Sランク冒険者フォー
え、えええ?
なんだこれは。
実は俺は残念極まりないやつだったのか?
耳風が一瞬でばれている上に効果まで知られているとなると、少しだけあった自信が風に吹かれた砂のように去っていくな……。
しかしそうなるともう俺の正体はばれていると認識すべきか。こんな一歳児がいてたまるかという。
だとしたらどうするべきか。転生者の存在を知っているとなると、なんとかして話を聞いた方が後々役に立つだろう。そうでなくてもSランク冒険者の話は是非とも聞いてみたいものだ。
つまり問題は俺じゃなくて、母さんたちなんだがな。
すでに身の安全とか言っても仕方がない状態なので、唯一の問題が行くにしてもどうしてこの家を抜け出して森に向かうのか、だ。
「どうしました?」
ふと、耳風からコルトンの美声が伝わり、肩を跳ね上げる。
そうだった、こっちの問題もあったか。
実は、耳風は聞くことができても反対に伝えることはできない。名前からして当たり前ではある……このくらいで不愉快になるSランク冒険者ではないと思うが、結果として放置しなくてはならない。
母さんたちがいつ寝るかわからないから時間はかかりそうだし、耳風さえ察知されなければ良かったものを。
なんとかして話しかけられはしないか……口の中でぽそりと口風、と呟く。そしてポソポソとすみません、事情がありまして……と申し訳なさげな詫びをなんとか風で伝えられやしないか。試行錯誤する。
振動を逃さず、風で運ぶーーそして風は散った。
いや、無理だな。
一か八かでできるものじゃない。
耳風を初めて使った時は母さんの件で切羽詰まっていた。あれに匹敵するほど俺を追いつめるとなったら暴走コルトンでももってこいという話だが……寛大なSランク冒険者はこのくらいでは仮面笑顔を外さないらしい。
「返事なしですか……やれやれ、私は嫌われているのでしょうか。それとも……できない、ですかね」
おお。
それだ。勝手に察してくれたぞ。さすがだ。
「どうなんでしょうね……とりあえず、来てくれるのでしょうか?私、待つのは得意ですけど、来ないとなるとさすがに虚しさを感じずにはいられませんね……とりあえず、明け方までにしかここにいられませんよ、狩人が来てしまいますからね」
さすがに両親も、そこまで精力余っていないはず……コルトンの言う通り、アルは明日仕事があるしーー狩人連絡網はシビアだった。
思った通り、両親は一時間ぐらいで就寝した。念のため寝息がしてからも十分程度待ち、むくりと体を起こす。
フェアの寝顔をしばらく見つめてからこっそりとベッドから降りーーぎしりと床が音を立て、俺は心臓もぎしりと音を立てた気がしたーー居間に向かった。
服は寝室にあるのを忘れてしまっていたので、寝巻きのまま家を出ようとして、ふとあるものが目に留まった。
できたら、聞いてみるか。
俺はそれを持って今度こそ家を出た。
外は思っていたほど寒くなかった。三月はまだまだ寒いと思っていたが。
俺は森に向かって歩き始めた。村のはずれにあるのでアルなら五分もしないうちについたろうが、この体ではその三倍はかかる。
「うー、うー、浮風?」
そう、何気なく、本当に何気なく唱えた瞬間、俺はへっ、と間抜けな声を出した。体がふわりと浮いたからだ。
俺の中で、魔法といえば、というものが幾つかあるがーー友人がよく言っていたテンプレというものだろう。テンプレートを略した、物語中での決まったパターンをいうらしい。
そういえば異世界ファンタジーでは、クッころ女騎士?や犬耳奴隷?がそれに当てはまるらしい。よくわからないが、犬耳というのは獣人のことだろうか。前者は普通に意味がわからない。クッころ?
俺の場合、空を飛ぶ、というのが魔法のテンプレとして刻み込まれているのだ。
そしてどうせできないと思い、唱えてみたらできてしまったというのだから笑うしかない。
俺は宙に浮きながら興奮を抑えられないでいた。
まさか飛べる日がくるだなんて、思ってもみなかった。風で飛んでいるので下から風が吹き上がってくるが、それも目を開けられないほどじゃない。
俺はすっかり理性をドブに捨てた。そしてこのまま森まで飛んで行こう!と、森方面にと風に念じたーー俺は急激に加速した。
「はっ……!?」
待て、まずい!
木にぶつかる寸前、加速する速度の中で辛うじて念じ、静止に成功した。
冷や汗が一気に吹き出た。
一歳の俺が叩きつけられてたら確実に死んでた。俺は震える手で理性をドブから救い出した。
俺は今後一切ーー少なくともコントロールが確実になるまで絶対に使わないと誓った……パチパチパチ、と拍手の音が聞こえてきたのはその、直後だった。
「お見事ですよ。さすがは転生者ですね」
……驚きはしない。いや、速度はともかく、ちゃんと目的地まで運んできてくれた風には驚きだが。
ばれていない、という超希望的観測が外れたのは残念でもなんでもないな、ということだ。
「あはは……ちょっと、失敗しちゃったんですけどね」
取り繕うように愛想笑いを浮かべつつ、コルトンの周りをさりげなく観察する。過剰防衛だろうがなんだろうが用心に越したことはない。ちなみに俺は未だ木の上にいるので、怪しいと思ったら誓いなど忘れて逃げるつもりだ。そっちの方が死ぬ確率は低そうだ。
「おや、まだお疑いで?用心深いのはいいことですが……あまり、露骨に警戒しては人を不愉快な気持ちにさせてしまいますよ」
「す、すみません……僕、そんなに露骨にしていましたか?」
最近心臓を酷使し過ぎじゃないか心配しつつ、問う。
コルトンは相変わらず眩しい笑顔を浮かべながら言った。
「私からしたら、ですがね。あなたが私を観察するのに使った魔法、あれもそうですよ。心得がそれなりにある者からしたら明らかです」
「そうですか……」
世界で通用すると自惚れていたわけではないがーーいや、Sランク冒険者に使ってしまったこと自体、俺の慢心の証か。さすがに少しショックだな。
「……それより、そろそろ降りて話しませんか?」
「あっはい」
慎重に木の枝を伝い、飛び降りる瞬間、着地点に風の緩和剤を作る。もちろん失敗をしたところで問題のない量のーーこういう負け犬思考がいけないのだろうか……。
「……」
「……」
「……こんばんわ」
「ええ、こんばんわ……今夜の月はなかなか美しいと思いませんか?」
「そうですね、美しいですね」
と口では言いつつ、内心では疑問を呈していた。この……満月二日前のような月が?
こう……もやっとする感じの形だ。
この世界ではこれが美しいとされるのか。
「それで……僕を呼び出した要件とは……?」
恐る恐る本題を切り出す。
「おや、せっかちですね。もっと心に余裕を持つことも必要ですよ」
コルトンはやれやれ、とでも言いたげに首を振ったが、その顔は相変わらず笑顔だったので不気味きわまりない。
「まあ、いいでしょう。私とてあなたと世間話をしにきたわけではありませんからね……勇者、という存在は当然知っていますよね?」
「はい」
「よかった。実は転生者たちは勇者に興味がない方が多くて……何人衝動的に半ごろ……ああ、いえ。とにかく、あなたが知っていてよかった。あなたは私にとってなくなってしまっては惜しい存在ですからね」
「……はい」
俺は転生者たちの末路については考えないことにした。半ごろってーーこんな顔をして、まったく恐ろしい。勇者に興味がなくて半ごろ?こいつ、大丈夫か……?というか、俺の身の安全大丈夫か……?
「私はね、今までで幾人の転生者と会ってきました。すぐに分かりますよ。あなたは年に似合わない理性を見つけたからですがーー転生者というのはどこか人を見下しているんですよ。全部が全部そうではないでしょうから、私が見つけたのはほんの一部の転生者でしょうけども。でも、少なくとも私が会ってきた転生者たちは優越感や傲慢さを隠そうともしない……勇者の器どころではありませんでした。聞いた話によると、間違って死んだから神にちーともらった?死に方が面白かったからちーともらった?舐めてるんですか」
コルトンは笑顔で舌打ちするという器用な技を魅せ、ところでちーとってなんですか、と聞いてきた。
え、なに?ちーとって何なんだ。
チーターじゃなかったか?
そういうと、コルトンはなるほど……と頷いた。
「いえ、でも間違って死んだのならチーターぐらい……」
「は?転生者たちのはた迷惑なチーターのせいでどれだけの人が被害に遭っていると。カスのような命一つで賄えるものですか」
「かす……いえ、ところで間違って死んで転生って、僕の時とは違いますよ」
「ほう」
そもそもあの神が間違って人を死なせてそれで転生だなんてーー俺の時は神が魔王退治のために殺した……いやあるな、ある。
「僕は魔王を倒す勇者の手助けをしろと」
「勇者!やはり勇者はいるのですね!生まれてきたのですね!!」
「は、はい」
突然笑顔が輝きを放ち始めたので、俺は一歩下がった。
「では、やはり!やはり彼ですね!?あなたの弟の、フェアレス・デルタ様!」
様づけし始めた。
「そうですねー……コルトンさんは、転生者がお嫌いではありませんでしたっけ」
特にチーターを手に入れたフェアのことは。
「ええ、嫌いですよ。あなたのことも好きではありません。ですが転生者でないなら、あんな膨大な魔力を持った、勇者の卵を好かないはずがないでしょう!」
「えっ」
「……え?」
この人、フェアのことは見破っていないのか?俺の時はあんなに早かったのに。少し見れば零歳の知能じゃないとわかるだろうに、接点が少なかったせいか。
「なにか?」
「いえ……フェアのことは転生者だとは思わないんですか?物凄い魔力じゃないですか」
「ははは、ご冗談を。私があの時出していた魔力は、たとえ見習い魔法使いでも十分気づくことができるほどですよ、いくなんでも、あれに気がつかない転生者はいませんよ。黒髪で一瞬疑いましたが、やはり、違いますね」
「そうですねー……」
ばれてないのだったらわざわざこちらから言うことはないな。この人は転生者でないほうが親切にしてくれそうだし。
だが、この言い方からすると、
「魔力を漏らしたのはわざとだったと?」
「ええ、さすがに私も鬼ではありませんからね、まだ右も左もわからない幼児を親元から引き離すことはしませんよ。立ち寄った時はどうせ転生者だろうとは思っていましたが、本当に勇者様と出会えるとは思ってもいませんでした。ああ、神よ、この幸運に感謝します」
「ははは……」
コルトンは暗い空を見上げ、手を広げた。
輝く笑顔で森を照らそうとでも言うのかな……。
「それで……なんの話でしたっけ。僕を呼び出したのは転生者と確かめるためだけですか?」
「まさか。勇者様を支えなさいと言おうとしたのですが、わかっているのなら結構ですよ。もうあなたに用はありませんのでどうぞおかえりください」
「はあ……」
本性が出てきてるなこいつ……。
「あ、じゃあ僕はこれで……」
「待ちなさい!言い忘れていました。これは昼間にも言いましたが、勇者様がこんな辺鄙な田舎で満足に教育を受けられるはずがありません。これを」
コルトンはそういって、俺の頭ぐらいの袋を渡してきた。
俺はそれを受け取った瞬間、重さに耐えられずにそれを取り落とした。じゃら……と音がした。
「これ、お金ですか!?」
「ええ、王都にある、魔法学校の入学金です」
「魔法学校?」
なんだかとてもワクワクする響きだ。
「正確には魔法だけでなく、武術や魔物の殺し方なども教わりますが……この学校の卒業生はほとんどが騎士と冒険者になります。その上で一番大切なのはやはり魔法ですからね」
「なるほど……」
袋を覗き見る。ざっと百はありそうだが……。
「こんなに必要なんですか?」
「……ええ、嘆かわしいことに、魔法学校はいまや腐った貴族どもの巣窟です。入学するだけで七十五ゴールドかかるのですよ」
それからコルトンは、ああ、あなたの分も一応入れておきましたからね、と興味なさげに言った。
「ありがとうございます!」
俺は精一杯腰を折った。情けない限りだが俺がこんなに稼ぐことができるのにどれだけ時間がかかるか。
この世界の金は、低い単位順にブロンズ、シルバー、ゴールドで、百シルバーが一ゴールド、百ブロンズが一シルバーとなっている。まさかいきなりブロンズ、シルバーを飛ばしてゴールドを見るとは思わなかったが、それでもきっと大変な価値があるのはわかる。
冒険者の収入がどれだけかはわからんし、そもそもいつから冒険者になれるのか……。
「あ、そういえば、魔法学校っていつから入学なんですか?」
「十二からですよ。入学時、魔力検査によってクラス分けなどされるようですが……勇者様は当然最上級のSクラスでしょうし、あなたも転生者にしては少ないですが生徒としてならまだ多い方と言えますので、問題はないでしょう」
「なるほど……まるで冒険者のランクのようですね」
「冒険者は強さによってランク分けされますよ、学生のおままごとと同じにしないでください」
「失礼しました」
やっぱりSランク冒険者のコルトンは化け物ということか。
「じゃあ冒険者って、いつからなることができるんですか?」
「冒険者ギルドは、いつでも強きものを歓迎していますよ。いくつでも問題はありません……が、勇者様はまだまだ未熟です。あなたが支援しなくてはなりません。もし勇者様に傷一つ付けたら許しませんよ……?」
「もちろんです!」
即答した。フェアに怪我をさせないのは当然だし、何よりコルトンの笑顔が怖すぎた。
「そのためにあなたにも強くなってもらわねば困りますよ?転生者はステータスがいつでも見れるそうですが、どうですか?」
「見れますが……もしかして、いつでもでなければ見れるんですか、ステータス板?」
「あなたがたのみの特権だとでも?教会で見ることができますよ、神の力でね」
「知りませんでした……」
なんの根拠なしにこれは転生者のみの特権だと思っていたが、そうか、考えてみれば当然だな。知らず知らずのうちに俺は自分が特別だと思ってしまったのかもしれない。
俺がこの世界で唯一アドバンテージになるのは地球での知識だけなのに。
「じゃあ、開いてみますね」
コルトンに声をかけ、心の中でステータスオープン!と唱える。
--------------------------------------
Name フェイガーデン・デルタ
Age 1
Level 1
MP 560/650
HP 20/20
Skill 風魔法 Level 4 雷魔法 Level 3
SpecialSkill ??
--------------------------------------
さっきと随分変わっているな!
まずMPが50増えているし、風魔法のレベルも1上がっている。
咎められてから耳風は解除しているのでもっと回復しているはずだがーーまさか、浮風のせいなんじゃ……。
もう本当に使わないぞあれ!
大体の数値を、いや少し本当の数値より少なく告げたが、それを聞き、コルトンはなんとも微妙な顔をして黙ってしまった。
「あの、僕のステータス、何かおかしいでしょうか」
「いえ、中途半端なステータスだなと思いまして……」
「ええー……」
「とても転生者だとは思えないステータスですね」
貶されているのだろうか。笑顔から感情がイマイチ読み取れない。俺は曖昧に流して、予てかよりの疑問をぶつけてみた。
「はは……いえ、増え方や減り方がよくわかっていないので、うかつに練習できないといいますか」
「魔力は使っているうちに増えますよ。でも、燃料の悪い魔法を使うと大きく減ってしまいますので気をつけてください。もっと燃費のいい魔法を使えばいいものを、魔力を増やそうとばかり思うのはやめてくださいよ?」
「……体験談ですか?」
「ええ、一度だけ魔法学校に講師として行ったことがあるのですが、そのとき見た汚い魔法と言ったら……」
「大変ですね……」
「あと、魔力を使い切ると死ぬのでやめましょうね」
「え、死ぬんですか!?確か魔力を使い切ると体力〜って話じゃありませんでした?」
「あなたの体力だとその通りでしょう?」
コルトンは笑顔で首を傾げた。怖い。
「その通りですけどね……だからって省略しないでくださいよ。将来もっと増えますから」
「まあ、五歳にもなったらそれなりにはなるでしょうが……あなた、魔力はほどほどにあるのに体力は全くですね」
「体力って減ったら死ぬって話じゃないですか。怖くて運動できないんです」
「違いますよ……あなた、勘違いしていますよ。体力、と名義上称していますが、正確には耐力とでもいいますか……有り体に言えば死にやすさですね。体力が多ければ死ににくく、少なければ死にやすいです。体を鍛えたらもちろん死ににくくなるので体力は増えますが、疲れたからって死んだりしないでしょう、減りませんよ」
「へー……!」
これはいいことを知ってしまった。なんて親切な笑顔なんだ。
「体力は年をとるにつれ、増えていきますが、大人になればなるほど体は丈夫になりますので、同じ怪我をしても減る数値が違うのですよ。つまり、減りにくくなります。体を鍛えると当たり前ですが、同世代に比べ数値が減りにくく、しかも母数も多いというわけです。わかりましたね?ちゃんと体を鍛えるのですよ?」
「はい、ありがとうございました!」
もう一度感謝を込めて腰を折る。こんな法則があるだなんて知らなかった。不気味な笑顔に乾杯だ!
「もうだいぶ時間が経ちましたね。寒くなってきましたし、そろそろ帰りなさい……いえ、あなたは関係ありませんでしたね。でも夜、寝ないと背が伸びませんよ」
「いえそれはコルトンさんが呼び出したからですが……関係ないって……」
気になる言い方だ。
「失礼しました、寒さに関係ないと言ったつもりが、分かりにくい言い方になってしまいましたね」
「え?いえ、寒さに関係ないってどういう……」
確かに俺は寒さを感じていないわけだが……普通にこの笑顔が寒がりってだけだと思う……。
「え?ですからね、持っているでしょう、火の魔石」
「は」
「えっ……知らないで持っていたんですか?あなたが服に入れているそれですよ」
言われてパジャマの胸ポケットに入れているものを出すーー母さんが毎日出して眺めているあれだ。幸運村長の恩恵。見た目赤い透明な石だが、これが魔石?
これはなんだと聞こうと持ってきたのをすっかり忘れていた。
「これ、うちにたくさんあるんですけど……」
「まさか!それほど純度の高い魔石、いくらすると思っているのですか!」
「知りません……ていうか、魔石ってなんですか……?」
「知らないで持っていたんですか!いいですか、魔石というのは魔法使いが魔力を込めて作るか、魔物を倒して手に入れるかの二択です。しかし、魔物から取れる魔石はほとんどが濁っていて売り物になりません。ですのであなたが持っているその魔石はまず魔法使いがつくったもの、しかも相当高位な魔法使いですよ。私でも作れるかどうか……」
「コルトンさんでも……!」
村長はいったい何者なんだ!
俺がこれを拾い始めたのは村長に弟子入りした、本当にその当日だぞ!?
「魔石は透明であればあるほど価値が増しますが……この純度だと、十ゴールドは行きますよ……?」
「ゴールド!!」
そっ、村長ー!!
「あっ、じゃあこれお返ししますね」
ゴールドの入った袋を持ち上げる。重い。
コルトンはかすかにムッとした様子だった。
「私はこれでもSランク冒険者です。これくらいはどうってことありませんので受け取ってくださって結構ですよ。もしかしたらなにか不測の事態があるかもしれませんし」
「そ、それなら……」
俺は好意に甘えることにした。せっかくの魔石を売ってしまうのももったいない。
一番の理由はこの笑顔は意外とキレやすいと分かってきたからだがな……。
「魔石って他に何かできたりするんですか?」
「ええ、魔法の補助など、と言うよりほとんどがそれに使われますね。あなたのように火の魔石を暖をとるために使うなんて馬鹿な真似をする者なんていませんよ」
「知らなかったんです……魔法の補助って、具体的にはどんな?」
「知っているかと思いますが、魔法を使うにはスキルが必要です。ですので持っているスキル以外の属性魔法は使えません。ところが、魔石があれば他の属性の魔法も使うことができるのです。例えばあなたは火の魔石を持っているので火魔法を使うことができますね。使うと込められた魔力が減って、いつかなくなってしまいますがね」
「ロウソクみたいですね……」
また一つ賢くなった。本当に使い方さえあっていれば優しい笑顔だ。
「ああ!違いますよ、早く帰りなさい。明日フラフラになりたくないでしょう?私もいくら転生者とはいえ、幼児に夜更かしさせているのには罪悪感があります。さあほら、はやく」
「ええっ、わかりましたよ……」
今更何をそんなに急いでいるんだ。
俺はコルトンに引っ張られながら森を出た。森の入り口で話していたからすぐだ。
そしてコルトンはそのまま俺を家まで連れて行って、脱力したようにため息を吐いた。
「さあ、入りなさい。はやく寝るのですよ」
「はあ……」
俺は未だコルトンが、何かに追い立てられるかのように森を出たのが、腑に落ちないでいた。
「コルトンさん……」
「……先ほどまでは全く感じませんでした」
「?」
「ーー森の中から、視線を感じたのです。くれぐれも気をつけなさい。勇者様を、決してあの森の中に連れて行かないように。あの森にはーー何かが、いる」
今回長くなってしまいました。まあ、二週間更新なしの埋め合わせということで……。
800アクセス突破しました、ありがとうございました。