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強面虎獣人と甘い恋  作者: Latte


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三人兄弟の長女として育ったアリスの日常はとても平凡なものだった。窓の外には菜の花が咲き、鳥のさえずりが聞こえる。家族と一緒に朝食を囲み、母と畑で野菜を収穫し、弟や妹と笑い合う穏やかな日々。村の人々もアリスに親しみを持ち、子どもたちは「アリス姉ちゃん」と慕い、お年寄りは「手伝い上手だね」と声をかける。貧しい村だけれど人は温かく、アリスはこの場所が大好きだった。


村の祭りの日になればアリスの焼くベリータルトやパンは大人気。みんなが集まる広場で、アリスは子どもたちに絵本を読み聞かせ、村の人々と笑顔を交わす。そんな温かな日常がずっと続くと思っていた。


しかし、その年の冬は例年にない大雪に見舞われ、村は災害級の雪害に苦しむこととなる。家々の屋根は雪の重みで潰れ、畑や貯蔵庫も被害を受け、食料や燃料が底をつきかけた。村人たちは助け合いながらも、寒さと飢えに耐える厳しい日々を過ごす。


春になっても被害の爪痕は深く、村の生活はさらに困窮。アリスの家族も例外ではなく、弟や妹のために何かできないかと悩む日々が続いた。


その年の雪害で被害を受けた村の娘たちを対象に、王宮では特別に働き口が設けられた。王都から役人が村を訪れ、「困窮する村の若者を王宮で受け入れる」と告げる。アリスは長女として家族のためになればとその話にすぐ食いついた。


国王は竜人でありながら、種族を問わず国民に寄り添う人格者として知られている。雪害の被害を知ると、すぐに救済措置を打ち出し、被災した村々に食料や物資を送り、働き口も積極的に用意した。


出発前夜、父は無言で手作りの御守りをアリスに渡し、母は「体に気をつけるのよ」と優しく抱きしめる。弟と妹は「お姉ちゃん、寂しいよ」と涙ぐみながら抱きついてきた。「お母さんとお父さんの言うことを聞いて、きちんと勉強もするのよ。みんな、愛しているわ。」


出発は早朝、一週間は馬車に揺られて王都を目指す。



王都に着いたアリスは、見慣れない建物や人々の多さに目を輝かせる。市場の賑わい、遠くから聞こえる鐘の音、そして初めて見る獣人たち。豹の顔や尻尾を持つ役人、狼のような顔立ちの商人、猫のようにしなやかな女性たち。


(みんな普通に暮らしてるんだ。田舎じゃ考えられない光景……)


圧倒されながらも、好奇心いっぱいで市場を歩いていた。色とりどりの果物や香辛料の香り、獣人たちの姿に目を輝かせていると、不意に誰かにぶつかられ、手に持っていた包みと財布を落としてしまう。


「あっ……!」


慌てて拾おうとした瞬間、ひったくりが財布を持って走り去る。アリスは呆然と立ち尽くす。


(ど、どうしよう!!スリなんて村にはいなかった!!だ、誰かに)


アリスはどうしたらいいか分からず、オロオロするばかり。すると、群衆の中から一際目立つ大きな影が現れる。


虎獣人の騎士。鋭い琥珀色の瞳と、額から後頭部にかけてなびく黒と金の縞模様の髪。耳は虎そのもので、ピンと立ち、周囲の音に敏感に反応している。がっしりとした体格で、筋肉質な腕や広い肩は鎧の上からでもはっきりとわかる。尻尾は太く、無意識にゆっくりと揺れている。


その顔立ちは精悍で、口元には薄く傷跡が残る。無愛想で近寄りがたい雰囲気だが、琥珀色の瞳に吸い込まれそうになる。


「大丈夫か?」


低く落ち着いた声で少しの心配をなじませつつアリスに声をかけた。


「さ、財布が盗られて。あそこには当分の生活費が入ってるんです!!」


虎獣人の騎士は一つ頷くと素早くひったくりを追いかけ、あっという間に財布を取り戻してくる。

アリスに触れないよう財布を手渡されたと思ったらすぐに顔を隠すように背を向けてしまった。


「あ、ありがとうございます!!お名前だけでも教えていただけませんか?」


「いや、俺は、その」


助けてもらったので当たり前のようにお礼を言うと何故か相手は困惑しだした。


「?」


何故慌てるのだろうとアリスは首を傾げて彼を見上げた。まっすぐ見つめるとさらに困惑する。


「俺が怖くないのか?泣かれもせずお礼を言われるのなんて初めてで・・・」


ボソリとつぶやくように言われた言葉に驚いてしまう。


たしかに強面だし、身体が大きくはあるが一つ一つの仕草に声に相手を気遣うような優しさが滲んでいる。


「怖くなんてありません、助けてくださり本当にありがとうございました。」


ガバッと頭を下げるとフッと笑みが溢れる音がした。


「こちらこそ怖がらないでくれてありがとうな」


顔を上げると不器用だけれど温かい小さな笑顔。


(あっ、やばい)


自分でも単純だってわかってる。でも落ちてしまった。止められない。脈が早くなって、顔に熱が上る。


(恋に落ちた。な、名前だけでも)


慌てて名前を聞こうとするも彼はもう背中を向けて人混みの中に消えていってしまった。

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