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超常ポリスは眠らない〜異世界警察と天蠍の王女〜  作者: 白谷毛虫
第一章 ようこそアストラへ
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第二十六話 『警衛』

 アガーテは司法局に入った途端只ならぬ雰囲気を感じていた。


「何かあったんですか?」


 通りすがりの捜査員に話し掛けるが何も答えてもらえず、二階の刑事課オフィスへ駆け上る。


「セレモニーは決行する? アナマリア様の命が狙われているんだぞ! 王家は何を考えているんだ⁉︎」


 扉を開けるなり響いてきたマルタンの怒号にアガーテは肩をすくめた。何やら若手の職員から報告を受けて怒っているようだ。

 オフィス内は見知った数名を残して出払っておりガランとしている。


 アガーテはその中にサクを見つけると足早に近づいていった。


「サク様、いったい何が?」


「おはようアガーテ。⋯⋯ちょっとこっちで話そうか」


 アガーテをオフィスの隅へ促し深夜からの経緯を話し始める。ヤンセン一家にも一度同じ説明をしたので、簡潔に説明する事ができた。


「⋯⋯と、いう訳なんだ」


「それが事件の真実? そんな事の為に村を襲わせていたなんて⋯⋯!」


 案の定、アガーテはアムネジアの村襲撃の真相を知ってショックを受けている。


 ——気持ちの整理がつくまでしばらく時間がかかるかもしれないな。


 サクは彼女を気遣いそっと側を離れた。


 一方、オフィスの奥ではマルタンが信書に目を通しながら信じられないといった様子で手を震わせている。


 祝賀セレモニーが襲撃される可能性が高いことを、警備課を通して王家に伝えたのだが、その返答は驚くことに『予定通り決行する』というものだったのだ。

 信書は王家のシーリングスタンプが施され正当なものである事は疑いようもない。それどころかアナマリア直筆のサインが記されており法的な効力すら持つものだった。


 それだけにマルタンは怒りのやり場がなかった。


「上に行ってくる。本来警備課の仕事だが今日のセレモニー警衛にはうちも加えて貰わない訳にはいかん!」


 そう言うなりオフィスを勢いよく飛び出していく。行き先は三階の警備課のオフィスだ。


「課長、悔しいでしょうね⋯⋯」


 トレーシーがコーヒーを片手にやって来るとデスクに腰を下ろして溜息をついた。


「でもそれは私達も同じ⋯⋯。せっかく事件の端緒を掴んでも、王宮内は治外法権。司法局とは明確に職務分離された近衛兵が警衛している以上何もできないんだもの」


「なるほど⋯⋯そういう事情があったんですね」


 と、サクが言う。


「それより自分達はこんな所でのんびりしていて良いんスかね? みんなは行方をくらませたサーソク卿を捜索しているのに⋯⋯」


 ゴーリキが人気のないオフィスを見回しながら呟いた。


「有事に備えて『能力者』の俺達を手元に置いておきたいんだろう。どのみちさっきの様子じゃ警衛に配置されるさ。今のうちに休んでおいたほうがいい」


 アイソポスは腕を組んで目を瞑っている。


「⋯⋯ところでよ、俺達何もする事が無くって暇なんだよ。何か手伝える事はねぇのかい?」


 不意にそれまでオフィスの隅のデスクに突っ伏していたヤンセンが口を開いた。


「確かに。俺達は危うく国家反逆罪の手助けをしちまうところだった訳だし⋯⋯このままでは気が済まないな」


「僕もお城に入りたい!」


 と、ハンセンとヨハンセンも続く。


「まあまあ、君達は捜査の進展に十分貢献してくれたじゃないか。あとはお沙汰をゆっくり待ってくれよ」


 ゴーリキが慌ててフォローする。


「私も⋯⋯今度ばかりは捜査の行く末をこの目で見届けたいです! この目で見た結末をお義父さまに伝えたい!」


 いつの間にかやって来ていたアガーテも便乗する。


「アガーテさんまでそんな事を言って⋯⋯。あなたの外出まで自分達は制限する事は出来ないっスが、事件が起きれば現場は大混乱になります。自重してください」


 ゴーリキにたしなめられるもののそれで諦めるアガーテではなさそうだ。


 ——この子は俺なんかが想像している以上に強い信念を持っているんだな⋯⋯。


 と、サクは改めて思うのだった。


 しばらくして戻ってきたマルタンは筒状に丸め携えていた紙をデスクに広げる。


「みんな集まってくれ!」


 どうやらアストラ王宮周辺と敷地内の地図のようだ。


「急遽本日のセレモニー警衛に従事することになった。これから配置について説明する」


「——ち、ちょっと待ってください。私達だけですか? 他の捜査員は?」


 一方的に話を進めるマルタンにトレーシーが思わず口を挟んだ。


「セレモニーを物々しくしないようにと王宮からのお達しだそうだ。今回も少数精鋭で行くしかない。⋯⋯サクさんまたよろしく頼むよ」


「はい!」


 サクは当たり前の様に自分が頭数に入っていることにもはや何とも思わない。


「さて、王宮は周囲を運河の水を利用した堀で囲まれている。敷地内への入口はいくつかあるが本日開放されるのは正面の『紅蓮の門』だ」


「紅蓮の門?」


「サクさんは見た事がなかったかな。その名の通り炎をあしらった門だよ。王宮の顔と言えるかもしれないね。この門から先の敷地内は近衛兵のテリトリーだ。司法局は当然その外側の受け持ちになる訳だが⋯⋯」


 マルタンはそこまで話すと地図上の一点をピシリと指差した。


「——我々の持ち場はここだ!」


 一同が覗き込む。


「橋⋯⋯ですか?」


 そこは紅蓮の門へと続く橋上だった。


「この『覇者の橋』こそ司法局の受け持ちの中で王宮までの最短ポイントだろう。我々はここで参賀者に目を光らせつつ有事の際に敷地内に飛び込む!」


「本気ですか⁉︎」


 トレーシーが驚く。


「『緊急避難』だ! アナマリア様はもちろん、一般参賀者の身体、生命、財産を守れないのなら我々の存在意義などない! 尚、有事の際は警備課が連携して各城門の開放を王宮側に働きかけてもらうことになっている」


「合同作戦ですね!」


「そういう事だ。この時、初めて待機させておいた職員全員を投入し速やかな避難が出来るよう参賀者を誘導する」


 全員が頷いた。


「さあ!開門までそう時間もないぞ。準備出来次第出発だ!」

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