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転生小説家は異世界でも執筆スローライフを謳歌する  作者: 藤白ぺるか@4/24『完全解呪のプリースト』1巻発売


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第1話 小説家は転生する

「がっ!? くはっ!? …………って、あれ?」


 俺の名前は芦戸未知郎あしどみちろう。三十五歳だ。

 ついさっきまで、次回作の原稿をパソコンへ打ち込んでいたはずだった。


 突然、胸を鷲掴みにされたような激痛が走り、椅子から転げ落ちるように倒れた――と思った次の瞬間には、真っ白な空間に立っていた。


 そして目の前には、金色の長い髪を揺らした男が立っている。背中には大きな白い翼まで生えていた。


「初めまして。私は世界と世界を繋ぐ『観察者』です。神などという大層な存在ではありませんが、その方がわかりやすいのであれば、そう呼んでいただいて構いません」


 ……コスプレか?

 一瞬そう思ったが、どうやら違うらしい。

 見た目だけなら確かに神や天使と呼ばれても納得できる姿だが――


「芦戸未知郎さん。あなたは特発性の心筋梗塞によって亡くなりました」

「あー、えっと…………マジか?」


 少しずつ記憶が戻ってくる。

 そうだ。俺は小説を書いていたはずだった。


「はい、本当です。よろしければ、亡くなった後の部屋の様子をお見せすることもできますが――」

「いやいやいや! そういうのはいいから!」


 俺は全力で首を振った。


「俺、死んだんだろ? なら、うん……それでいい」

「案外あっさりしていますね……」


 家族はいる。いや、いたと言うべきか。仲が悪かったわけじゃないが、特別良かったわけでもない。

 友人も多くはなかったし、小説家としての知り合いも、ほとんどネット上だけの付き合いだった。サイン会なんかも極力避けていた。

 別に外へ出るのが嫌いだったわけじゃない。ただ、俺の人生の大半が執筆に費やされていただけだ。


 だから、自分の部屋がどうなっていようと大して気にはならない。

 ……いや、嘘だな。

 正確には、部屋に残された物を見た親族がどう思ったかだけは知りたくなかった。

 なぜなら、あの部屋にはオタクグッズが山ほど置かれていたからだ。特にポスター類。

 あれはダメだ。

 理解のない人が見たら完全に変態扱いされる。

 いや、まあ実際、若干変態寄りのイラストではあったんだが。


 俺は小説家だったが、一般文芸の作家であり、ラノベ作家ではなかった。

 しかし、どのジャンルも幅広く興味を持っていたため、ラノベも読んだりしていた。

 その中で興味を持った作品のファンになったりもしていた為、こうしてグッズを買い集めたりもしていたのだ。


「――それで、俺はどうなるんだ? 天国か? それとも地獄か? まあ俺なんて地獄行きだろうけど」

「ふふ、おかしな方ですね。どちらでもありません。あなたは転生し、『アヴァンシア』という別世界で新たな人生を歩むことになります」

「えっと……そうなのか」


 最近は疲れも溜まっていたし、そのまま眠るように終わる人生も悪くないと思っていた。

 だが、どうやら休む暇もなく第二の人生が始まるらしい。


「あなたが転生するのは、剣と魔法の世界――と言えばイメージしやすいでしょうか?」

「本当にそんな世界があるんだな」

「はい。そして私は、転生前に加護を授ける役目を担っています」

「加護?」


 聞いた瞬間に何となく察した。

 要するに、転生特典みたいなものだろう。


「加護とは、あなたの考えている通り転生特典のようなものです」


 どうやら正解だったらしい。

 それに、思考も読まれているようだ。


「あなたが望むものを二つ。可能な限り叶えましょう」

「二つもか。ずいぶん気前がいいな」


 ――とは言っても、俺は異世界転生に憧れていた人間じゃない。

 ただ、小説を書いていたかった。

 小説を書いている時間だけが、俺にとって一番自分らしくいられる時間だったから。


 前世では健康を蔑ろにしていた。おそらく、それが死因に繋がったのだろう。

 だから欲しいものは、もうほとんど決まっていた。

 ただ、その前に一つだけ確認したいことがあった。


「異世界にパソコンはないよな?」

「ええ、ありません。中世ヨーロッパ風の世界、と考えていただければ」

「なるほど」


 まさに想像通りのテンプレ異世界だ。

 そして、それで一つ理解した。


「なら、紙やペンくらいは普通に流通してるんだな」

「はい。アヴァンシアではペンの他に、タイプライターを使って文章を書くことが一般的ですね」

「タイプライターか。ないよりはずっといい」


 そこで俺は少し考え、続けた。


「――小説家って職業はあるのか?」

「あります。ただし、あなたの世界とは事情が異なります。多くは女性向けの恋愛小説が中心ですね。ファンタジーやSF作品は非常に少数です。異世界そのものがファンタジーですから、そういった世界への憧れが薄いのでしょう」


 なるほど。

 俺たちがファンタジーに惹かれたのは、それが現実に存在しなかったからだ。

 だが、もし世界そのものが剣と魔法なら――それはもう日常だ。


「…………面白い。それだけ聞ければ十分だ」

「では、望みをお聞かせください」


 俺は頷き、答える。


「一つ目。簡単に死にたくない。病気をしない、健康な体が欲しい」

「問題ありません」


 これで健康は手に入る。

 なら、もう一つ。


「そして二つ目は――老いについてだ」


 俺は真っ直ぐ神を見た。


「年を取ることで見える景色もあるだろう。でも視力や筋力が衰えて、小説が書けなくなるのは嫌なんだ」


 そして、言った。


「だから、少しでも長く生きられる体が欲しい」


 俺はできる限り長く、小説を書いていたい。

 健康と長寿。

 この二つさえあれば、理想の執筆スローライフが送れる気がした。


「問題ありません。その二つ、叶えて差し上げましょう」

「ありがとう」


 自然と頭が下がっていた。

 神は穏やかに微笑むと、すっと手を掲げる。

 すると何か温かいものが体の奥へ流れ込んでくるような、不思議な感覚が走った。


「それでは、芦戸未知郎様の次の人生が、より良いものとなりますように――」


 その言葉が耳に届いた次の瞬間、視界は真っ白に染まっていく。

 意識がゆっくりと遠ざかっていく中で、俺は最後に思った。


 さらば、俺の前世。

 そして――よろしく、次の人生。

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