第二十二話 『ヤンセン一家の真実』
翌朝、サクはアガーテと一緒に宿を出ていた。
司法局が滞在費用を負担してくれるお陰で、昨夜から二人の部屋を別々に取る事が出来たのは有難い限りだ。
「ふぁーあ⋯⋯」
と、サクが大きな欠伸をする。
「昨夜はお疲れ様でした。上手くいって良かったですね!」
「うん。みんな頑張ったからね。これで黒幕へ一歩近づければいいんだけど ⋯⋯」
二人は運河沿いに街を歩いてセントラル広場に出ると、まっすぐ司法局へ向かう。
「おはようございます⋯⋯ってすごい人!」
二階の刑事課のオフィスに入ると室内の慌しさに二人は目を丸くした。
昨夜の逮捕者は八十数名に上り、捜査員は夜通しその取り調べに追われていたのだ。
「みんな徹夜してたんだ⋯⋯。なんだか申し訳ないや」
そこへ目の下に隈をつくったマキネンが書類の詰め込まれた重そうな箱を抱えて現れる。
「そうなんですよ。あの書斎から依頼人やらギルドメンバーの履歴やら山程証拠が出て来ましてね。それと昨日の逮捕者との照合がまあ大変なんです! 一致した者以外は証拠不十分で釈放しつつまだまだ続いているところなんです」
「そ、そう。身柄になると大変ですよね。よく解りますよ」
サクも現実世界の警察で逮捕案件の大変さは経験しているので本心からそう思っていた。
マキネンは箱をデスクに置くと一心不乱に書類を確認し始める。
そんなマキネンはそっとしておきつつ、ふと視線を先に向けると同じ島にヤンセン一家が暇そうに座っているのを発見した。
「何やってんだお前ら?」
「お、旦那か。聴いてくれよ、俺達がギルドの内情に詳しいってんで捕まえた客の面通しをしろやら証拠資料に書かれた人物について教えろやらここの連中人使いが荒いんだよ!」
「はは、自由の身になるために頑張らないとな! お前達の悪事の履歴も白昼にさらされたのなら尚更だろ?」
するとサクの言葉に珍しく怒りを露わにしてヨハンセンが反論する。
「人聞きが悪いなあ。僕達は基本的に私腹を肥やす悪人から貧しい人達を守るために活動していたんだよ!」
「どこにも救いを求められず、裏社会にすがるしかない弱者が少なからず存在するのがこの世界の真実だ。俺達は非力だがそんな人達の力になりたいと思っている」
と、ハンセンが説明すると続けてヤンセンが口を開いた。
「おっと、でも勘違いしないでくれ。俺達は実力行使をする時もあるが、殺しは絶対にしないと誓っているんだ。それがどんな悪党でもな!」
「それじゃあ、アムネジアの村を襲ったのは何故ですか! 私達がいったい何をしたというのです?」
アガーテは『弱者を守る』という言葉とアムネジアの村襲撃がどうしても結びつかず、思わずヤンセンに疑問をぶつけていた。
「アガーテ嬢、本当にすまねぇ。その件に関しては俺達も依頼を鵜呑みにし過ぎだったのは否めない」
「依頼内容は『人里離れた山奥でアムネジアを集めて街の襲撃を画策している村がある。被害が出る前に早急に解散させて欲しい』だったな?」
「ひどい!」
事実とは大きく異なる依頼内容にアガーテが首を振る。
「ああ⋯⋯。そもそも何年も穏やかに暮らしているアムネジアの村に限ってそんな事ある筈がなかったんだ。あの村で一日過ごしてそれがよく解ったよ。旦那が止めてくれて良かった⋯⋯」
それを聞いてサクはゆっくり頷く。
「なるほど。やっぱり悪意のあるものから人殺しまで、出処や真偽の定かではない依頼を受け手の解釈次第で実行出来てしまう裏ギルドは危険だな。例えそれで救われる人が居たとしても、犯罪を手段にした時点で間違っていると思うんだ」
「私もサク様に同感です。ヤンセン達が見た目によらず良い人なのは解りましたが、建前が違うだけでやっている事は悪人と一緒なのでしょう?」
「それは⋯⋯」
「そう言う事だ。だからこの事件をきっちり片付けて落とし前付けようぜ!」
と、サクは片手でガッツポーズする。
「そうです!」
アガーテも便乗して両手でガッツポーズを取りながらウンウンと頷いている。
それを見たヤンセン達は目を丸くして顔を見合わせた後、堪らず笑い出していた。
「はははは! 全く、二人には敵わないな」
そんな悪態をつきながらもヤンセン達三人は瞳に先刻までとは別人の様な輝きを見せ、
「よしっやるぞ。仕事だ! マキネンさんよ、何をすりゃあいい?」
と、マキネンの仕事を手伝い始めたのだった。
サクはそれを見届けると、オフィスの奥に足を運んでいた。
「おや、サクさん。いいところに来たよ! さあ、こっちへ!」
それに気付いたマルタンがサクを自身のデスクへ招く。どうやら昨夜の一件で彼の信頼を得られたようだ。
「実は今、『ノエル』の従業員と例の隠し部屋の二人の取り調べを進めているところなんだ」
「何か判りましたか?」
「ああ、二人は『ノエル』のマスター『能力者』アルターと『代理人』のクロートだ。だいたいの素性は判明したんだがね、肝心の一連の事件の依頼人については口を割らないんだ。どうやら何かに怯えているようでね⋯⋯」
「『能力者』アルター? 危険はないんですか?」
「アルターの能力は『契約』らしい。彼の作成する契約書を介してそれを履行させるものだ。アルゴもそうやって用心棒として従わせていたようだ」
「そういえばヤンセンが昨夜言ってましたね。ところで代理人というのは?」
「ああ、『ノエル』は会員制のバーだからね。裏ギルドに依頼するために代理人を立てるケースが一般的なようだ。法外な手数料を取る悪徳代理人も横行しているようだがね」
「二人が何かに怯えているというのは?」
「それなんだよ!」
マルタンはそう言うなり腰掛けていた椅子から立ち上がる。
「このままでは埒が明かない。そこでサクさんに協力してもらいたい捜査があるんだ」
「⋯⋯というと?」
「尾行だよ!」
マルタンはそう言ってニヤリと笑った。




