39話
声が響いていた。
静かな広場に。
ゆっくりとした歌だった。
男が歩いている。
石畳の上を。
コツ……コツ……
男は歩きながら歌っていた。
低い声。
どこか古い歌。
広場には誰もいない。
崩れた柱。
割れた石畳。
風が吹く。
歌は止まらない。
男は中央に近づく。
剣が見えた。
何十本も。
地面に突き刺さっている。
鎖でまとめられている。
風が吹く。
カチャ……
鎖が鳴る。
男はその前で立ち止まる。
そして歌を止めた。
「……へぇ」
しばらく剣を眺める。
一本の柄に触れる。
冷たい。
男は少し笑う。
「立派な墓だ」
誰の墓なのかはわからない。
だが
「悪くない」
男は石畳に腰を下ろす。
空を見る。
夕焼けだった。
男はもう一度歌い始める。
今度は少し小さく。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
歌は広場に響く。
誰もいない広場に。
しばらく歌っていた。
歌が終わる。
男は空を見る。
「いい場所だ」
その時。
足音がした。
振り向く。
少女が立っていた。
少女は少し驚いている。
「……歌?」
男は笑う。
「そう」
少女
「ここで?」
男
「誰も怒らない」
少女は少し笑った。
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
少女が空を見る。
「綺麗な夕日」
男
「いい歌日和だ」
少女は少し考える。
「もう一回歌って」
男は肩をすくめる。
「いいぞ」
男が口を開く。
その瞬間。
少女が消えた。
男は歌いかけて止まる。
「……」
風が吹く。
鎖が鳴る。
カチャ……
男は小さく笑う。
「じゃあ次の客に」
そして歌を続ける。
その瞬間。
男の姿も消えた。
広場には誰もいない。
夕焼けと風だけが残っていた。




