1991年5月7日 火曜日 16:00
札幌出張から帰ってきた翌日、私は土産を持参して九段下マンションの204号室を訪ね、一連の経緯をユージに報告した。
今後、回収してきた4個の磁石を渡すのと、今後の脅威となるであろう新型HUNTERに関する内容が中心になったが、ヒシイさんとマシマさんの件はサユリさんからの電話報告が先行してるはずだったので、私からはサラッと触れる程度にしておいた。
ある意味、そっちの方が重大事だったのかもしれないが、ユージも面倒事はサユリさんに全てお任せにするつもりになっているらしく、その話題についての報告は聞き流していた。
どうせ、サユリさんのことだから、いずれ我々を巻き込まずにはおかないだろうし、男衆には逆らえるほどの力が無いので、いずれは片っ端から面倒事を押し付けられるに決まっているのだが、今はまだ知らんぷりしておくに限る。
で、新型HUNTERに関するユージの見解だが、
「やっぱ、Time transfer device がアップグレードしたと考えるべきだろうねぇ。」
Time transfer deviceの送信容量が大幅に増えたことで、HUNTERの攻撃力と速力が上積みされたと考えるべき、とのことである。
「今後は、我々じゃ太刀打ちできなくなってしまうのかも知れないなぁ。」
あのレベルの化物と戦うには、こちらも相応のダメージを覚悟しなければならない。
札幌では運良く4体とも片付けられたが、余裕があったのはケンタだけ、私とサユリさんは辛勝であり、軽傷ではあるが共にダメージを受けてもいる。
これは今までのHUNTER狩りでは無かったことである。
初陣の時に私は足首を軽く捻挫してしまっていたが、あれはこちらの不注意によるところが大きくて、HUNTERの能力によるものではない。
だが、今回に関してはHUNTERと真正面からぶつかって受けたダメージである。
よって、次回も苦戦が予想されるし、負けの可能性も有り得ないことではなくなった。
「もちろん、新型に対する手当は必要だけど、今後に毎回新型が送られて来るとは限らないよ。だから、あまり神経質にならない方が良い。万が一にも自信喪失なんてしちゃダメだからね。」
ユージは、千歳空港の売店で購入した土産のバターサンドを頬張りながら、そんなことを言った。
「こちらの時系列と未来の時系列は並行しているわけじゃないからね、未来人がHUNTERを送る順番が、こちらのカレンダーでも同じ順で並ぶってわけじゃない。だから、これからも旧型が転送されてくることはあるだろうし、新型の初投入が今回だったとも限らないだろう。」
またもや4次元的な思考というわけだが、言われてみればナルホドである。
未来人が先に今年の12月の予定を立ててから、遡って5月の予定を立てることもあるだろうし、そうなればこちらでは先行する5月の方が12月よりも新しいHUNTERが送られてくることもあるだろう。
「でも、新旧のどちらが来るかなんて分からないから、結局のところ新型に備えなきゃならないだろう。」
「そりぁ、備えなきゃならんだろね。新旧どちらが来ても大丈夫にはしとかなきゃならんだろうね。でも、毎度苦戦することを想定して暗くなるのは絶対にダメだわ。」
「別に暗くなりはしないぞ。」
未来人の指示に従っての化物退治については、既に覚悟を決めて参加している。
乗り掛かった船どころか、既に出港した船なので、そこから海に飛び降りて泳いで引き返すようなことはできない。
そもそも、自分の人生を修復するついでに、後の世に続く世界史の危機回避もできるというならば、知らんぷりして見過ごすのもどうかと思うし、ユージやサユリさん、ケンタとは仲間意識のようなモノも芽生えている。
それは62歳まで生きた私の人生では有り得なかった “人と人との濃い繋がり” である。
最初は流されて参加した化物退治のチームだったが、いつの間にかそれを好ましく思えている自分を発見したことにより、既に人生の一部が修復され、全く別な未来を目指して歩み始めていることも実感していた。
私にそんな可能性をくれた機会を手放すことはできるはずがない。
強敵が出現したからと言って逃げ出すつもりは無いし、多少真剣な話はするし、頭を抱えもするだろうが暗くなっているつもりは無い。
「なら全然良いんだけどさ。」
ユージは2個目のバターサンドをムシャムシャと齧りながら頷いていた。
その菓子、自分で買ってきて言うのもなんだが、1個目は美味しくいただけるが2個連続して食うには味が濃すぎて少々重たいと思うのだが。
「それ、腹にもたれない? 」
「いや、美味いよ。ビールの摘まみになりそうじゃん。」
そう言ってから、思い出したように冷蔵庫からビールを持ってきて、
「ホレ、呑もうぜ。お前もバターサンド食う? 」
箱を差し出されたが断った。
「俺はこっちの方が良いよ。」
そう応えてディバックから取り出したのは毎度の歌舞伎揚げ。
「いつもそれだよな。飽きない? 」
「ぜんぜん! 」
そのまま、暫く札幌の話をしながら二人でビールを吞んでいたが、一旦離れても話題は一周して新型HUNTERに戻ってくる。
やはり、棚上げにしたり、置きっぱなしにするわけにはいかない話題である。
いずれ、サユリさんやケンタを交えて対策会議をしなければならないのだが、この場でも幾つかの素案ぐらい出てこざるを得ない。
「問題は武器なんだよ。」
これは私の実感である。
我々の主たる武装である金属バットは、動作の鈍い旧型HUNTERならば十分な威力を発揮してくれるが、動きの素早い新型となるとそうはいかない。
私の場合、新型HUNTERが他に気を取られた隙を狙って致命傷を与えられたわけだが、毎回そんなラッキーショットが続くわけがない。
正面から戦って新型HUNTERを圧倒できたケンタの場合、柔道4段の格闘センスが大きく役立っていただろうし、剣道の経験者でもあるということなので、金属バットを竹刀代わりに操って戦うこともできていた。
私の場合、腕力には自信があるとは言っているものの格闘技経験はゼロ。
人間相手なら兎も角HUNTER相手なら旧型とであっても肉弾戦など自殺行為でしかない。
「そこを何とかできる武器が欲しい。これは切実な願いだな。」
私の話を聞きながら、ユージは唸りながら天井を見ていた。
「例えば、飛び道具、銃とか? 」
魅力的な響きではあるが、そんなモノ簡単に手に入るわけがないだろう。
まさか、ユージは非合法な入手先でも知ってるのだろうか?
「知らないけどね、言ってみただけ。」
「ちっ! 」
銃を手に入れようとしたら、日本では猟銃ということになる。
所謂、散弾銃というヤツである。
許可を取るのは難しくなさそうだが、猟銃を所持するには様々な法律を順守する必要があって、かなり面倒臭そうである。
それに、
「HUNTERに銃って利くの? 」
「どうだろう? ダメージは与えられるだろうけど、ショットガンなんかじゃ殺すのは難しいかも。バードショットやバックショットのシェルを使ったんじゃ、穴が開く程度だろうから、頭が悪くて痛覚も無いHUNTERじゃ怯ませることもできそうにないな。初心者はライフルの所持はできないし、致命傷を与えるなら鹿撃ち用のサボットスラッグぐらい使わなきゃなんないけど。当たり所が悪けりゃ意味無いから、腕磨かなきゃなんないし。」
良く分からない単語が混じっていて、何を言っているのか良く分からないが、HUNTERに猟銃では無理ということは分かった。
よって、銃については却下。
「ロケット弾でもぶち込まなきゃ、一撃で倒すのは無理ってことだわ。」
「そうなると、ダメージを重ねていく方法しかないんだけど、刃物や鈍器ってことになると、それも難しいね。刀剣なんて銃以上に所持や携帯に不便だよな。」
そのまま、二人して天井を見上げて暫く唸っていた。
「やっぱり、金属バットしかないのかな? 」
そうはいってみたものの、心許なくはある。
「うーん、人前で携帯が可能で、威力があって、違法じゃないモノかぁ。」
そんな武器があれば言うこと無いのだが、
「そんなんあると思う? 」
私には、まったく見当もつかない。
「違法じゃないってとこを、違法には見えないってことにするならば、後はアイディア次第だと思うな。」
そう聞いて、ふと昔の時代劇で見た定番アイテムを思い出した。
「仕込み杖みたいなモノはどうかな? 」
「その考え方で行くのが正解だろうね。」
ユージが半分だけ同意した。
「但し中身が刀というわけにはいかないよ。真剣なんて、素人が扱ったら自分が怪我しちまうだろうからね。だから、それに代わるモノを考えなきゃならん。」
「さらに、素人でも扱いが簡単ってのを付け加えないとダメだってことだ。」
「そういうこと。扱うのに技量の必要な武器は銃や刀なんかはダメ。」
「こりゃ、答え出んのかな? 」
ユージは知恵を絞り出そうと頑張っているが、この時点で私は既にギブアップしそうになっていた。
「武器はゆっくりと考えることにして、人手を増やすってのは無理なのかな? 前に他の遡行者がいるって言ってたじゃん。」
「ああ、それは無理。一応、俺が訪ねてきた遡行者は全員面談してるわけなんだけどさ、性格や体力面、それに家庭環境なんかを考えると全然誘えないわ。そもそも、秘密を共有できる気がしなかったから、挨拶だけしてサヨナラしたような連中を今から呼び戻すなんて無いわ~。」
実際に会って話しているユージがそう言うならば、この案は残念ながら諦めるしかないのだろう。
「あ~あ、新しい人材が遡行してこないもんかな。」
他に何も思い浮かばないので、唸ってみただけなのだが、
「新しい人材ならいるんじゃないの?」
ユージが変なことを言う。
「何処に? 」
「札幌出張で新しい仲間ができたって、サユリさんが言ってたじゃん。」
ユージは半笑いで言っているので冗談のつもりだろうが、そんな馬鹿な話は万が一にも有り得ない。
「未成年の一般人の女子なんか戦力になるわけないじゃん! 」
もうすぐ、第2章も終了します。
これまで、読んでくださっている方
ありがとうございます。
第3章からはチームメンバーも増えて
新たな感じで展開を考えています。




