1991年5月7日 火曜日 17:00
これにて第2章が終了です。
ここまで、読んでいただいた皆さん。
ありがとうございます。
第3章についてですが、手持ちの原稿が中途半端なため
少し書き溜めてから余裕をもって連載を再開したいと思います。
まだまだ連載終了ではありませんので、何卒ご容赦を願います。
「まったく、変な提案しないでや。ビックリすんじゃん! 」
うっかり思いつきで口に出して、それが本人たちの耳にでも入ったら面倒なことになる。
「是非戦わせて下さい! 」なーんて言われたら洒落にならないし、言いそうで怖い。
「そんな変な提案じゃないと思うけどな。本人たちはやる気だって聞いてるけど。」
一時の勢いで口走ってるだけだと思うが、確かに、ヒシイさんとマシマさん、二人とも手伝いますとか言ってた。
それに対して、サユリさんが、「ありがとう」とか言って、盛り上がっていた。
その後で、「あんたたち、めんどうみなさいよ」とかも言ってた気がするが、そこら辺は忘れることにしよう。
でも、あれはサユリさんが二人を納得させて口止めするための作戦で、一時凌ぎみたいなものではなかったのか?
知らんぷりして放っておけば、いずれ熱も冷めるだろうとか、そんな感じの意図があるのだろうと、私は勝手にそう捉えようとしていたのだが?
「あん時は二人ともやる気見せてたんだけどさ、実際にやらせることなんて無いでしょ。素人の非力な女子高生に何を手伝わせるって言うのさ? HUNTER狩り? やめてよ、んな危ないことさせられるわけないじゃん! 」
これについてはサユリさんも言ってたけれど、危険な目には絶対に合わせられない。
万が一のことがあったら、親御さんに合わせる顔が無いし、彼女たちの未来が変わってしまう。
「戦闘に参加させんのは無理でもさ、バックアップならイケるかもよ。後片付けとか楽になるでしょ。」
私だって不快な気分を我慢しながらやっているのだから、女子高生にHUNTERの解体なんてできるわけないだろう。
やってくれなんて頼めないし、やらせたいとも思わない。
もちろん、サユリさんが、そんなことをやらせようとはしないだろう。
「そもそも、俺が欲しいって言ってる人材は戦闘員だからね。バックアップなんかじゃないんだよね。」
「そう言えばそうだったよね~、まあ人材の補充は難しいけど、武器については考えてみるよ。戦闘を補助するような道具もあった方が良いだろうし、ミノルからもらった新型HUNTERの情報を基にして戦術も組み立ててみるわ。」
「そこんトコロ宜しくお願いしますわ。」
できるだけ早めに目途を立てるからとユージが言うので、その言葉を信じつつ、報告に関しては以上で終了することとした。
ユージのことなので、口にしたからには何らかの解決策を見つけ、おそらく近々には有効な戦術を考え出してくれるに違いない。
未来人が見込んで過去に連絡要員として配置しただけのことはあり、ユージはブレーンとしては非常に有能な男である。
日本有数のIT系ベンチャー企業を立ち上げ、そのCEOに収まるほどの男であるから地アタマが良いのは言うまでも無いのだが、理系文系の分野を問わず、雑学も含めて知識の幅が広いし、発想力や判断力に関しても優れている。
我々のチームは、戦術面に関してはサユリさんのリーダーシップが利いているが、戦略まで考えて様々にバックアップしてくれるユージの存在あってこそ機能していると言って良い。
「とりあえず、対新型HUNTER戦術のポイントになるのは、速度とジャンプ力、改良されたバランス感覚、そして今までと比較して増えた重量。それとやっぱり音が聴こえているらしいってことになりそうだなぁ。」
そう言いながら4個目か5個目のバターサンドの包みをユージが破った。
(ん? おいおい、ビールを呑みながら、んなバターと砂糖の塊みたいな菓子を連続して口に放り込んで大丈夫なんか? )
こんなペースでバターサンドを食ったら、私なら嘔吐してしまうだろう。
頭を使う際には糖分の補給が大事だとは言われているが、そんなのを見せられていると胸がムカムカしてくる。
「今回の苦戦はHUNTERの身体的な強化もあるが、一番は音が聴こえていたことによる戦闘パターンの変化が大きかったんだろ? 」
ユージは、口の中が甘さと油でドロドロになっていそうなのに、顔色ひとつ変えずに話を続けている。
(うげぇ、できるだけ見ないようにしよう。)
ユージがこんなにも大甘党だったとは知らなかった。
買って来た土産を美味しそうに食べてくれているのは有難いが、甘いモノが得意でない私が見ていて気分の良いモノではない。
私はユージから目を反らして歌舞伎揚げを齧り、その醤油風味で視覚的に生じた胸やけを抑えることにした。
「これまで旧型がどうやって敵を見極めっていたのかは良く分からなかったけど、新型は間違いなくこっちの音に反応してたよ。攻撃の狙いが随分正確になっていたのは音が聴こえるようになったからだと思う。」
不確実な推測ではあるが、ユージは以前、旧型は空気の動きとか振動に反応して動いているんだろうと言っていた。
旧型は感覚器官としては貧弱な触覚しか持っていなさそうとのことなので、これはたぶん正しい推測だったのだと思う。
接近しなければ動き出さなかったのはそのせいであり、そもそも待ち伏せ型として作られたのなら、それで機能的には十分だった。
ところが、新型HUNTERには聴覚が備わった。
それによって、戦闘スタイルが積極行動型に変化したのである。
「ただ音が聴こえるってだけじゃなく、空間把握もできていた気がする。旧型みたいに突進してひっくり返ったり、ぶつかったりしなかったし、サユリさんとの戦いじゃ建物の壁面を利用して立体的な攻撃を繰り出してたからね。」
アメコミの蜘蛛人間や空手マンガに出てくる達人のような動きで、サユリさんを翻弄するような戦いを見せていた。
「音が聴こえるって言えばEATERもそうだったけど、あいつらは音のする方に向かって飛び掛かるだけだったからなぁ。攻撃スタイルは全然違う。
新型HUNTERの場合は目標との距離を測って正確に襲ってくるし、外しても体勢の立て直しと目標の再設定も早いし、かなり厄介だったわ。」
「つまり、音が聴こえるだけじゃなくて、蝙蝠のエコーロケーションみたいな機能を有してるってことだな。パッシブソナーにアクティブソナーまで備えてるってわけだ。」
蝙蝠やイルカが超音波を発信し、その反響をキャッチして空間を把握するエコーロケーションは知っているが、アクティブとかパッシブとかは知らない。
ソナーというなら、戦争映画とかで潜水艦や駆逐艦が使ってる探知機のことか?
「簡単に説明するなら、アクティブソナーは音波を発信して、その反響をキャッチする方式。パッシブソナーは離れた相手が発信する音をキャッチする方式。」
そんなアメコミヒーローがいたのを思い出した。
主人公は目が見えないが超人的な聴覚を備えており、その能力を音の反響を利用して空間を捉える生体レーダーとして用いて悪と戦うという設定だったが、新型HUNTERはあれをやってるというのだろうか?
「ちょっと待てよ。新型も旧型と同じで、白坊主で目も鼻も口も耳も無い “のっぺら坊” だったぞ。」
耳は兎も角として、音を発信する機能なんて見当たらなかったし、特別な音を出している様子も無かったのだが?
「口は無くとも音を出す方法は色々あるだろうさ。それに新型HUNTERが発信しているのが超音波ならば人間の耳には聞こえないしね。
だいたい、自分で音を出さなくとも、3次元空間は無音じゃないからさ。風が吹く音、水の流れる音、車のエンジン音、動物の鳴き声、信号機の音、自分の足音や心臓の鼓動音なんてのもある。
どんなに朝早くても人の姿が無くったって、音のしない空間なんて有り得ないんだよ。そういう色んな音源から発生した音が街中に溢れてて、それが大小硬軟様々な物質にぶつかって反響してるんだから、それをキャッチできる機能を備えていればアクティブソナーと同じことになるんだよ。」
「そ、そういうもんか? 」
ユージの話を聞いていると、新型HUNTERはかなり優秀な生物兵器であるらしい。
これから、そんな敵と戦わなけれならなくなると思うと、かなり気が重くなる。
「でも、悲観することばかりじゃないだろ? 」
「どういうこと? 」
「だってさ、ミノルが勝機を見出したのも、新型HUNTERの聴覚機能のおかげなんだよな? 」
「え? ああ、それはそうなんだよね。」
戦闘中に突然登場したヒシイさんとマシマさんの声により、新型HUNTERが気を逸らしてくれたおかげで窮地を脱することができた。
聴覚の無い旧型には有り得ないパターンの行動だった。
「聴覚は優れていても、それを正しく処理するほどの知能が無いからそういうことになる。つまり、頭のデキは蝙蝠以下ってこと。そこが新型HUNTERの付け入るべきポイントになりそうだね。」
何か良いアイディアでも浮かんでいるのだろうか?
ユージがウンウンと独りで頷きながら、もう何個目か分からなくなったバターサンドの包みを開けた。
30個入りの箱を買ってきたので、まだまだバターサンドは残っているが、いい加減にしないと身体に悪そうである。
(まさか、今日中に食い切るつもりじゃないだろうな? )
我々グループの頭脳であり、中枢であるユージが糖分や油分取り過ぎによる成人病なんかで倒れたりしたら洒落にならないのだが。
(それに、見てるだけで吐きそうなんだけど・・・視覚的にも勘弁・・・うぇ )
年内には連載再開いたしますので
よろしくお願いいたします。




