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僕の大切なもの (中)

 ついにみんなが待ちに待った今日を迎えた。

 雲一つない青空に晩秋の寒さを忘れさせるように降り注ぐ暖かな光。

 絶好の文化祭日和だ。


 辺りを見回すと、まだ午前中だというのに校内は多くの人で溢れかえっていた。

 親子で来ている人もいれば、男女のペアで来ている人もいる。

 見慣れぬ制服の学生やお年寄りなど、老若男女問わず大賑わいだ。


 今日の僕の予定は丸一日自由時間となっている。

 変わりに明日は、一日中クラスで喫茶店の仕事だ。

 このシフトに深い意味はない。

 クラスでシフトを決める際に、特にこれといった予定を考えていなかった僕が「空いているところに入れていいよ」と言った結果だ。

 一日遊んで、一日仕事。

 逆にメリハリがついていて良いんじゃないかと思っている。


 さて、今日の予定だが先ほども言ったとおり、特に何も考えていない。

 恭太郎も今の時間は店で仕事中だし、どうしたものか。

 時間はたっぷりあるが、このまま何もせず過ごすのはさすがにもったいない。

 なので、とりあえず混雑しているところを避けつつ、ブラブラと校内を適当に見て回ろう考えていた。

 先ほどまでは……


「ほら涼。早く行きましょ」

 しかし、今の僕は茜と行動を共にしている。

「なんでこの組み合わせ?」

 なんとなく思ったことを口にしてみた。

「うん? 別にいいじゃない、たまには私につき合いなさいよ。それとも私と一緒じゃ嫌かしら?」

「嫌じゃないけど、僕と一緒に回るより、他の女の子と一緒にいた方が楽しめるんじゃない?」

 自慢じゃないがユーモアのセンスに自信はない。

「今さら何言ってるのよ。いい? 文化祭の準備で私もフラストレーションが溜まってるの。涼が相手なら私はなんの気兼ねもなくそれを発散できる。Do you understand?」

 と、こちらに迫るように言ってきた。

 

 もちろん、茜が文化祭のためにまとめ役として、クラスに多く貢献していたのも苦労していたのも知っている。

 その本人が僕と文化祭でフラストレーションを発散したいと言うのなら、それを無下にするつもりは毛頭ない。

「わ、わかったよ……でも、できれば少しは遠慮してくれると嬉しいかな。はは……」

 しかしそれを了承することで、今日が大変な一日になるであろうことは容易に想像できた。

「わかったらさっさと行くわよ。せっかく今日一日遊べるんだもの楽しまなきゃ損よ」

 実は茜も僕と同じシフトだったりする。

「さぁ、時間は待ってはくれないわ!」

「ちょっ、そんなに引っ張らなくてもちゃんとついていくよ」

 こうして、僕達の文化祭一日目が始まった────


「まずは何か食べましょうか。腹が減っては戦はできぬよ」

「これ文化祭なんだけど……」

 戦なんて、そんな物騒なものを持ち込まないでほしかった。

「ふむふむ、パンフレットによれば、外でやってる三年生の出店がおススメね。よし、そうと決まればレッツゴーよ!」

「待ってよ茜、僕は何も決まってないよ! もう、相変わらず一人でグイグイ行くんだから……」

 茜のテンションに僕は息つく暇もなく、意気揚々と進行していく茜の後をしぶしぶ追っていくハメになった。


 一、二年生は教室で出店を行うのだが、三年生は外に店を構えることが許されている。

 茜の後を追った僕の着いた先は、校庭横に構えられたチョコバナナの出店。

 やはり甘味ものは女の子に人気があるのだろう、ずらりと行列ができていた。

 ざっと見たところ、目的にたどり着くまで五分程度はかかりそうだ。

 今日は人が多いため、これくらいの時間は仕方がないと僕たちも列に並ぶことにした。


「ん~、チョコもバナナも甘くておいしいわ~」

 五分後、僕たちは目当てのチョコバナナを無事に買うことができた。

 僕の横では、茜が幸せそうにチョコバナナを頬張っている。

 バナナにはチョコがたっぷりとコーティングされており、一口食べると口の中でバナナの風味とチョコの甘さがいっぱいに広がっていく。

 僕にとってはちょっと甘すぎるくらいだが、茜の様子を見るに女の子にとってはこれくらいが美味しいようだ。


「食べたら喉が渇いてきたわね」

「そうだね。僕も少し口の中が甘ったるいよ」

 まだ口の中ではチョコの甘い匂いが漂っている。

「どっかで飲み物を売ってるお店は……と」

 茜はパラパラと出展されている店やイベントの予定などが書かれているパンフレットをめくり、次の目的地を探す。


「あ、おもしろそうなモノ見つけたわ」

「なに?」

「タピオカジュースよ」

「それって美味しいの?」

 少し前に流行ったものらしいが、僕は飲んだことがない。

「そんなの飲んでみないとわからないわよ。二年のお店だから上の階ね。あそこの階段から上って行きましょ」

 どうやら茜も初めてらしいが、僕も少し興味があったので、おとなしくついていくことにした。


 数十分後、タピオカジュースを飲み終えた僕たちは、再び校内を徘徊している。

 ちなみにジュースの感想だが、美味しかったと言っておこう。

 しかし、タピオカそのものの味はよくわからなかった。

 もちもちとした食感が印象的で、味の方はそのドリンク、僕の場合はオレンジジュースだが、ほとんどその味だ。

 ともあれ喉を潤した僕たちは、次の目的地を探す。


「さて、次はどこに行こうかしらね」

 茜がパンフレットで次の行先を探しているあいだ、僕は適当に周囲を見渡していた。

「あっ!!」

 するとあるものが目に留まり、僕は唐突に声を上げた。

「ん? どうしたのよ、いきなり声出して」

 そんな僕に対して、何事かと茜が尋ねる。

「ちょっとあそこに寄っていいかな?」

「別にいいけど、珍しいわね、涼がそんなこと言うなんて」

 普段は、僕の方からあれがしたい、これがしたいと言うことはあまりないが、これは見逃さずにはいられない。

 僕が見つけたのは、図書室の前にでかでかと立てられた看板。

 そこには『蔵書整理のため、古本安価で売出し中』と書かれていた。

 本好きの僕にとっては心躍る言葉だ。


「ほらほら、早く行こう」

「そんなに焦らなくても、本は逃げないわよ」

 先ほどまでとは立場が逆になってしまったが、僕は気にせず図書室へと入っていく。

 図書室内は椅子や机が片づけられており、床に敷かれたシートの上に本が所狭しと並べられていた。


「いらっしゃい」

 入って早々、こちらに気づいた図書委員の人に挨拶をされる。

 図書委員の人に話を聞いてみると表の看板通り、現在図書室では蔵書の整理が行われており、古くなってしまった本やボロボロになってしまった本を買い替える予定だったらしい。

 ただ本をそのまま捨てるだけではもったいないので、多くの人が来る文化祭の時期に合わせ、本を安値で提供しているとのことだ。


 さっそく並べられている本を確認していく。

 さすが図書室というだけあり、並べられている本は、文学、小説、専門書、雑誌など多岐にわたる。

 中には国語辞典なんてのも置いてあった。

 これだけ種類があれば掘り出し物も見つかるもので、普通に買えば千円以上するような本も半額以下の値段で売られている。

 お金を節約したい僕にとってはありがたいものだ。


 僕は現在、学生寮で生活をしている。

 寮に入る前は訳あって親戚の家でお世話になっていたが、いつまでも迷惑をかけていられないと、ここに入学すると同時に寮に入った。

 もちろん親戚の人はとても良い人たちで、いつでも戻ってきていいと言ってくれているし、生活費も毎月きちんと振り込んでくれる。

 食料も送ってくれて、至れり尽くせりなので、これ以上は甘えるわけにはいかないと、家計のやりくりに関しては少し厳しめにしていた。

 なので、欲しいものが安く買える場は見逃せないのだ。


「涼って、本当に本が好きなのね」

 僕が夢中になって本を選んでいると横から茜の声が聞こえた。

 大好きな本に囲まれて浮かれてしまい、つい茜のことをないがしろにしてしまったことに気づく。

「あ、ごめん。すぐに選ぶよ」

「いいわよ。ゆっくり選びなさいな」

「う、うん。ありがとう」

 

 茜の厚意に少しだけ甘えることにし、本選びに戻るが、茜からの視線が気になってどうにも集中できない。

「どうかした?」

「涼のそんな楽しそうな顔、久しぶりに見たと思ってね」

 僕が尋ねると思いもよらぬことを言いながら微笑んできた茜を見て、僕はなんだか気恥ずかしくなってしまった。

 何か返そうとしたが、うまく言葉が出てこない。


「そんなに夢中になれるのなら、私も何か読んでみようかしら」

 と、興味深そうに茜は並べられている本を見回す。

「き、興味があるなら、読みたい本でもジャンルでも言ってくれれば、僕のおススメを教えてあげるよ」

 ちょっとつっかえたが、なんとかいつもどおりに話すことができた。

「ええ、ありがと」

 言いながら茜は、再び僕の顔を見て微笑みを見せる。

 一瞬だが、自分の心臓の鼓動が早くなったように感じた。


 それからしばらくして、本を数冊買い終えた僕たちは図書室を後にする。

「じゃあ、次は私のターンね」

 いつの間にか、僕たちのあいだに変なルールができていたようだ。

「涼が本に夢中になっているあいだに、行きたいお店をいくつかピックアップしといたわ」

「それは……ご苦労様」

「次は」ではなく「ずっと」の間違いだろうと僕は心の中で指摘した。

「じゃあ張り切って行くわよ!」

 こうなった茜を僕が制御できるわけもなく、僕たちは茜がピックアップしたお店、主に食べ物関連を中心に回った。

 途中、僕が提案して入ったお化け屋敷で、茜が想像以上に怖がっているのを見て、茜にも女の子らしいところがあるんだなと思ったのは秘密だ。


「いでっ!」

「あ、すみません」

 移動中、時間が経つにつれてさらに人が増えていく中、混雑している廊下で人とぶつかってしまった。

「チッ、どこ見て歩いてんだよ」

 肩を掴まれ、壁に突きつけられる。

 その男の人は金髪で真っ黒な学ランに身を包んでいる他校の学生だった。

「謝るだけで済むと思ってんのか?」

 僕の肩を掴んだまま男はそう言ってきた。

 強い力で肩を抑えられており、僕はその場から動くことができない。

 そして僕が自分の財布に手をかけようとしたとき……

「そこで何をやっている!」

 校内を見回っていた先生が僕たちに声を投げてきた。

 それを見た男は小さな舌打ちを一つし、何も言わずにその場を去っていった。


「何やってるよの涼」

 先生に事情を聞かれていたところで茜が戻ってきた。

「気づいたら、どこにもいなくなってるからビックリしたわよ」

「ごめん、ちょっと人とぶつかっちゃって」

「また変なのに絡まれてたんじゃないでしょうね?」

「違うよ」

「ならいいけど。今は校外からもいっぱい人が来てるんだし気をつけなさいよ。みんながみんな、涼みたいな性格してるわけじゃないんだからね」

 わかった? と親が子にするような注意をされてしまう。

「わかってるよ」

 僕はそう返すが、

「涼を見てると、なんだか心配よ」

 ため息交じりな口調で言われた。

「大丈夫だって。ほら時間がもったいないよ、早く行こう」

 茜に余計な心配はかけまいと、気を取り直して再び校内を巡っていく。


 それからもいくつかお店を回った後、校内を歩き続けて火照った体を冷ますがてら、僕たちは外に出た。

「ふう、ちょっと疲れたよ。少し休憩しよう」

「なによー、情けないわね。ってもうこんな時間か」

 時計を確認すると針はすでに正午を示していた。

「じゃあ、お昼ご飯にでもしましょうか。涼は何食べる? 焼きそばでいいなら涼の分もあっちで一緒に買ってきたげるけど」

 茜の視線の先には三年生が出している焼きそばの屋台があった。

「よくそんなに食べられるね。そんなに食べてばっかりいるとふと……」

「何か言ったかしら?」

 背中に走った寒気を感じ取り、のど元まで出かかっていた言葉を飲み込む。

「な、なんでもないよ……」

 下手なこと言うと痛い目を見そうな気がしたので、すぐに自重した。


「やっぱり涼も食べなさいよ。私たちは育ちざかりなんだから、ね!」

 語尾が強く強調された有無を言わさぬその言葉に、僕は首を縦に振る。

「じゃあ行ってくるわ。もちろん涼の奢りだから、よろしく~」

「はい」

 ここに新たな一つの上下関係が成り立った……


 茜が焼きそばを買いに行っているあいだ、僕は近くにあったベンチに腰かけ、待つことにした。

「……うん?」

 ふと、何かの視線を感じて下の方を向くと、

「にゃ~」

 人ごみの中から現れた一匹の黒猫と目が合った。

 全身真っ黒な毛並に、ギロリと光る二つの丸い目。

 首輪らしいものは見当たらない。

 食べ物の匂いに釣られてやってきた野良猫か何かだろうか?


 少しのあいだ、僕と黒猫が視線を交差させあう妙な時間が続いた。

「キミはどこから来たの?」

 言いながらゆっくり手を伸ばしていくが、

「シャーッ!!」

 黒猫は僕の手を拒み、威嚇をするように鳴いた後、すぐにどこかへ駆けていってしまった。

 やっぱり僕は猫とは相性が良くないみたいだ。

 走り去っていく猫の背中を見つめながら、僕はあることを思い出していた。

 それは、数週間前に起きた出来事。

 川原で津山さんが拾った猫を巡って起きた、あの出来事を……


 あの後、猫の忘れ形見である子猫は津山さんが引き取り、自室で飼う許可を親御さんにもらえたそうだ。

 この前も写真を見せてもらったが、すくすくと元気に成長しているようで何よりだった。

 ただあのとき、津山さんや君と話したことが、どうしても僕の中で引っかかっていた。

 

 あのときの僕は自分が正しいと思って津山さんを止めた。

 それが当たり前だと思っていたからだ。

 そう思って行動したはずなのに、僕の中では、ずっと理由のわからない靄がかかっていた。

 何かがスッキリとしない感覚……

 自分の考えが本当に正しかったのか、今の僕にはわからない

 次の日に津山さんに深々と謝られた理由も僕ははっきりと理解していない。

 あのとき、どうすればこんな思いをせずにすんだのか、どうすれば津山さんの気持ちを理解してあげられたのか、僕の中では疑問がいっぱいだ。


 ふと、自分とみんなとのあいだには何かズレがあるのではないかと不安になるときもあった。

 僕だけが違う……津山さんとも、恭太郎とも、茜とも違う……

 もしかして誰も僕を理解してくれる人がいないのではないか? 

 そんな孤独にも似た気持ちが、僕を一層不安にさせていった────




「──う……涼ってば!!」

「え……?」

 名前を呼ばれる声で我に返る。

 僕の前には両手に焼きそばを持った茜が立っていた。

「何一人でボーっとしてるのよ?」

 時計を見ると長針は1の数字を指していた。

 ほんの五分ほどだが僕は自分の意識に浸ってしまっていたようだ。

「ごめん、なんでもないよ……」


 茜から受け取った焼きそばを、割り箸を使い口に運んでいく。

 出来立ての焼きそばなのだろう、麺からはまだ熱々とした湯気が立っている。

「それ食べたら、次行くわよ」

「ほんとに茜は元気だよね」

 いつでも、どんなときでも茜は活発で元気に溢れていた。

「あんたも男なら祭りを楽しみなさいな祭りを」

「祭りって……茜が言ってる祭りはきっと違う祭りだよ」

 そんな茜と接していると、なぜだろうか少し安心したような気持ちになれる。

 気がつけば、さっきまで考え込んでいたのがウソのように、茜といつもどおり会話を交わしていた。


「ふふ……」

 ふと、僕の顔を見て茜が笑う。

「何か顔についてる?」

 僕が聞くと、

「どう、少しは涼も気が晴れた?」

 茜の返答は予想外のものだった。

「なんのこと?」

「ここ最近の涼って、何か思い悩んでるみたいだったから」

「え、そんなに顔に出てた?」

「何年のつき合いだと思ってるのよ。何を悩んでるのか知らないけど、そんなの涼らしくないわよ」

「僕らしくない?」

 茜の言葉に僕は首を傾げる。

「あんな暗い顔して下向いてるより、恭太郎とバカやってる方がお似合いってこと」

「僕は普段から真面目に過ごしてるつもりなんだけど……」

 茜からはそう見えていたのか……


「ふふ、でも本当に困ったことがあったらいつでも相談しなさいな。24時間いつでも受け付けるわよ」

 いつの間にか茜を楽しませるつもりが、逆に気を遣わせてしまっていたようだ。

「うん、ありがとう」

「いえいえ、どういたしまして」


 そんな茜に感謝をしつつ、これ以上せっかくの文化祭に水を差すようなことはやめようと自分に活を入れた。

 きっと僕の考えは杞憂なのだ。

 僕は今までどおりでいいのだと、思考をポジティブに切り替えていく。

 僕はそうあるべきなのだと、他の考えをすべて排除していくように────


「そろそろ行きましょうか。私は一度クラスの様子を見てくるけど、涼はどうする?」

「僕も行くよ」

 焼きそばを食べ終えた僕たちは、自分のクラスの様子を見に行くことにした。


「おっ、涼と西崎じゃねーか。いらっしゃい」

 クラスに戻った僕たちを出迎えてくれたのは、執事服に身を包みながらホールの仕事をしている恭太郎だった。

「あらあら、馬子にも衣装ね」

「へっ、そんなに褒めんなって」

 茜の言った意味を理解していないのか、なぜか恭太郎は喜んでいた。

「今のは褒めてるわけじゃないよ、恭太郎」

 そんなやり取りを交わしながら店内の様子を見ると、なんと驚くことに満員御礼。

 みんなで試行錯誤したかいもあって、繁盛しているようで何よりだ。

 お茶だけでなく、子供用にジュースも用意していたようで、客層もお年寄りから子供まで様々だった。


「茜ちゃんに神谷君。来てくれたんですか」

 裏から出てきたのはメイド服姿の津山さん。

「ええ、委員長として様子を見に来たのよ」

「津山さんの衣装、とっても似合ってるね」

 挨拶代わりに思ったことを素直に言う。

「ありがとうございます。それで茜ちゃん、神谷君とのデートは楽しかったですか?」

「デ、デートって、何言ってんよ! そんな大層なもんじゃないわ」

「そんなに照れなくてもいいじゃないですか。ふふ」

「て、照れてないわ!! 涼からも何か言いなさいよ」

 津山さんにからかわれている茜を僕は微笑ましく見守っていた。


「よう、俺たちももうすぐ自由時間だからよ。午後からは一緒に回ろうぜ」

「うん、いいよ」

「なら、午後から体育館で演劇部の友達が劇やるって言ってたから、みんなでそれを見に行きましょうよ」

「いいですね」

「じゃあ二人が終わるまで、ここでお茶でもして待ってるよ」

「はーい! それでは二名様お席にご案内です!!」


 こうして僕たちは、午後からも楽しい文化祭を過ごすことができた。

 たとえ僕を理解してくれる人がいなくても、こうしてみんなと楽しい時間を共有することができる。

 それだけで、今の僕には十分過ぎるほどの支えになっていた。

 明日は僕たちがこのお店を切り盛りする番だ。

 どんな一日になるのか、今から楽しみだった────

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