寂しそう
ふと、さっき、ジリムさんが言った言葉が気になった。
王太子様が人畜無害すぎて、平和的に婚約解消したってこと。
全く想像がつかない状況だけれど、一体、どういうことなのかしら……?
まあ、でも、そんなことよりも、今、メイドさんたちがテーブルに並べているのは、私たちと一緒に王宮にやってきた、イリスさんのお菓子よね!?
早く食べたい!
ということで、テーブルに近づいていくと、執事さんらしき方が「こちらにどうぞお座りください」そう言って、王太子様に向かい合った椅子をひいてくれた。
私が坐ると、すぐさま、ユーリが私の左隣に座り、更に、ユーリの左隣にランディ王子が座った。
ふたりとも、イス取りゲームのように、座るのが早いわね……。
あきれながら、今度は右隣を見ると、デュラン王子がにっこり微笑んでいる。
え……いつのまに座っていたの!?
「デュラン兄様、アデルちゃんの隣をかわって」
と、イーリンさん。
「ごめんね、イーリン。可愛い妹とはいえ、アディーの隣は譲れない。これは戦いだからね」
「戦いって……、何言ってるの、デュラン王子? というか、私もイーリンさんの隣がいいな」
私の言葉に、すねたような顔をしたデュラン王子。
「ひどいな、アディー。でも、アディーの頼みでも聞けないな。我が国でのアディーのエスコート役は僕だから。僕がそばにいるよ」
と、艶やかな笑みを浮かべたデュラン王子。
背景にバラが散るのが見えたよう。
でも、次の瞬間、その花びらが凍りだした。
そう、左隣の魔王から、一気に冷気がながれはじめたから。
「アデルのそばには婚約者の僕がいるから、無関係な人のエスコートなんて不要だし。それに、アデル本人が、王子は嫌で王女がいいと言ってるのに、まとわりつくのやめてくれる?」
ちょっと、ユーリ……!? さすがに嫌とは言ってない!
しかも、まとわりつくって、他国の王子を静電気みたいに言わないで!
「無関係どころか、かなり関係があると思うよ。それに、アディーが本気で恋に落ちたら、そんな形式上の婚約なんて、もろいものだろうしね。……というか、いちいち、僕の言葉に反応するなんて、次期公爵は、余程自分に自信がないのかな」
ちょっと、デュラン王子も……!?
自信の塊のユーリに、なんて恐ろしいことを言っているの?
「は? 自信しかないけど。本当、妄想が激しすぎて話になんないね」
冷たい声でいい放ったユーリ。
このままだ、せっかくのイリスさんのお菓子が冷凍される!
魔王ふたりのことより、目の前の美味しそうなお菓子たちが心配でたまらない。
と、そこで、ジリムさんが近づいてきた。
「どう考えても、座っているバランスがおかしいですよね? ということで、アデル王女様の近くに群がる、わが国の王族は、すみやかに王太子様側に移動してください」
はっとして、前を見ると、広い横長のテーブルにぽつんとひとり座る王太子様。
そして、こっち側は、私の左隣にユーリ、その隣にランディ王子。右隣はデュラン王子。その隣に、イーリンさんが坐っている状態。
ひとり 対 五人……。確かに偏った座り方よね。
が、ジリムさんの言葉に誰も動かない。
「なんだかこうなると寂しいもんだね。丸テーブルにしたらよかったかな……ハハ」
と、王太子様。
その寂しそうな笑顔に胸がいたんだ。
「号泣仲間をひとりにはさせません。私がそちら側に移動します」
私の言葉に「なら、僕も移動するよ」と、ユーリ。
「もちろん、僕もだ。アディーのそばにいたいから」
と、デュラン王子。
「私も隣がいいわ!」
と、イーリンさん。
「俺はユーリさんの隣だ」
そう叫んだのはランディ王子。
「みんながこっち側に坐ると、一列に並んでお茶をすることになるね。それは、おかしいんじゃないかな」
と、王太子様。
確かにね……。
「じゃあ、席は私が決めます」
ジリムさんが疲労感が増した顔で言った。
あ、この感じ、今日、二度目だわ。
馬車に乗るときに、みんながどの席に座りたいか、勝手に希望を言うもんだから、ジリムさんが決めたのよね。
「ということで、デュラン王子はランサム王太子の左隣に移動。ランディ王子はランサム王太子の右隣へ移動。それなら次期公爵の真向かいになります。そして、イーリン王女は、アデル王女の右隣の席に移動してください」
「嫌だな。この席がいい」
すぐさま言ったのは、デュラン王子。
「は? 何、勝手なこと言ってんだ……?」
ジリムさんはつぶやくと、デュラン王子の坐っている席の後ろに移動した。
「異論は認めません。……っていうか、デュー。とっとと移動しろ……!」
怒りが漏れた声で、デュラン王子の首根っこを持ち上げたジリムさん。
「うっ……苦し……。やめろ、この馬鹿力……」
結局、力づくでジリムさんに移動させられたデュラン王子。
ということで、あいた右隣の席にイーリンさんが坐った。
が、ランディ王子は動かない。
「ユーリさんの真向かいっていっても、このテーブル、幅が広いから距離が遠くなるだろう? だから、ユーリさんの隣がいい。ここから動かない」
ランディ王子の言葉に、ジリムさんが「そうですか。ではそのままでどうぞ」と、面倒そうに言った。
多分、デュラン王子が移動して、ふたり 対 4人になったので、最初ほどのおかしさがないから、もういいかと思ったんだろうね。
ジリムさん、お疲れさまでした……。




