結婚したら、いくらでも許してやる。今は駄目だ」
(いつも、それ。我慢が出来なくなるからって……我慢の必要あるの? 二人っきりなんだから、恥ずかしくないでしょ)
「二人っきりが問題なんだ!!」
イシリス様の口調が厳しくなる。
「二人っきりじゃなかったら、いいのですか?」
負けじと、私も自然と声が大きくなった。
「尚更、悪い!!」
「私も我が儘ですけど、イシリス様も我が儘です!!」
(私もイシリス様を堪能したいのに。ずっと我慢なんて……)
ブラッシングは楽しいし幸せだけど。そのフワフワ、サラサラした毛を味わいたいのは、それ程はしたない事なの。
「…………あ〜〜ほんと、結婚したら覚えていろよ」
イシリス様は小さく低い声で唸ると、腹を上に向けて寝っ転がる。
目の前に広がるのは白銀の世界。
「はい!!」
私は満面な笑みを浮かべると、イシリス様のお腹に飛び込んだ。顎下に顔を埋めてスリスリにスーハー。
(あ〜〜最高!! これよ、これ!! 良い匂い。日向と美容液の匂いの中に、イシリス様の森の匂いがするわ)
イシリス様の匂いはとても安心する。そして、大好きな匂い。あの屑王女とマリアはこの匂いを否定した。田舎は嫌だってね。思い出すだけでも、腹が煮えかえる。そういう時は、深呼吸。癒やされる。
「マジで覚えていろよ」
悔しいのか、何かと戦っているのか、呻き声に近い声で、イシリス様はボソッと呟いた。




