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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第二章 超常警察官
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第一話 『書類の嵐』

いよいよ二章突入です!

 その日、朔太朗は非番日にも拘らず午前中から出勤し地域課のデスクにかじりついていた。


 実は昨日の当直勤務明けに上司の但馬に捕まり、


「千光寺、お前書類溜めてるだろ? 刑事課から催促がきてるぞ。言いたかないが最近のお前は少しおかしい。しっかりしろよ!」


 と、ハッパをかけられていたのだ。


 それもその筈だ。アストラから帰ってからというもの、こちらの世界で何をやっても満たされず酷い無気力に襲われていたのだ。

 当然それは仕事ぶりにも現れ、検挙や取り締まりはもちろん書類すらサボるようになっていたのだ。


 正に警察社会でやる気の無い人間を意味する『ゴンゾウ』に成り果ててしまっていた。


 そんな朔太朗を動かしたのは但馬の熱意だった。誰もが後ろ指を指す中で、


「何かあったのなら俺に相談してくれ。この仕事は全てが嫌になっちまう時期が少なからずあるもんだ。恥ずかしい事じゃない」


 と、親身になってくれる彼にせめて迷惑は掛けたくないという思いからである。


 無心に書類を作成しているうちに、いつのまにか時刻は午後を回っていた。

 突然、デスクに置かれた缶コーヒーが視界に入り込む。正面を見上げると、意外な事にそこには絵麻が立っていた。


「よっ!」


「なんだ絵麻か⋯⋯。何やってんの? 今日非番でしょ?」


「近くまできたからね。頑張ってるかな——と思ってさ」


「なんだよ暇人かよ⋯⋯」


「どれどれ、あと何が残ってるの?」


 絵麻はデスクに身を乗り出して覗き込む。


「⋯⋯見分が四つだよ」


「あとちょっとじゃん! 今日中に何とかなるんじゃない? 私、図面描いてあげよっか?」


「いいって。駄目でしょ? そういうの。コーヒーは有り難く頂くよ。帰った帰った!」


 ところが絵麻は、


「はいはい。そのうち帰りますよ——!」


 と、朔太朗の向かいの席に腰を下ろすとスマホをいじり始めている。


「やれやれ⋯⋯」


 朔太朗は溜息をついて再びデスクに視線を落とした。



「終わったぁ——!」


 溜め込んでいた書類を全て片付けて朔太朗は大きく伸びをした。窓の外は既に陽が落ちている。そろそろ日勤の連中が上がってくる頃だろう。


「お疲れ! 頑張ったじゃん」


「お前まだいたの? 」


「遅くなっちゃったね。帰ろ帰ろ」


 二人は裏門で待ち合わせ庁舎を後にした。こうして一緒に帰るのも久しぶりかもしれない。


「朔、ご飯食べてこうよ? 今日もダメ?」


 その言葉に、朔太朗は彼女が自分を待ってくれていた理由を察し、それに気が付かなかった自分に軽い自己嫌悪を覚えた。


「⋯⋯しょうがないな。ファミレスでいい?」


「オッケ——!」


 案内された座席はパーテーションで仕切られた半個室風の空間だった。二人はそこに向かい合う様に腰を下ろす。


「ファミレスなんて大学以来じゃない?」


「そうだっけ?」


 朔太朗はメニューと睨めっこしながら答える。


「ああ⋯⋯悩むな。冒険すべきか王道を選ぶべきか⋯⋯」


 絵麻はそんな朔太朗をただ見つめている。


「絵麻は決まったの?」


「私は何でもいい!」


「あっそ。ピンポン押しちゃうよ?」


 朔太朗はウェイトレスを呼ぶとメニューを指差しながら注文する。


「えっと、ハンバーグステーキを一つ」


「じゃあ私も同じで!」


 ウェイトレスレスが下がった後で朔太朗は


「あぁ今日は仕事の後の冷たいがビール飲みてぇなあ! 自転車じゃなかったら飲むんだけどなぁ⋯⋯」


 と、残念そうな声を上げた。


「はは、珍しいね! なんか最近⋯⋯朔変わったよね?」


「そう?」


「うん。なんていうのかな、前は馬鹿だけど一生懸命だったよ。『人の役に立ちたい』って気持ちが伝わってきてた。でも最近は仕事を極力避けてるよね?」


「⋯⋯『ゴンゾウ』だって言うんでしょ?」


「そうは言わないよ。そうは言わないけど⋯⋯。そんなの朔じゃないかなって」


「絵麻に⋯⋯絵麻に俺の何が解るんだよ?」


「それは⋯⋯そうだけど」


 失言だった。朔太朗は自身の言葉に俯いてしまった絵麻を見てただ後悔していた。


 店の前の大通りを救急車のサイレンが流れていく。


「お待たせしました」


 長い沈黙を破るようにウェイトレスが食事を運んでくる。気まずい空気の中で食べたハンバーグステーキはどんな味か思い出す事もできなかった。


 二人はファミレスを後にして会話も無いまま自転車を走らせる。いつもの交差点に差し掛かった頃、遂に我慢しきれずに絵麻が口を開いた。


「朔! 何か悩んでるよね? それ、私に話してくれない⋯⋯?」


 ——アストラに帰れないんだ!


 と、話せたならどんなに楽だっただろう。朔太朗は何も言えず口をつぐんだ。


「うちに⋯⋯来ない?」


 小さな声で絵麻が呟く——。

 横断歩道の信号がまるで二人の鼓動のように点滅していた。


「ごめん⋯⋯」


 しかし、事実が話せない朔太朗にはそう答えるしか選択肢が無かった。


「そう⋯⋯。おやすみ!」


 絵麻はそう言うなり横断歩道の反対側に走り去る。


 頬を流れる涙が車道の光に反射してキラキラと輝いていた。

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