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「急にごめんね?あのあとどうなったのか心配で、いてもたってもいられなくて…。体調は大分良くなった?」
4歳児とは思えない滑らかな口ぶりで、心配そうに話しかけてくる東雲煌季。ガラス玉のような綺麗な瞳が、今にも泣きだしそうに潤んでいる。
見た目だけは完璧な美少年だ。年上のお姉さま方が見たら可愛さのあまり、その場で悶絶したのち思い切り抱きしめてしまうに違いない。
だが私は騙されないぞ。
見た目で判断してはいけない。彼は腹黒王子だ。幼い頃から、自分の表情や仕草が相手にどう映っているか分かった上で行動し、己の掌の上で相手を転がす才能を磨いていき、最後には凛を奈落の底に突き落とす恐るべき存在だ。
そう言えばゲームの中でも、出会ったばかりの城ヶ崎凛が体調不良で何日か寝込んだ時、東雲煌季が心配してお見舞いに行ったっていう過去話があったな。そこで彼の優しさに彼女がころっと落ちた…そんな経緯だった気がする。
ま、普通に考えて、こんな美少年が自分の見舞いに来てくれたら、どんな子でも恋に落ちる。
だけど彼が凛に優しくしたのは、自分に言い寄ってくる女の子たちをあしらう為の盾にするためだった。
凛は割と気の強い性格だし、ものすごく煌季のことが好きだったから、彼に近づく女の子たちの一切を、婚約者権限とか勝手に言いながら、時に汚い手も使いながら排除していってた。
その様を、高みの見物で何も知らないふりして振舞っていたのだ、この男は。
うん、最低だね。
おそらく今のこれが、それにあたるイベントなのかもしれないけど、残念ながら私はその手には乗らない。だって彼のおなかの黒さを知っているから。
誰が恋になんて落ちるものか。
私は心配そうな振りをする東雲煌季の瞳をじっと見つめると(その手には乗らないぞ!という想いを込めながら)、ニッコリ笑って見せた。
「ええ、大丈夫です。お母様が大事をとりなさい、と心配しすぎるせいで、なかなか部屋から出して頂けないだけです」
「そうなんだね。よかった!目の前でいきなり倒れたから、とっても心配してたんだよ。何か悪い病気なんじゃないか、って」
「ただの貧血です。心配してくれてありがとうございます」