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等価交換


「俺は願ったり叶ったりだけどよ……。ノクトに怒られたりしねぇのか?」


わたしとセツナから研究についての提案をされたアベラルドさんは、その提案を受け入れようとするものの、不安げにしていた。


「そんなにノクトが怖いのですか?」

「怖いっていうより、めんどくせぇんだよ……。アンタのことになると、マァジでだるい」


 辟易とした様子で頭を抱えるアベラルドさんに、わたしは安心させるように言う。


「では、わたしは自分の血や髪といったものを対価にしてアベラルドさんから情報を得るので、アベラルドさんは異世界人の研究ができることへの対価としてお金をわたしに払うのはいかがでしょう?」

「はぁ?」

「それで、お互い様になりますし、わたしから提示したことですから、アベラルドさんが不安に思っているようなことにはならないはずです」


 これが、セツナがわたしに話した案だった。

わたしの髪や血液を媒体として、異世界人の研究ができる代わりに、対価としてその希少性に応じた額をもらうという形の契約を結んでもらうというものだ。そしてその契約をわたしから提示することで、“わたしが望んだもの”であることの証明になる。セツナは、「夕桜様が望んだことを、ノクト様が止めるはずありませんから」と断言していた。


アベラルドさんとしても、あくまでも等価交換に成り得る形になったことに安心したらしい。それなら、と渋々ながらに頷いてくれた。


しかしそうして彼から受け取った対価は、わたしの想像の倍くらいの額だった。わたしが研究材料となる血や髪を手渡して、すぐ渡された額が、だ。

 受け取るわたしの手が思わず震えたものの、アベラルドさんはとても満足そうに笑みを浮かべていた。

 セツナもその額が当然とでもいうかのように、普段と変わらぬ立ち居振る舞いでいる。


「あの、まだ研究結果でていないのに、こんなにいいんですか……?」

「それは希少性の高い材料提供分の額だ。結果次第ではさらに上乗せするぜ?」


 ひっ、と思わず声が漏れる。元奴隷には大金以上の大金で恐怖すら感じた。

 自分で持っておくにはあまりにも恐ろしすぎて、全てセツナに預ける。彼女は、大金を預けてもらえるという意味の信頼として受け取ったようで、どこか誇らしげにしていた。


 その後わたしは大金が手元にあることに気が気じゃなかったため、セツナに相談したところ、国一番の堅牢性を誇る魔王城の金庫に預けたらどうかと提案してきた。

 聞くと、どうやらわたし専用の金庫もあるらしい。

それはもう迷うことなく、そこを使わせてもらうことにした。

そこは金庫というより、頑丈な鉄骨倉庫のようだった。さらにノクト直々の保護魔法がかけられているという。

立ち入ることすら勇気がいって、セツナにあとはお願いし、わたしは少し遠目にそれを見守った。


 そうして自身が自由に使える、自分自身のお金を十分すぎるほどに手に入れたからか、その日見た夢は自身の本当の価値を知らしめるものだった。


 ――わたしはこの世界において“異例”なだけであって、“特別”ではないのだ。


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