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言いたいことはそれだけですか。では、始めましょう  作者: 井藤 美樹
第二章 新米王女殿下の初仕事

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第二十二話 新米王女殿下は祈る



(生きる道を選んだみたいね)


 列の最後尾を、必死で早足で付いて来ているのが見えた。生きる道を選んでくれて、内心ホッと胸を撫で下ろす。ポーションと聖水は返したようね。持ってないから。ならいいわ。


「あの少年を荷台に」


 私は傍に控えていた聖騎士に命ずる。


 このままだとスピードを上げれないからね。チンタラ進んでいる余裕はないの。少年が生きる道を選んだ以上、彼は保護対象になったのだから。


「畏まりました」


 聖騎士はそう答えると、最後尾にいる少年を荷物のように担ぐと、荷台に放り込んだ。それを目視してから、私は隊全体に命じた。


「スピードを上げます」


 イシリス様の簡易結界が解かれるまで、まだ時間はあるけど、隊には少年と怪我人がいるからね。出来る限り、距離はとっておいた方がいい。ここは戦場、何が起きるか分からないからね。


 一応往路で生きる屍を討伐してきたから、この先は生きる屍はいないと思う。だけど、絶対とは言い切れないからね。警戒を(おこた)らないように進まないといけない。


 全員、無事に帰る。


 それが、私に課せられた使命なのだから――


 スピードを上げたおかげで、マントの町から、かなり距離をとる事が出来た。小高い丘の上から、マントの町が積み木の三角くらいの大きさに見える。


 周囲の安全を確認してから、私はここで隊を止めた。念のために、イシリス様に簡易結界を張ってもう。


 すると、少年が荷台から降りて来た。


 少年は小さくなったマントの町を見て、崩れるように両膝を地面に付く。ぼろぼろと涙を流し、声を上げ泣いた。


 私は少年の隣に両膝を付き、両手を組み頭を垂れ冥福を祈った。聖騎士や騎士達も、私達の後ろで同じ様に冥福を祈る。

 

 私達に今出来るのは、それだけだから。


「……どうして?」


 暫くしてから、少年はか細い声で尋ねる。私は祈りを終えると答えた。


「生きる屍は呪われた存在。でも、それは憐れで悲しい者達の姿でもあるの。好き好んで生きる屍になる者はいないわ。なりたくて、なったわけではないの。人でなくなっていても、人だった者達よ。最低限の敬意を払わなければならないわ。だから、私達は彼らの冥福を祈るの」


 少年の目が大きく見開く。その目は、怒りよりも戸惑いが濃かった。


「…………訊いてもいい?」


 おずおずしながら、少年は口を開く。


「何を訊きたいの? 答えれる範囲なら答えるわ」


「どうして、神様は俺達を見捨てたの?」


(やっぱり、それが訊きたかったのね。そりゃあそうよね。いきなり、幸せな時間が壊されてしまったのだから)


「……それは、この王国の王族達が、どうしようもない屑だったからよ。創世神様と聖獣様を怒らせてしまったの。恩恵と加護を長年受けていながら、それに感謝せず、当たり前だと勘違いしたの。結果、創世神様を愚弄し、聖獣様の力を自分達の為だけに使おうと(たくら)み実行したの。だから、創世神様も聖獣様も王国の加護を解いたのよ」


 私は隠さずに、真実を伝えた。


「そんなの、おかしいじゃないか!! 俺達は何も悪い事していないのに!!」


 少年の怒りは(もっと)もだわ。屑王族達のせいで、多くの民がその犠牲になったのだから。


「……そうね、理不尽よね。上が馬鹿だと、下に皺寄せが来る。一番可哀想なのは、戦う力がない一般の民だわ。……悔しかったら、力を持ちなさい。戦う力を。何でもいいわ。人を、自分を護れる力を身に付けなさい。こんな悲劇を二度と繰り返さないために」


 それは、私にも言える事だわ。


(王族として、イシリス様の番として、間違わないようにしないと……ここにいる皆を失う事になるわ)


「……分かった。なら、俺は聖騎士になる!!」


 そう応えた少年の目には、涙は浮かんでいなかった。


「厳しいわよ」


「分かってる。どんな訓練にも耐えてやる!! もう、こんな悲劇は嫌だから……誰にも同じ想いをしてほしくないから、だから、俺は聖騎士になる!!」


 大なり小なり、ベルケイド王国の聖騎士や騎士は似た経験をしている。


「聖騎士を目指すなら、これだけは覚えておきなさい。私たちは、嘗て人であった者達を討伐したわ。聖なる炎に焼かれた者は浄化され、救われると言われているけど、それでも……皆、心に傷を負っている。それでも、その傷を隠し、剣を振るっているわ。貴方は、その傷に耐えられる? 聖騎士は剣の技量だけではないの。一番鍛えなければならないのは、精神よ。心に柔軟性がなく、弱い者は聖騎士にはなれない。だから、尊敬に値する人達なの。分かりますね」


 少年は小さく頷いた。そして答える。


「……傷に耐えれるかなんて分からない。でも、耐えてみせる!! そして、強くなってみせる!!」


 少年の目には、一点の曇りもなかった。


「そう……なら、試験を受けてみなさい」


 少年が聖騎士になれるかどうかは分からないけど、生きる目的を見付ける事が出来て良かったと、私は心からそう思った。




 数多くある小説の中から、選んで頂きありがとうございます。

 新米王女殿下の一歩を描いた第二章はどうでしたか? 楽しんで頂けたら嬉しいです。

 次回からは、第三章が始まります。

 王女らしくない王女を楽しんで頂けら嬉しいです。そして、それを支えるイシリス様との掛け合いも楽しんでもらえたらと思います。

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