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シロイルカのぬいぐるみ⑩

 体育の授業は今日もマット運動。


 わたしはななはちゃんと一緒の班だった。


「ねえ、えりかちゃん」


「なあに」


「えりかちゃん、シロイルカのぬいぐるみの持ち主のこと気になってたでしょ」


「え、うん……そうだよ」


 わたしはマットの上でおどろいて体育座りのバランスが少し崩れた。


 ななはちゃんから、シロイルカのぬいぐるみの話になるってどういうこと?


 そんなわたしにななはちゃんは勇気をふりしぼるかのようにマットに強く手をついて言った。


「あの、シロイルカのぬいぐるみは、わたしのでね。いろいろあって捨てたくなっちゃったの」


「いろいろ……?」


 あんまり突っ込むべきではないとちゃんと思っていたのに、なんでか知りたい雰囲気を出しちゃってたみたい。ななはちゃんが続けた


「このまえ、算数のテストが返されたでしょ」


「うん」


 返された。悪かった。だから補講になって、ななはちゃんもおんなじだった。


「そのテスト、悪かったからお母さんとお父さんに怒られちゃうと思ってね。絶対に見つからないところに隠そうと思ったの」


「それって……」


「シロイルカのぬいぐるみの中」


「中……たしかにぜったいみつからなさそうだね」


「うん。見つかる気配すらなかったの。だけどね、わたしの好きなぬいぐるみにね、わたしが隠したテストがずっとあるの。それが辛くなっちゃって。テスト隠すのもあんまりよくないし、テストが悪いのを、ぬいぐるみに押し付けちゃったような気がして……シロイルカのぬいぐるみを見るだけで苦しくなったの」


 ななはちゃんは、私にマット運動を教えてくれたりして、やさしい。


やさいいからきっと、悪いテストをぬいぐるみに抱え込ませちゃって、苦しいきもちになったんだ。


 わたしは、そんなななはちゃんに言った。


「わたし、お母さんに見せたんだけど怒られちゃった」


 ななはちゃんはマットの縫い目に沿って指を動かしてから、笑った。


「わたしもね、今日ちゃんとお母さんとお父さんに言おうと思う。ぬいぐるみからテスト出して。怒られちゃうと思うけど。でも、シロイルカのぬいぐるみはわたしの宝物だし。その中に隠すのは間違ってた」


 わたしはちいさくうなずいた。


 集合のホイッスルを先生が鳴らした。


ななはちゃんはテストが悪くたって、やさしいよ。そう言いたかったし、マット運動を教えてくれたお礼だってちゃんと言いたかった。


でも、ホイッスルが鳴って、みんな動き出した。


だから言いそびれちゃった。だけど、あとで絶対言おう。わたしは、シロイルカのぬいぐるみのやさしいさわり心地を思い出しながら、そう決意した。

お読みいただきありがとうございます。更新が遅くて本当に申し訳ございません。


また話がひと段落しました。


本作では、高校生のえりかが出て来る話も書く予定でした。

しかし、結構違う話にしたいなと思って、別作品の新作として書くことにしました。(同じくらい大切なものがわかる僕と、ぬいぐるみとパンツが大切な幼馴染 https://ncode.syosetu.com/n8361gi/)まさとが主人公で、それに伴って本作のまさとの苗字を変更しました。えりかも出てきます。


小学生のえりかたちが活躍する時がきたら、またこちらに投稿させていただきます。



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