第二十七話 新米王女殿下は暖かい窓辺で幸せに浸る
リアス様が部屋を出て行ってから数十分後、イシリス様が風呂場から出て来た。
「ミネリア、お待たせ。なかなか、臭いが取れなくて困ったよ。数分しかいなかったのに……ったく、あまりにも汚くて入れなかったから、庭園で渡したが、それでもこれだ」
まだ匂いを気にしているのか、イシリス様はフンフンと自分の腕を嗅いでいる。
(相当、酷かったみたいね……)
掃除は出来てはいないとは思っていたけど、さすがに、外で用を足してはいないでしょ。宮殿内には無駄に幾つもトイレがあるんだし。
「……イシリス様、お疲れ様でした。私が余計な事を言ったせいで、大変な場に行かせてしまって、誠に申し訳ありません」
私は深々と頭を下げる。利用したつもりはないの。でも、イシリス様が私に甘いのを知っている。これは行き過ぎたかもしれない。
「いや、俺がそうしたいからそうしただけだ。行き過ぎじゃない。十分範囲内だから、安心しろ。それよりも、あいつら、いつ人間をやめたんだ。トイレがあるのに、外で用を足していたぞ。俺の大事な毛皮が汚れたら最悪で済まんから、人型で対応したぞ」
心底、イシリス様は不快そうな顔をする。
(想像が当たったの。嬉しくないわ)
討伐や遠征に参加しているなら、まだしも。考えていた以上に、カオスな状態になっているみたいね。あの屑達が、これから先関わってこない限り、私は関わるつもりはない。
それよりも今は、イシリス様を労うのが先だわ。
「さぁ、嫌な事は横に置いといて、ブラッシングしましょ」
私のお誘いに、イシリス様は機嫌よく尻尾を振る。そして、直ぐに人型を解いた。でも、大型犬ぐらいの大きさなの。そうじゃないと、私一人でブラッシング出来ないからね。伏せの状態でも、尻尾が軽く左右にフリフリ。本当に、尻尾は正直なんだから。耳も横にペタンとなっているし、すっごく可愛い。
「ミネリアは、本当、ブラッシングが好きだな」
(イシリス様もね)
鼻歌を歌いそうな私に、イシリス様が優しく甘い声で話し掛けてくる。私の膝を堪能しながら。
「好きですよ。イシリス様も、ブラッシング好きでしょ。ほら、見て下さい。新しいブラシ買いました。今回のものは、とても艶が出るって、店主のお墨付きですよ」
早速、私は新しいブラシを使ってみた。
(お風呂に入っばかりかもしれないけど、白銀の毛がキラキラ光ってるわ。これ、いい。かなり高かったけど、良い買い物したわ)
また、利用してもいいわね。なんか、物凄く楽しくなってきた。確か、この美容液を一緒に使用すると、更に効果が増すって、店主が言っていたわね。
「……楽しそうな、ミネリアを見るのが嬉しいんだ。ミネリアがブラッシングしてくれるから、好きなんだ」
「えっ、何か言いました? イシリス様」
美容液の使い方を記した紙を熱心に読んでいると、イシリス様が何か言ったみたい。だけど、あまりにも小さな声で、殆ど聞き取れなかった。
「いや、別にたいした事は言ってない」
訊き返した私に、何故か、イシリス様は拗ねたように答える。
「そうですか……」
気になったので、チラッと尻尾を見たら軽く左右に振ってるし、大丈夫かな。
私は美容液を適量毛に振り掛けてから、馴染ませ、ブラッシングしてみた。今までの中で、一番のキラキラどか。艶も最高だわ。
暖かい窓辺で、イシリス様と一緒の時間を過ごす。
ブラッシングに夢中で無言だったけど、私はこの時間が一番大好きで大切だと思っている。愛する人の体温を身近に感じ取れるって、本当に幸せな事だから。




