第七話
行方不明だった三人の若者や地元探索員は、無言の帰還を果たした。彼らは入り江から離れた場所で発見された。
発見されたとき、彼らの身体には蛆が群がっていた。探索員を見つけた同僚は、とても直視できるような姿をしていなかったと話していた。
彼らを食べたのは、その虫や、海の生き物だろう。
私は辛うじて海坊主から逃げきったようで、地元の人間が気を失っている私を見つけて通報してくれたようだ。
地元民は立ち入り禁止の道路で見つけたらしい。
身体中にアザや汚れがあったとのことだから、森の中を転がりながらくだったのかもしれない。
地元の人間も、森の隙間に気がついていたようだが、足を掴んで必死に止める私を見て、考えを改めたそうだ。もっとも、私はその時のことなど覚えていないが……
それよりも、私のことを見捨てず、病院まで搬送してくれたことには感謝している。立ち入り禁止区域で釣りをしようとしたらしいが、倒れてる人を優先して助ける良心を持ち合わせてくれていた。
本当に、私を見つけたのが、少しでも利口のある人物で良かった。
同僚の話によると、私は二日間意識を失っていたそうだ。
目が覚めた後も頭痛がひどかったが、私は覚えてる限りのことを起きしなすぐに書きまとめた。
そしてすぐに報告書を作り、支部局に入口の封鎖と、鎮守を要請した。
入口の封鎖は、物理的なバリケードと結界の構築を。これ以上、入り江に人が入らないために、私は要請した。
あの
場所はもはや、人間が入って良い領域ではなかった。
彼らには彼らのルールがあり、それに則って魂を循環させていた。その場所に本来、人が介入する余地はなかった。故に私は鎮守も要請した。
支部局はすぐに準備を進めてくれたようで、鎮守日が退院日と重なった。
当事者の一人として、私も立ち会うことになり、病院のロビーで待つよう命じられた。
「にしても、静かになって良かったわね」
ロビーの椅子に座っているとき、すぐ近くで二人のご老体たちが世間話を交わしていた。
「えぇ、えぇ。あのヤンチャっ子達ね。昼も夜もうるさかったから……でもどうしたのかしら」
「家にも帰ってないらしいわ。あんまいい噂聞かんから、どこかにふらっと消えたんだと言われちょうよ」
ご老体たちは薄気味悪そうに会話を続けていた。だが根底は、いなくなって精々した、だろう。そんな感情が滲み出ているような声色をしていた。
「イッくん、ロッくん、ハッくんね……子供ん時はええ子じゃったのに……」
ご老体は二人とも惜しむように話していた。
ちょうど迎えがきたので、私は迎えについて行った。
ご老体らが話していた三人組は、捜索願の出されていた松森イブキ、竹林ロウタ、梅木ハジメのことだろうか。疑問は浮かんでいたが、それを直接聞こうとは思わなかった。
「行方不明だった若者三人、目撃情報があったそうですよ」
現場へ移動中、支部局の職員が私に話してくれた。名前は平野だったか。
「松森、竹林、梅木の三人か?」
「えぇ、その三人ですよ」
「いったいどこで?」
「そりゃあ、ね」
平野はわざとらしく笑った。
海岸沿いの道路、私の目は自然と海に向いた。
「深夜に松林と竹林が、いつも通り騒いでいたそうで、立ち入り禁止区域まで行ったのをタクシーの運転手が見ていたそうですよ」
「梅木氏は?その時はいなかったのか?」
「彼は二人が帰らなくなって、一人で捜索したそうですよ。噂を知ってた人が梅木氏に話したそうで、彼も同じ道を辿ったでしょうね」
絶句。
数秒、言葉がなにも思いつかなくなり、結局ため息が漏れた。
「そこまで調べ尽くして尚もうちに請願が来たのか?」
「我々の本分は、そこではないですからね」
言葉こそ理由を説明するかのようだが、平野は私に同調を求めるように答えた。
彼の言い分には私も同意見だったので、肯定の意を返した。
我々はあくまで怪異の探索員だ。そこに怪異や怪異に関連する事象や環象を調査し、記録をするのが仕事だ。
警察の捜索先に怪異が出没するおそれがあったから我々に話が来た。ただそれだけのことだ。
私たちが現場に到着すると、既にバリケードの設置は終わっていた。
「鎮守の準備も整いそうです」
「そうか、ありがとう」
私は鎮守の作業を静かに見守っていた。
宮崎県。海と山に囲まれた土地。
自然と共にあるこの場所は、神や怪異という存在が身近にあった。
おそらく大昔から住んでいる地元の熟年者や大人はその意識が残っているままで、若者たちはその意識が比較的薄かった。現代では怪異の実在を秘匿しているが……
怪異たちは、彼らの掟の中で、魂を循環させていただけに過ぎない。それなのに、領域に無断で踏み込んだのは、私を含む人間側の無礼だ。
「お疲れ様でした。せっかくなので観光でもどうでしょう。どこか寄りますか?」
鎮守の儀式が無事終わったあと、平野が聞いてくれた。好意は受け取りたかったが、まだ調子が戻っていなかった。
「明日よろしく頼む。モアイ像や鬼の洗濯板とか、一度は見てみたいな」
平野は是非と答えてくれた。
南郷のホテルまで送ってもらったあと、私は自分の部屋ですぐに眠ってしまった。目が覚めたら、また夕方になっていた。
私はホテル近くの浜辺に訪れた。浜辺の波は穏やかで、家族連れの観光客が楽しくはしゃいでいた。
私は波際で座り、海を眺めた。夕日が穏やかに海を朱く輝かせていた。入り江の光景とは別世界ともいえる、穏やかな景観だった。
私はふと、手記の書き手のことを思いだした。あの手記の書き手も、結局身を投じたのだろう。この世の中の眩しさや暖かさに耐えられず。
果たして魂は、海坊主たちによって、黄泉まで運ばれなのだろうか。
そう考えてしまうのは、この夕日の海のせいだろうか。
「いずれにせよ、手前らの都合で利用されちゃあ、溜まったもんじゃありませんなぁ」
私は海に向かってぼやいた。
遠くで鯨の鳴き声が聞こえた気がした。
中学生だったか、高校生だったか。
夏休み、祖父母は僕のことを車でいろいろな場所に連れて行ってくれました。
どこかに観光に来た時のこと、木の板で神社らしき案内板を見つけました。
やや急な石段だったので僕ひとりで行くことにしました。道中どんな道だったか覚えてません。行き着いた先は、大きい石がたくさん転がった海岸でした。
近くまで海を眺めようと十歩くらい近づきましたが、急に溝内がキュッと締める感覚がして立ち止まりました。ひとりぼっちの時に感じる寂しさのような……
結局、僕は引き返すことにしました。なにせ人が一人もいないような場所だったので、転んで頭を打ったりしても誰も助けに来ないかもしれなかったので。
のちに祖父から、その場所が船旅を祈るための場所だと聞きました。波なんとか神社みたいな名前だったと思います。
けどその場所の明確な経路はもちろん、周辺の地図すら記憶から抜け落ちていて、地図アプリとかで探してもピンとくるものはありませんでした。
もしかしたら夢で見た景色だったのかもしれません。
今回の話はそんな記憶をもとに書いたお話でした。
啝賀です。
海鳴りの訴え、お読みいただきありがとうございました。
種浦メイさんの第二作です。海と音と祭に関するホラーでした。ホラーって難しいね。
追い詰められた人は、周りに味方なんていないと思い込んで、助けを上げる言葉を発することができなくなる。周りもどうすれば良いかわからず、腫れ物のようになることもしばしあり、悪循環。
こういうとき、どうすれば良いのでしょうね。僕はもう、わかりません。ただ、痛みを表現することしかできませんでした。
皆様に良きことがあればとただ願うばかりです。
あと、もし今回のお話を気に入っていただけたなら、出来れば次の作品も読んでいただけると嬉しいな、なんて……
また次のお話でお会いしましょう。
啝賀でした。
願うばかり、とは……




